
佐藤(昭和大) 安全対策は、外来化学療法を行う上で最も重要です。なかでも『チーム医療』、『アドヒアランス(患者さん自身が治療を理解して積極的に参加すること)』、『医療機関の安全管理システム』の3つが核になると思います。抗癌剤のミキシングは、以前は看護師の仕事であり、それでは危険だということで医師が行っていた時代もありますが、現在は薬剤師が担当するようになってきました。ただ、前回話にあがりましたように、施設によってはまだ看護師が手伝っているところもあるようですね。
篠崎(県立広島) 当院の臨床腫瘍科では、外来・入院ともに薬剤師がミキシングを行っていますが、医師が抗癌剤のボトル交換をしなくてはならない病棟もあります。そうすると、医師個人のスケジュールに合わせて化学療法を行うことになり、勤務時間前に投与を開始するケースも出てきます。その場合のミキシングは医師自身が行うわけです。なかには、「臨床腫瘍科で薬剤師が調製する」と話しても、「自分でやるから大丈夫」と言う医師もおり、改善策を考えているところです。
野村(杏林大・薬) 今の時代は薬剤師がミキシングをするのが当然だと思うのですが、薬剤師が24時間対応している施設は一部です。オーダー漏れや、予定になかった治療が当日に急に入った場合など、締め切り時間に間に合わなかったときは、看護師がミキシングをするケースが多いと思います。しかし、全く経験のない看護師が行うのは危険ですので、看護師が薬剤部でミキシングの研修を受けておくことも、安全対策の面では必要ではないかと思います。

佐藤 安全対策の1つにガイドラインの遵守があげられますが、その観点からもレジメン登録は非常に有効な方法です。
野村 当院では、薬剤師もレジメン審査委員会に参加して、ディスカッションをしています。
瀧内(大阪医大) 当院でも同様ですね。がん医療に関係していない診療科からもレジメン審査委員会に参加してもらい、登録したレジメンのエビデンスレベルをA、B、Cとランク付けしています。さらに、年に1回、登録レジメンの見直しを行い、古くてエビデンスレベルの低いものは外します。そうすることで、エビデンスレベルの高い治療が実践できます。
また、TJ(paclitaxel+carboplatin)のように複数の科で行うレジメンは、支持療法がバラバラだと現場が困るので、各科が申請したものを委員会ですべて統一しています。不要なレジメンを排除し、類似したレジメンを除外することにより、各職種にとって安全性、確実性が向上します。
佐藤 原発不明癌や稀な癌種で、phase IIレベルのデータすらない場合はどうされていますか。
瀧内 レジメン委員会宛に「このレジメンを実施したい」と申し出てもらい、委員会の中心メンバーで早急に審査した上で、使用を認めるかどうかを決定します。
篠崎 オーダリングシステムに登録されていないのものは入力できないシステムをとっておられますか。抗癌剤は一般の注射処方箋では入力できませんか。
瀧内 できるだけ入力しないように働きかけていますが、残念ながら完全にはカバーできていません。外来はすべて登録レジメンになっていますが、入院では登録されていない治療法が1割ほど行われており、問題です。
佐藤 当院では、ほぼ100%が登録レジメンなので、逆に身動きがとれなくなることがあります。稀な癌種についても、1つ1つ手順を踏んで、最初から登録しなければなりません。
室(愛知がん) 抜け道があるのはよくない点でもありますが、逆にやりやすい点でもありますね。
篠崎 先生方のご施設では、肝動注はどうされていますか。「担当医のさじ加減で量を変えたりするので、一般処方箋でないと困る」と抵抗されるのですが。
瀧内 肝動注も実臨床のなかでは完全には否定できないので、エビデンスレベルの低い治療法として認めています。オーダリングシステムにも入れています。
篠崎 さじ加減があるものをオーダリングシステムに組み込むことは、本当によいのでしょうか。
佐藤 オーダリングシステムに組み込むと、薬剤師が目を通すのでregulation がかかり、不適切なことが行われなくてすむようになります。最初は融通が利かないために窮屈に感じていたのですが、慣れてくるとスムーズにできるようになりました。ただ、あまりに融通が利かないシステムも不便なので、臨時審査による「症例限定」を設け、幅を持たせました。申請した症例にのみ適用が認められるというシステムです。