演題速報レポート

背景

 フッ化ピリミジンベースの化学療法にBevacizumab (BEV) を併用することは切除不能大腸癌に対する一次治療もしくはBEV未使用例における二次治療としての標準治療である。過去に報告された切除不能大腸癌を対象とした観察研究 (BRiTE試験、ARIES試験) より、BEVを併用した初回化学療法施行中の増悪後もBEVの継続使用により生存期間の延長が得られることを示唆する報告がなされた1, 2)。本試験は一次治療でBEV併用化学療法を施行後に増悪した切除不能大腸癌症例に対し、標準的二次化学療法にBEVを継続併用することの有用性を検証した初めての無作為化比較試験である。

対象と方法

 一次治療としてのBEV併用化学療法の投与中または中止後3ヵ月以内に増悪を示し、組織学的診断のついた切除不能大腸癌症例がフッ化ピリミジンベースの二次化学療法 ± BEV (2.5mg/kg/週) に無作為割付けされた。二次化学療法としてのOxaliplatinもしくはIrinotecan併用は一次治療で使用した薬剤とクロスオーバーされ、層別因子に含まれた。
 本試験はドイツの臨床試験グループAIOにより、主要評価項目をPFS (progression-free survival) に設定して開始されたが (AIO 0504試験)、その後主要評価項目をOS (overall survival) に変更し、複数の臨床試験グループによる国際共同試験 (ML18147試験) として実施された。変更後の副次評価項目はPFS、奏効率、安全性である。

図1

結果

 2006年2月-2010年6月の間に820例が無作為割付けされた (BEV併用群409例、化学療法単独群411例)。患者背景および疾患背景は両群間でバランスがとれていた。
 主要評価項目であるOSの中央値はBEV併用群で11.2ヵ月、化学療法単独群で9.8ヵ月 (HR=0.81, 95%CI: 0.69-0.94, p=0.0062) と有意な延長を示した (図2)
 OSのサブグループ解析では、全体的にBEV併用群で良好な傾向がみられたが、AIO 0504試験時の登録患者、女性、ECOG PS≧1、一次治療のPFS 9ヵ月未満など、いくつかのサブグループではばらつきが認められた (図3)

図2
図3

 一方、副次評価項目であるPFSの中央値はBEV併用群で5.7ヵ月、化学療法単独群では4.1ヵ月 (HR=0.68, 95%CI: 0.59-0.78, p<0.0001) であり、OSと同様に有意な延長を示した (図4)。奏効率はBEV併用群で5.4%、化学療法単独群では3.9% (p=0.3113) であった。

図4

 有害事象は過去のBEV併用化学療法の報告と同様であり、BEVの継続併用による増加は認められなかった。BEV関連の有害事象についても同様であった。

結論

 本試験は、一次治療のBEV併用化学療法で増悪した切除不能大腸癌に対するVEGF阻害薬の継続投与の有用性を前向きに評価した初の無作為化比較試験である。今回の結果より、BEVの継続使用 (化学療法のレジメンは一次治療からのクロスオーバー) は切除不能大腸癌の二次治療におけるOSとPFSを有意に延長することを示した。この結果より、BEVの継続使用は一次治療でBEV併用化学療法を施行した症例における二次化学療法の新しい治療オプションの一つとなった。

コメント

 これまでBRiTE試験などで、一次治療増悪後のBevacizumabの継続投与 (Bevacizumab beyond PD: BBP) が、生存期間の延長に寄与する可能性が示唆されていた。本試験においてBBPの効果が前向きな比較試験によって初めて証明された。すなわち一次治療でBEVが使用され、3ヵ月以上のPFSが得られた症例においては、二次治療におけるBEVの併用も治療オプションの一つとなる。今後、切除不能大腸癌二次治療の開発においては本試験の結果が一つのreferenceになるものと思われる。ただし、生存曲線はきれいに開いているものの、その差はわずかに1.4ヵ月であり、治療コストの増加を考慮すると実臨床における症例の選択には慎重であるべきである。サブグループ解析の結果では、女性、一次治療のPFSが9ヵ月未満のグループでやや治療効果が劣る傾向が認められた。今後のバイオマーカーの詳細な解析により、二次治療においてBEVの使用が推奨されるグループ、抗EGFR抗体薬への変更が望ましいグループ、新たな治療戦略の開発が必要なグループなどへの治療前選別が可能となることを期待したい。

(レポート:結城 敏志 監修・コメント:寺島 雅典)

Reference
  1. 1) Grothey A, et al.: J Clin Oncol. 26(33): 5326-5334, 2008[PubMed][論文紹介
  2. 2) Cohn A, et al.: 2010 Annual Meeting of the American Society of Clinical Oncology®: abst #3596

関連リンク
  1. ESMO 2011 abst #6013/6150「BBPをめぐる検討: ARIES観察研究の時間依存性解析と米国の実臨床データの解析から」

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