消化器癌治療の広場

第11回座談会 Pros and Consシリーズ Conversion therapyにおける第一選択薬  〜抗EGFR抗体の適応〜 2010年3月26日 帝国ホテル東京にて

Discussion

Point 2:抗体製剤の合併症と安全性

江見 泰徳 先生

瀧内:先ほど、「Bevacizumabを併用するとblue liver(類洞拡張)が抑制される」という指摘がありましたが、合併症あるいは安全性の観点から、抗EGFR抗体派の意見をお聞かせいただけますか。

江見:創傷治癒遅延を促す可能性があるBevacizumabは、術前は少なくとも6〜8週間は使用を控える必要がありますし、術後もいつから併用すべきかを考えなければなりません。その点、抗EGFR抗体ではそのような懸念は不要であり、またBevacizumabに比べて血栓症の頻度も少ないので、手術のタイミングに影響を及ぼさないというメリットがあります。

瀧内:外科医としては、「抗EGFR抗体は手術をしたいときにできる」ということですね。山ア先生は安全性の面から、抗EGFR抗体を推すポイントはありますか。

山ア:FOLFOX+Bevacizumab療法よりも、FOLFOX+抗EGFR抗体療法であればより早い段階で縮小し、切除にもっていける可能性があります。類洞拡張の発現はL-OHPの総投与量に相関しますので、術前の治療期間が短くてすむ可能性のあるFOLFOX+抗EGFR抗体療法のほうが、類洞拡張は起こりにくいと思われます。L-OHPの総投与量が少ないうちに手術ができるのであれば、Bevacizumabのような肝庇護作用がなくてもそれほど問題はないかと思います。

橋:当院ではFOLFOXによるblue liverを数多く経験していますが、Bevacizumab併用例ではblue liverのない、きれいな肝臓が多い印象があります。また、「Bevacizumabを併用しても合併症の発生率は変わらない」21, 23)というデータもあります。

仁科:確かにCetuximab投与例では、大きな肝転移が1ヵ月ほどで半分以下になってしまうようなsuper responderを経験しています。今後、KRAS以外にも抗EGFR抗体の効果を予測できるマーカーが明らかになり、super responderを選択できるようになれば、短期の化学療法でも切除にもっていけるので、合併症・安全性の面からも抗EGFR抗体を含むレジメンが有望になるのではないかと考えます。しかし、現状では切除可能となる症例は多くても3割程度であり、残りの7割はそのまま化学療法を続けなければなりません。それを考えると、1st-lineには、QOLを損なう皮膚毒性のある抗EGFR抗体を含むレジメンよりも、抗VEGF抗体を含むレジメンを選択したいと思います。

橋:私も仁科先生と同意見で、著効する患者のプロファイルがわからない現状では、長い治療の全体をみると、Bevacizumabを1st-lineで使った方がメリットのある患者さんが多いと思います。ただ、外科医としての本音を言ってしまえば、化学療法の期間は短いに越したことはなく、できるだけ早く、切れるタイミングで切りたいのも事実です。

江見:Conversion therapyを目指して開始している以上、転移巣の切除が狙えなくなった時点で、切除不能例としてレジメンを見直せばよいのではないでしょうか。臨床試験ではないので、無理にCetuximabを継続する必要はないと思います。

瀧内:まとめると、抗EGFR抗体は切れ味がよく、短い治療期間で切除が期待できる一方、抗VEGF抗体は長期投与時に肝庇護等のメリットがありそうだということです。

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