ESMO 2011 演題速報レポート Stockholm, Sweden September 23-27, 2011
2011年9月23日〜27日にスウェーデン・ストックホルムにて開催されたThe European Multidisciplinary Cancer Congress 2011 - ESMOより、大腸癌や胃癌などの注目演題のレポートをお届けします。演題レポートの冒頭には、臨床研究の第一線で活躍する監修ドクターのコメントを掲載しています。
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大腸癌
Abstract #6013/6150
BBP (Bevacizumab beyond progression) をめぐる検討: ARIES観察研究の時間依存性解析と米国の実臨床データの解析から
 1st-line治療でBevacizumabを投与した切除不能進行・再発大腸癌患者に対し、PD後の2nd-line治療においてもBevacizumabを継続投与する“BBP (Bevacizumab beyond progression)”は、BRiTE、ARIESという2つの大規模コホート観察研究においてその有用性が報告されている1, 2)。本レポートではARIESの時間依存性解析 (#6013) と、米国の電子カルテデータを用いたBBPの解析結果 (#6150) の2演題を取り上げる。
Expert's view
BBPの有用性をサポートする2報告 ―AIO 0504試験の結果に期待が高まる
小松 嘉人 先生 北海道大学病院 腫瘍センター・化学療法部
 切除不能進行・再発大腸癌に対するBBPの有効性の報告は、BRiTEとARIESの2つの観察研究によりすでに報告されている。そこで今回、#6013ではARIES試験における1st-line PD後のBevacizumab (BV) の累積投与量と効果に関して検討するという、既報とは若干違う切り口からの検討となった。結果はpost-progression survival (PPS) のHRはBVの投与量が増える毎に約2%ずつ減少、すなわちPFSが延長しており、BVの累積投与量が増えれば、PPSが延長するという有意な相関が示されたとの結果であった。一方、#6150はUS Oncologyの電子カルテから実臨床におけるBBPとOSとの関連をretrospectiveに検討し、BBPはOSおよびSBP (survival beyond progression) の延長に深く関わっているとの結果であった。
 いずれの試験も、BBPはNo BBPに比しOSを延長するという既報1,2) のデータを後押しする結果であった。ARIES試験は、観察研究としてはprospectiveであることも含め、さまざまな工夫でバイアスを排除した素晴らしい試験だと思われるが、PD後の治療は非ランダムで各現場の医師らに任されており、BBP群とNo BBP群に患者背景の差があると考えざるを得ない。BVの効果がありそうだと判断された予後のよい群に沢山のBV投与ができ、結果として累積投与量が多くなった患者群のPPSが延長したようにみえたという可能性は捨て切れず、BBPが本当に予後を延長するか否かの区別は難しい。
 #6150はretrospectiveな試験であり、BBP群は有意に若く民間保険の利用者が20%も多かったことから、若く元気で、民間保険が使えるためにBV投与が可能であった患者群にBVが投与されたことにより予後が延び、そうでない群との間に差ができただけとも考えられ、患者背景に大きな差があるため、いわずもがなと言える。
 とはいえ、両試験ともに他に類をみないほどの大勢の集団を対象にした大規模試験であり、いくつかの試験で同様な結果が報告されていることから、その仮説は正しい可能性も十分にあり得る。しかし、やはりどんなに素晴らしい結果が出ても、観察研究やretrospectiveな試験には限界があり、その結果を鵜呑みにするわけにはいかない。#6013では、author自らも、またディスカッサントも、検証的なRCTによってこれらの仮説が検証されることが望ましいとしている。AIO 0504 (ML18147) 試験3)の結果が待たれるところである。
Abstract #6013
切除不能進行・再発大腸癌におけるPD後のBevacizumab累積投与量は生存延長と相関する: ARIES観察研究の時間依存性解析
Cumulative Exposure to Bevacizumab (Bevacizumab) After Progression Correlates With Increased Survival in Patients (pts) With Metastatic Colorectal Cancer (mCRC): a Time-dependent Analysis of the ARIES Observational Cohort Study
Axel Grothey, et al.
