消化器癌治療の現場から 〜外来化学療法編〜 | 消化器癌への様々な取り組みをご紹介します。
第1回 慶應義塾大学病院包括先進医療センター 外来化学療法部門(取材日:2005年11月11日)
 Interviewer: 佐藤温先生(昭和大学)


Q. 副作用対策や、患者さんへの情報提供はどのようにされていますか。

A: 看護師から個別に説明して対応しています。患者さん用のパンフレットを作成し、それを活用しています。パンフレットは、化学療法全般について書かれた共通のものを基本に、看護師から追加説明する形をとっていますが、特殊なプロトコール(FOLFOXなど)については、その特徴を書いた資料を個別に作成して説明しています。

副作用、治療に関する患者さんへの説明用資料。患者さんが自由に閲覧できるように待合室に配置されたラックに置かれている

Q. 治療中や治療後に帰宅してからの緊急時の対応はどうなっていますか。

A: 「緊急時対策マニュアル」を策定しており、それに則って行動します。救急カートにひと通りのものは準備していますが、実際に何か起こったら救急部に搬送することになると思います。帰宅後の患者さんからの連絡は救急部から各診療科にまわり、各科で対応することになります。当センターには診療スペースはありませんので、治療の判断は各診療科外来で主治医が行うのが基本です。ですから、薬剤投与中に患者さんが治療に耐えられそうにないと思われたときも、当センターの医師または看護師から主治医へと連絡し、判断を仰ぐことになります。

Q. この外来化学療法部門の業務について、院内への広報は行っていますか。

A: われわれが作成しているわけではありませんが、当院の「医師業務マニュアル」に記載されています。

Q. 院内の医師やコメディカルへの教育はどのように実施されていますか。

A: 当センターの専任スタッフが中心となり、専任医師による他診療科の医師や看護師に対する教育、専門看護師から他の一般看護師への教育、または勉強会などを行っています。薬剤師も参加しています。

Q. 今後、同様の施設を開設される他院の方々に、先駆者からのアドバイスをお願いします。

A: まずは始めてみることです。机上で考えて、理想を求めても何も始まりません。われわれも、既存の施設を利用するところから始めました。使い勝手の悪さもありますが、実際に業務を経験することにより、必要なものとそうでないものがみえてきます。その経験をもとに、われわれも移転後はより機能的な施設とシステムをつくりあげることができると思っています。そして、しっかりとした目的をもって、医師はもちろん、看護師をはじめとしたコメディカルが積極的に参加することも重要です。実際に患者さんと接する時間の長いコメディカルが、知識、技術、そしてモチベーションをもって積極的に関わることなしに外来化学療法の成功はあり得ないと考えています。

センター長からのコメント 久保田哲朗先生

外来化学療法部門が開設されて3年目に入り、スタッフの尽力により、日々多くの患者さんに対応できるようになってきました。しかし、現在は癌化学療法専門外来がないために、患者さんは他科の受診者にまじっての採血から診察、センター内での抗癌剤投与へと長い動線をたどることになります。今後は施設移転後に専門外来を併設し、患者さんが一ヵ所で外来化学療法を受けられるようにする予定です。
今回の外来化学療法部門の開設にも、医療制度の改革という医療経済的背景があるわけですが、経済的利益だけに縛られていては、日本の医療が国際水準から取り残されてしまいます。患者個々、あるいは診療科ごとに経済性を考えるのではなく、病院全体、あるいは国としての利益を考えるべきです。そのためにも、癌治療全体を考えたとき、将来的には「臨床腫瘍科」として、各診療科の壁を超えた横の連携が必須になってくると思います。現在の縦割り診療からの移行は簡単なことではありませんが、私が内科医ではなく外科医だからこそ、できることもあるのではないかと考えています。「臨床腫瘍科」ができ、他科から出張している「○○科の癌専門医」ではなく、「臨床腫瘍科」育ちのオンコロジストが誕生したとき、日本の癌治療はさらに大きく進歩することと確信しています。

腫瘍内科医からのコメント 高石 官均先生

私が腫瘍内科医としてここに籍を置く理由の1つには、やはり抗癌剤の進歩があると思います。抗癌剤治療は大きく進歩し、生存期間は目に見えて延長できるようになってきました。そして、外来化学療法の導入により患者さんのQOLも改善されました。疾患の性質上、残念ながら亡くなってしまう方も多いのですが、人生の最後をいかに有意義に過ごせるかという、患者さんにとって重大な問題の手助けができる、医師として非常にやりがいのある仕事だと日々感じています。私も含めて、内科医が化学療法に携わるようになってから、まだそう長い時間は経っていません。これまで、限られた薬剤と情報のなかでこの分野を発展させてこられた外科の先生方のご協力をいただきながら、腫瘍内科医としてさらに化学療法を発展させていくよう努力していきたいと思います。

看護師からのコメント 杵鞭尚代さん・北村悦子さん

当センターには3名の癌化学療法認定看護師がいます。当センターに所属しながら研修を受けた看護師と、研修後に配属されてきた看護師がいますが、全員、特に病院からの要請によるものではなく、自主的に研修を受けました。現場で働いていると、専門知識をもつことの大切さを実感します。患者さんにきちんと対応し、さらに改善させていくためにも専門知識が必要だと考え、自分から希望しました。当院では、そうした研修に参加するための休職が認められています。
認定看護師の研修場所は、疾患により異なりますが、癌化学療法の場合は神戸にある日本看護協会の研修センターになります。そこで6ヵ月間の研修を受け、試験に合格すれば認定を受けることができます。授業料は75万円ですが、神戸での生活費等もかかりますから、資金面での準備も必要ですし、その間は休職扱いになるので、職場の理解も必要です。認定資格が必須なわけではありませんが、知識を高め、仕事に対する意欲を高めるためにはとても有効だと思います。ぜひ、各施設でこうした看護師のスキルアップのための支援を充実させてほしいと思います。

インタビュアーからのコメント 佐藤 温先生

近年、外来化学療法は医療側および患者側のニーズに応えて、広く認識され、急速に普及しつつあります。しかしそのシステムについては、まだまだ各施設がよりよい形態を求めて試行錯誤している段階です。今回の取材において、大学病院におけるそのシステムを勉強できたことは大変有意義でした。私は、日頃より癌治療は内科、外科という縦割りの区別ではなく、癌治療全体をセンター化して横断的に診ていくことが必要になると考えていますが、外来化学療法は、そのための第一歩になりうると思います。診療科の縦の壁を取り払い、横の連携をつくるための突破口となることを期待しています。
また、今回の訪問で看護師から聞いたお話は、現実を再認識させられました。看護師の認定制度について、医師はあまり知識をもっていないのが実状だと思います。医師の専門医制度と同じで、こうした資格は、医療従事者のモチベーションを高めることにつながります。専門的知識をもった看護師に積極的に参加してもらうために、認定制度の活用をバックアップし、それに応じた活躍の場を用意することが大切です。お互いに協力して任務を遂行するために、医師もそうしたことにも目を向けるべきなのでしょう。


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