ケースカンファレンス〜トップオンコロジストはこう考える〜

監修中島 貴子 先生聖マリアンナ医科大学
臨床腫瘍学

日常診療で遭遇する症例を取りあげ、トップオンコロジストが治療方針を議論するケースカンファレンスをお届けします。

CASE5

2017年10月開催

胃癌・下咽頭癌・食道癌の重複癌
に対する治療戦略

  • 牧山 明資 先生牧山 明資 先生
    JCHO 九州病院
    血液・腫瘍内科
  • 加藤 健 先生加藤 健 先生
    国立がん研究センター
    中央病院 消化管内科
  • 黒川 幸典 先生黒川 幸典 先生
    大阪大学大学院
    医学系研究科 外科学講座
    消化器外科学
  • 坂井 大介 先生坂井 大介 先生
    大阪大学大学院
    医学系研究科 先進癌薬物療法開発学寄附講座

ディスカッション 2 重複癌の2nd-lineとしての治療選択肢Discussion 2

重複癌の2nd-lineとしてどのような治療を選択するか?

牧山本症例は治療経過1にあるように化学療法(SP療法)を先行いたしました。加藤先生にご指摘いただいたように、いずれかのタイミングで下咽頭癌への放射線照射は検討可能と考えました。しかし1コース目の途中で発熱性好中球減少症が発現し、その治療に約1ヵ月間の入院を要しました。また、食べられない状態が続いたことで低アルブミン血症の発現やPS低下を認めました。したがって結果的には3剤併用治療は難しかった可能性があります。全身状態改善後にS-1単剤で治療を再開したところ、約2ヵ月後のCT画像で胃癌の進行(胃小弯側リンパ節の増大)を認めましたが、下咽頭癌と食道癌は変化を認めませんでした。Cisplatinの再導入は希望されなかったため、増悪した胃癌に対する効果を期待してOxaliplatinを併用、つまりSOX療法を施行することとしました。SOX療法導入2ヵ月後のCT画像では、胃癌は病状安定となりましたが、今度は下咽頭癌と右中内神経リンパ節の明らかな増大を認め(図4)、同部位の疼痛および嗄声症状を訴えました。

2nd-lineの治療選択肢としてどの化学療法レジメンを選択するか?

牧山今後、黒川先生はどのような治療を実施されますか。

黒川先生

黒川少なくとも下咽頭癌に対してはSOX療法の効果がないことが分かりましたから、放射線療法を実施したいと思います。併用する化学療法としては、SOX療法で有害事象があまり出現していないようであればSOX療法+放射線療法、またはSOX療法をTaxane系抗癌剤に変えて放射線療法を併用してもよいかもしれません。

牧山併用する化学療法には複数の選択肢があるということですね。坂井先生はいかがですか。

坂井私も基本的には下咽頭癌の症状緩和を第一優先として治療すべきだと思いますので、放射線療法+DocetaxelまたはTaxane系抗癌剤を選択します。

牧山加藤先生、追加のご意見はありますでしょうか。

加藤どの癌種に重きを置くかで治療方針は変わってきますよね。PSが低下するとプラチナ製剤の併用は厳しいかもしれませんので、頭頸部癌だったらCisplatin+放射線療法、プラチナ系が使いづらいということであれば、Cetuximab+放射線療法という選択肢もあると思います。

牧山放射線療法単独、あるいは放射線療法+Taxane系抗癌剤、抗EGFR抗体併用療法という意見が出ました。

2nd-line以降の治療選択肢にNivolumabは含まれるか?

牧山治療経過3にあるように本症例は局所療法を優先することにしました。ただし、SOX療法に不応ということに加え、副作用なども懸念されたことから、今回は放射線療法単独で治療を進めることにしました。照射後、下咽頭癌と周囲リンパ節は顕著に縮小し、自覚症状も改善しました。しかし、今度は胃小弯側リンパ節が顕著に増大し、CT画像上では胃内腔との交通も疑われました。この時点で、本症例は化学療法の副作用が受け入れ難いこと、今後出血や穿孔のリスクが高いことを説明しましたが積極的な治療を希望されなかったこと、通常通りの生活を可能な範囲で送ることを希望されたため、胃原発巣に対する緩和照射(40 Gy/16回)を施行し、自宅で療養生活を送りながら外来でfollowする方針としました。その結果、胃原発巣とリンパ節はさらに縮小し、胃小弯側リンパ節も縮小し、下咽頭癌も縮小を維持していました(図5)。緩和照射が胃癌にも奏効していた訳です。この間は自宅で有意義な生活を送られておりました。しかし今度は両肺の多発結節影、肝転移が出現しています。どの癌種による転移なのかは不明です。ご本人の希望としては、現在の生活に支障を来さない治療であれば検討するが、副作用の強い抗癌剤治療は希望されていない状況です。今後の治療方針についてどのようにお考えになりますか。

