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GI cancer-net 海外学会速報レポート 2015年6月 シカゴ

背景と目的

 Rilotumumabは、MET受容体のリガンドであるHepatocyte growth factorに対する完全ヒト型モノクローナル抗体であり、既に第II相試験が報告されている1)。この第II相試験では、胃癌/食道接合部癌に対する1st-line治療としての有用性が検証され、主要評価項目のPFSはRilotumumab併用により有意に良好であり (HR=0.60)、MET陽性例において更に改善したことから (HR=0.46)、MET陽性の胃癌/食道胃接合部癌を対象とした多施設共同プラセボ対照無作為化第III相試験が実施された。

対象と方法

 対象は、前治療歴のないMET陽性の切除不能進行・再発胃癌/食道胃接合部癌患者であり、MET陽性は免疫組織化学染色 (IHC) で確認された。1st-line治療としてRilotumumab + ECX療法を投与するRilotumumab群 (n=304) とプラセボ + ECX療法を投与するプラセボ群 (n=305) に無作為割り付けされ、Rilotumumabは15mg/kgで3週間毎に、ECX療法はday1にEpirubicin 50mg/m2、Cisplatin 60mg/m2を、day1-21にCapecitabine 625mg/m2を投与した (図1)。

 主要評価項目はOSであり、副次評価項目はPFS、奏効率、病勢コントロール率などであった。

図1

結果

 投与サイクル数中央値は、Rilotumumab群ではプラセボ群より少なかった。

 主要評価項目であるOSはプラセボ群で有意に上回り (HR=1.36, 95% CI: 1.05-1.75, p=0.021)、中央値は Rilotumumab群9.6ヵ月、プラセボ群11.5ヵ月であった (図2)。

図2

 PFS中央値は両群ともに5.7ヵ月であった (HR=1.27, 95% CI: 1.03-1.58, p=0.025) (図3)。奏効率はRilotumumab群30%、プラセボ群39.2%であった (p=0.03)。なお、MET 遺伝子解析 (FISH法) による高MET 増幅群においても、OSおよびPFSに良好な結果は認められなかった。

図3

 本試験は、死亡イベント数の差により早期に中止となったが (2014年11月3日時点:Rilotumumab群93例、プラセボ群75例)、Rilotumumab群での死亡が増えた理由として、病勢進行の影響が大きいと説明された。

 発現率に5%以上の差がみられた有害事象として、Rilotumumab群では末梢性浮腫、低アルブミン血症、深部静脈血栓症、低カルシウム血症が有意に多く認められた (表1)。

表1

結論

 前治療歴のないMET陽性の切除不能進行・再発胃癌/食道胃接合部癌に対するECX療法へのRilotumumabの上乗せによって、OS、PFS、奏効率のいずれも改善が認められなかった。今後、臨床的・基礎的な解析による検討が必要と考えられる。

コメント

 METはスキルス胃癌で高発現していることが知られているため、METを標的とする分子標的治療薬は、難治性の胃癌に対する新たな治療戦略として大いに期待されていた。本試験は、ECX療法に対するRilotumumabの上乗せ効果を検証した試験であるが、以前に報告された無作為化比較第II相試験1) とは異なり、結果はnegativeであった。今回、本剤以外にもMET阻害薬としてOnartuzumabの成績も報告されていたが、同様に有効性は確認されなかった2)

 現在の抗体を使用したスクリーニングに基づくMETを標的とした治療戦略は、残念ながら成り立たないものと思われる。薬剤そのものの効果が乏しいのか、スクリーニング法に問題があるのか、今後の解析が待たれる。

(レポート:川崎 健太 監修・コメント:寺島雅典)

Reference
  1. 1) Iveson T, et al., Lancet Oncol 15(9): 1007-1018, 2014[PubMed
  2. 2) Shah MA, et al. 2015 Annual Meeting of the American Society of Clinical Oncology®: abst #4012

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