Point 3:Conversion therapyに適した症例
瀧内:冒頭で山ア先生から、「Conversionを狙って切除できる症例もあるが、palliative chemotherapyとして施行し、結果的に切除可能になった症例もある」という話がありました。次はプロコンから少し離れて、実臨床でconversion therapyを行っている症例、また検討すべき症例についてうかがいたいと思います。肝切除の適応基準は施設によって異なると思いますが、高橋先生のご施設はどのようにされていますか。
●転移が両葉にある症例など、判断に迷う症例は化学療法を先行させる
橋:当院では外科の肝臓グループ、大腸グループ、内科医によるキャンサーボードにおいて、肝切除が可能かどうかの判断をしています。これまでは「転移巣5cm以上、5個以上の症例は切除不能」と捉えていましたが、最近は化学療法の効果がよくなったので基準が若干緩くなり、切除可能かどうか迷う症例には化学療法を先行させることが多くなりました。転移が肝両葉にある症例などは、できるだけconversion therapyを行う方針です。ですから、外科医としては切除のタイミングを逃さないように目を光らせています。Bevacizumab併用例の切除も増えていますが、6週は休薬することになっているので、その間の1〜2コースはFOLFOXだけで投与しています。
瀧内:外科医からみて、Bevacizumabを抜かなければならないという煩わしさはありませんか。江見先生はどうされていますか。
江見:当院では、キャンサーボードで内科医と密に連絡を取り合い、切除できそうなところまで縮小したらBevacizumabを抜いてもらっています。大学病院は込み合っていて、なかなか手術スケジュールを組みにくいのですが、患者さんのためですので、タイミングを逃さないように気をつけています。
●脈管浸潤のある症例もconversion therapyのよい対象
瀧内:江見先生がconversionを視野に入れた治療を行うのはどのような症例ですか。
江見:両葉に無数に転移があるようなH3症例は難しいのですが、「複数個の転移があり、重要血管やグリソン鞘、胆管に浸潤している症例」は、肝臓外科と消化器外科とで相談して決めています。
瀧内:山ア先生はいかがですか。
山ア:内科側では判断できないので、当院ではconversionにもっていけそうな症例があれば、すぐに肝臓外科に相談して判断してもらっています。私も江見先生と同じく、肝静脈や門脈などの浸潤がある症例は、conversion therapyのよい対象だと思います。
橋:肝静脈に浸潤していていた腫瘍が化学療法の効果で離れ、右葉切除だけで済んだ経験があります。重要な太い脈管の周辺に浸潤している症例こそ、conversionを視野に入れたレジメン選択をしたいです。
●単独臓器の多発転移、複数臓器の転移でもconversionを目指せる
瀧内:それでは内科医の立場から、仁科先生はいかがでしょうか。
仁科:最近は肝転移単独、肺転移単独、2〜3個ぐらいのリンパ節転移であれば、conversionを目指せると思って治療を行っています。これらの症例でも、化学療法によって1割程度は切除が可能になってきています。ただし、多発転移の場合は切除後に7〜8割が再発するため、患者さんに再発のリスクが高いことを説明した上で同意を得る必要があります。また、単独臓器の転移だけでなく、肝臓と肺に転移があっても化学療法が奏効し、両方切除できた症例も経験しています。
瀧内:内科医としては、「どこかのタイミングで切除可能になる」という認識で治療と評価を行うことが大切だけれど、患者選択は難しいということでしょうか。
山ア:Palliative chemotherapyとして開始して、結果的にconversion therapyになっていたということのほうが多いですね。
江見:系統的切除後の残存腫瘍に対しては、ラジオ波焼灼療法などの局所治療を駆使することで、多臓器転移にならずに肝臓内でコントロールできた症例も経験していますので、局所治療を組み合わせるのも有用な治療オプションだと思います。
瀧内:現時点では、1st-lineでの抗EGFR抗体の使用経験がないので、今後いろいろな症例を経験していくなかでコンセンサスが形成され、conversion therapyに向いている症例の判断も、現場で自ずとできるようになると思います。