加藤通常であれば胃癌、下咽頭癌、食道癌のすべてに有効性を発揮する可能性があるTaxane系抗癌剤を減量しつつ使用しますが、患者さんが化学療法に対して負のイメージを抱かれているので、Nivolumabを勧めてみると思います。Nivolumabもこれら3つの癌に対する有効性が示されています。Nivolumabでも副作用が発現する可能性はありますが、比較的頻度は少ない上に、有効な可能性もあります。それが難しいようでしたら、対症療法(BSC)ということになります。

牧山可能であればNivolumabを選択するということですね。黒川先生はいかがですか。

黒川私もTaxane系抗癌剤を使用したいところですが、患者さんは副作用の発現を懸念されていますから、Ramucirumab単剤を勧め、それが難しいようなら加藤先生と同様にBSCを選択します。

加藤Ramucirumab単剤の投与には、なかなか勇気がいるかもしれません。胃とリンパ節の瘻孔がどうなっているかがポイントですが、例えば、内視鏡検査で粘膜が綺麗であることを確認できていれば、Ramucirumab単剤も選択肢の一つになるとは思うのですが。

牧山この時点では内視鏡検査を実施していないので、Ramucirumabを使用する場合には一度確認したほうがよいということですね。坂井先生はいかがですか。

坂井先生

坂井胃癌をメインに治療するのであれば、黒川先生がおっしゃったようにRamucirumab単剤も選択肢の一つになると思うのですが、下咽頭癌に対してはRamucirumab単剤のエビデンスが限られていますから難しいところです。一方、この下咽頭癌は頭頸部癌の難治性ということになるので、Nivolumabの適応があると考えられます。Nivolumabは単アームPhase 2試験ではありますが食道癌のエビデンスもありますし、できれば選択したいと思います。

牧山Nivolumabは、胃癌では3rd-line以降で承認されていますので、厳密には保険適応とはなりませんが、頭頸部癌では2nd-line以降で使用が可能ですので、本症例の下咽頭癌に対しても適応となるかもしれませんね。例えば、胃癌の2nd-lineと考えたとして、細胞傷害性の化学療法を施行できない場合や高齢者の場合、Nivolumabを選択することについて坂井先生はどのようにお考えになりますか。

坂井非常に難しい問題だと思います。Nivolumabの臨床試験では胃癌の2nd-lineは除外されていましたし、全身状態の面から殺細胞性の抗癌剤が適応とならない症例に対しては積極的に使用しにくいと思います。個人的には、純粋に胃癌の治療と考えるのであればNivolumabの前にRamucirumab+Paclitaxel療法を挟むことが望ましいと思います。

牧山なるほど。Ramucirumab+Paclitaxelを施行後にNivolumabを投与するということですね。黒川先生はいかがでしょうか。

黒川私はNivolumabを使い始めたばかりで、様子をみている状態です。その点、Ramucirumabは使い慣れているということもあり、現在の生活に支障を来さない治療をということであればRamucirumab単剤は十分選択肢になり得ると思っています。

牧山加藤先生はNivolumabの使用経験が豊富だと思いますが、いかがでしょうか。

加藤そもそも、Nivolumabは2nd-line症例に対してPaclitaxelよりも有効性が高いというエビデンスがあるわけではないため3rd-line以降での使用との位置付けとなっています。2nd-lineではTaxane系抗癌剤を選択しますが、Paclitaxel単剤よりも有効性が高いので、できればRamucirumab+Paclitaxelを選択します。それが無理な場合、Paclitaxel単剤投与が可能であればNivolumabよりもPaclitaxel単剤を優先的に使用しますが、Paclitaxel単剤投与が難しく、Nivolumab単剤なら投与できそうな場合はチャレンジしてもよいと思います。しかし、Paclitaxel単剤を投与できない患者さんへのNivolumab投与についてはエビデンスがありませんので、実際にどのような影響が出るかは分かりません。順番としては、患者さんには、Paclitaxelの減量などの対策を提案し、それでも難しい場合はNivolumabを選択することになると思います。

牧山先生方、本日は活発な討論をありがとうございました。重複癌の治療方針や2nd-lineの選択肢などについて、非常に参考になりました。

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