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GI cancer-net 海外学会速報レポート 2015年6月 シカゴ

背景と目的

 切除不能膵癌に対する1st-line治療としてFOLFIRINOX療法、nab-Paclitaxel (PTX) + Gemcitabine (GEM) 療法は、いずれもGEM単独療法と比較して生存期間延長を示している1,2)。しかしながら、FOLFIRINOX療法不応後の2nd-line治療において、最適な治療レジメンは確立されていない。今回、FOLFIRINOX療法に不応となりnab-PTX + GEM療法を施行した患者について、フランス12施設による前向き観察研究が実施された。

対象と方法

 1st-line治療のFOLFIRINOX不応後にnab-PTX (125 mg/m2, day 1,8,15, 4週毎) + GEM (1,000mg/m2, day 1,8,15, 4週毎) 療法が行われた膵癌患者を対象とした。臨床症状、胸部~骨盤CT、CA19-9値による評価を2ヵ月毎に行った。評価項目はPFS、OS等とした。

結果

 2013年2月~2014年7月に57例の患者が登録された。年齢中央値 (範囲) は59.9 (35~92) 歳であり、男性47%、PS 0/1/2 は16%/63%/21%、転移臓器個数 1/2/3個以上 は63%/28%/9%であった (表1)。1st-line治療のFOLFIRINOX療法については、投与サイクル中央値 (範囲) は12 (1~40) サイクルであり、中止理由として増悪が95%であった。

表1

 2nd-line治療としてのnab-PTX + GEM療法は合計248サイクル投与されていた (患者あたりの中央値4サイクル)。57例のうち42例 (74%) の患者で投与が中止されたが、有害事象による投与中止は2例 (血小板減少: grade 4、無力症: grade 3) であり、主な中止理由は増悪であった (40例)。

 治療効果は、PFS中央値5.1ヵ月、OS中央値8.8ヵ月 (図左)、奏効率は17.5% (95% CI: 8-29) であった。なお、1st-line治療からのPFS、OS中央値はそれぞれ14ヵ月、18ヵ月であった (図右)。


 有害事象は、grade 3を20例 (36%) に認め、内訳は好中球減少、末梢神経障害、無力症、血小板減少などであった (表2)。Grade 4の有害事象は1例のみ (血小板減少) であった。

表2

 なお、67%の患者で治療中に減量が行われていた (nab-PTX: 64%, GEM: 49%)。また、nab-PTX + GEM療法の後治療として、25例 (62.5%) の患者で何らかの3rd-line治療が行われた。

結論

 FOLFIRINOX療法に不応となった切除不能膵癌に対するnab-PTX + GEM療法の有効性と安全性が示唆された。今後、第III相試験での有用性の検証が必要である。

コメント

 膵癌1st-line治療の標準治療はFOLFIRINOX療法あるいはnab-PTX + GEM療法であるが、2nd-line治療については未だ標準治療はない。本邦においてはGEST試験3)の結果より、GEM単剤あるいはS-1単剤のいずれかを1st-line治療として用いて、不応不耐時に他方を選択する交替療法がコンセンサスとなっているが、治療戦略の構造は全く同一である。膵癌に対する抗癌剤治療は5-FU based regimen とGEM based regimenの2つがあり、現在までのエビデンスでは、これを同時にではなく交互に行う戦略が推奨されている。5-FU based regimenの効果増強レジメンがFOLFIRINOX療法であり、GEM based regimenの効果増強レジメンがnab-PTX + GEM療法であるから、本試験のコンセプトは実臨床現場に則っていると考える。
 本試験結果では、nab-PTX + GEM療法2nd-line治療のOS中央値は8.8ヵ月、1st-line治療からのOS中央値は18ヵ月と良好な成績であった。1st-line治療から計画された結果ではないので、数字的には延びてくるのは当然でもあるが、今後を十分に期待させる結果である。
 次の展開では、nab-PTX + GEM療法の2nd-line治療での有用性を検証する試験を計画するのではなく、ぜひ1st: FOLFIRINOX療法/2nd: nab-PTX + GEM療法と1st: nab-PTX + GEM療法/2nd: FOLFIRINOX療法のhead to head の試験を計画してもらいたい。

 

(レポート:谷口 浩也 監修・コメント:佐藤 温)

Reference
  1. 1) Conroy T, et al.: N Engl J Med. 364(19): 1817-1825, 2011[PubMed
  2. 2) Von Hoff DD, et al.: N Engl J Med. 369(18): 1691-1703, 2013[PubMed
  3. 3) Ueno H, et al.: J Clin Oncol. 31(13): 1640-1648, 2013[PubMed

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