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背景と目的
 切除不能進行・再発大腸癌に対する実臨床におけるBBPの有効性と安全性は、BRiTEとARIESの2つの観察研究により示されている1, 2)。しかしながら、既報では1st-line PD後のBevacizumab投与の有無で分けた解析のみであり、1st-line PD後のBevacizumabの投与量に関する解析はなされていなかった。今回は、1st-line PD後のBevacizumabの累積投与量と効果に関する時間依存性解析の結果を報告する。
対象と方法
 対象は米国248施設から登録された1,550例 (1st-line治療としてBevacizumab + 化学療法を施行中の切除不能進行・再発大腸癌患者) のうち、1st-line PD後も生存し、適格基準に合致した患者とした。
 時間依存性のCox回帰モデルを用いて、post-progression survival (PPS: 1st-line PDから2nd-line PDまたは死亡までの期間) と1st-line PD以後のBevacizumabの蓄積投与量の関連を評価した。
結果
 2011年2月14日をデータカットオフ日とし、適格基準に合致した1,183例 (76%) を解析対象とした。
 PPSの中央値は13.3ヵ月 (interquartile range: 5.8-27.0) であった。PPSのHRはBevacizumabの投与を重ねるごとに平均2% (range: 1.7%-2.3%) ずつ減少しており、Bevacizumabの累積投与量とPPSは有意に相関することが示された (p=0.0002) (図1)
図1 ◆
結論
 本研究における1st-line PD後のBevacizumabの治療パターンは、非無作為化研究でしばしばみられるように均一ではなく、投与中断や間欠投与、治療開始時期などにばらつきが認められた。
 本解析においては、1st-line PD後のBevacizumabの累積投与量とPPS延長の関連が示唆され、既報1, 2) におけるBBPの仮説を支持するデータとなった。現在、BBPを前向きに検証した無作為化比較第III相試験 (AIO 0504試験)3) が進行中であり、間もなく報告されるものと思われる。

Abstract #6150
BBPを施行された切除不能進行・再発大腸癌患者の臨床転帰
Survival Outcomes With Use of Bevacizumab Beyond Progression (BBP) in Metastatic Colorectal Cancer (mCRC) Patients (Pts)
Thomas Cartwright, et al.
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背景と目的
 米国の実臨床において、BBPが切除不能進行・再発大腸癌患者の生存に及ぼす影響をretrospectiveに解析した。
対象と方法
 US Oncologyの電子カルテ (iKnowMed) データから、1st-line治療でBevacizumabを使用し、2nd-line治療を受けた切除不能進行・再発大腸癌患者を抽出した。対象は2nd-line治療でBevacizumabを使用した群 (BBP群) と使用しなかった群 (No BBP群) の2群に分けられた。
 評価項目はOS (1st-line治療開始から死亡または追跡不能となるまでの期間) とsurvival beyond progression (SBP: 2nd-line治療開始から死亡または追跡不能となるまでの期間) とした。
結果
 573例 (BBP群: 267例、No BBP群: 306例) が適格基準を満たした。
 患者背景は両群間で概ね同様であったが、2nd-line治療開始時の年齢中央値はBBP群で若く (BBP群: 59歳 vs. No BBP群: 63歳)、医療保険の種類 (民間: 55% vs. 36%, Medicare: 24% vs. 39%)、KRAS 野生型 (19% vs. 27%) においても差が認められた。
 また、1st-line治療の状況や化学療法剤3剤の使用率には差がみられなかったものの、2nd-line治療にFOLFIRIを使用している患者はBBP群で多く (63% vs. 39%)、2剤併用および5-FU/LVを除くその他の治療はNo BBP群で多かった (11% vs. 46%)。また、1st-line PD後の抗EGFR抗体薬の使用状況も両群間で差がみられた (33% vs. 48%)。

 OSの中央値はBBP群で27.9ヵ月、No BBP群で21.4ヵ月、SBPの中央値はそれぞれ14.6ヵ月、10.1ヵ月であり、BBP群で延長した (図2)
図2
 また、Cox回帰モデルを用いた多変量解析より、BBPはOS (HR=0.75, 95% CI: 0.602-0.939, p=0.0120) およびSBP (HR=0.739, 95% CI: 0.593-0.921, p=0.0071) 延長の予測因子であることが示された (表1)。そのほか、BMI、ECOG PS 0 (vs. 2)、化学療法剤3剤の使用もOSおよびSBP延長の予測因子であった。なお、1st-line PDまでの期間はOSの有意な予測因子であったが (HR=0.981, 95% CI: 0.977-0.985, p<0.0001)、SBPとの関連は認めなかった (HR=0.998, 95% CI: 0.994-1.002, p=0.2855)。
表1
結論
 本解析結果ではBBPとOSおよびSBPの間に関連がみられ、既報の大規模観察研究の結果と一致していた1,2)。ただし、年齢などの患者背景は多変量解析によって調整したものの、それでも排除しきれないselection biasは存在すると考えられる。このように限界はあるが、本解析は切除不能進行・再発大腸癌の実臨床におけるBBPの重要な知見を示したといえるであろう。
Reference
1) Grothey A, et al.: J Clin Oncol. 26(33): 5326-5334, 2008  [PubMed][論文紹介
2) Cohn A, et al.: 2010 Annual Meeting of the American Society of Clinical Oncology®: abst #3596
3) AIO 0504 (ClinicalTrials.gov): A Study of Avastin (Bevacizumab) Plus Crossover Fluoropyrimidine-Based Chemotherapy in Patients With Metastatic Colorectal Cancer.
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