緩和ケアチームの活躍

瀧内:癌診療の現場で化学療法と並んで重要なのが、さまざまな問題が生じた時の患者さんへの対応だといわれています。特に、がん診療連携拠点病院の充足項目の中での緩和ケアチームの活動は重要なものとなっています。また充実した緩和ケアチーム活動に対して緩和ケア診療加算が認められるようになりましたね。福井県済生会病院での緩和ケアに対する取り組みについて教えてください。

三浦:当院では、1998年に20床の緩和ケア病棟をつくりました。緩和ケアには人手がかかるのですが、採算は度外視して音楽療法士や臨床心理士など、いろいろなスタッフが関わっています。現在は常に満室状態です。当時はまだ告知が一般的ではありませんでしたので、外科医も集まって告知の勉強をしました。

谷水:四国がんセンターも、2006年の移転を機に25床の緩和ケア病棟を新設しました。緩和ケア専任医師が1名と、私自身も消化器内科と兼任しながら担当しています。ただし、旧病院時代に外来化学療法室の開設と同時期に緩和ケアチームを立ち上げて活動は行っていました。そのときから、緩和ケア病棟設立準備のために専属の看護師を配置してもらったのです。

瀧内:緩和ケアの実施にあたって、工夫なさったことはありますか。

谷水:きちんとした緩和ケア(図1)を実践するために、我々は3つの目標を立てました。
 1つ目は「実効性を最優先すること」。そのために、チームが主治医を強力に指導しました。緩和ケアチームの医師には主治医の代理で麻薬処方が認められており、マニュアルから外れている場合にはチーム回診時にその場で訂正することもあります、もちろん主治医に連絡をとってその都度了解は得ています。メンバーが情報収集にあたり、紹介がない患者さんであっても疼痛治療を受けている患者さんのカルテのチェックを行いました。当初は、疼痛治療に大きな主治医間格差がみられ、初歩的な処方間違いもたくさんありました。直接主治医と交渉し、一緒に患者さんを診させてもらうこともあります。主治医に対しては強引ともいえる対応ですが、病院長が認めてくれていたから動けたのだと思います。
 2つ目は「マニュアルの整備」です。患者さんへの説明書やパスなどもすべてアセスメントし、病院をあげてマニュアルに則った疼痛コントロールを行うことを指導しました。
 3つ目は「退院支援」です。緩和ケアチームの専属として病棟から看護師を配置転換したので、その代わりに退院困難例に対する退院支援を緩和ケアチームで引き受け、病棟の労働軽減に貢献しようと考えたのです。これは、病棟看護師から重宝がられ、緩和ケアチームを認知してもらうのに役立ったと思います。

瀧内:当院もがん疼痛緩和に対する院内の統一マニュアルをつくって緩和ケアチーム活動を開始したところですが、四国がんセンターとは違って、チームの医師は患者と直接会話しないことに決めました。もちろん、主治医からの相談にはきちんと対応し、場合によってはチームの看護師が回診に訪れて、疼痛緩和の状態や精神的な問題の解決にあたります。緩和ケアチームの医師が患者さんに中途半端に関わるのはよくないし、一度関わるとなかなか抜けられないという問題を抱えるのではないかと思ったのです。

谷水:なかには疼痛コントロールが奏効して、我々の緩和ケアが完全に終了できる患者さんもいますが、大半の方とは最後まで関わり合うことになります。退院された患者さんは、緩和ケア外来でも併診します。主治医を受診した後に緩和ケア外来に立ち寄ってもらい、まず看護師が対応して、必要ならば医師も関わります。

瀧内:最近は自宅での看取り、あるいは在宅での緩和ケアが求められています。福井県済生会病院の場合は在宅医療にはどのように対応されていますか。

三浦:ホスピスの所長が在宅に力を入れており(図2)、訪問看護師も100%協力してくれるのですが、家族の説得が難しいのです。

谷水:それは当院も同じです。「最期は病院で」という認識が社会に定着していますからね。しかし、一般には終末期でも7割の人が家での療養を希望しており、「家で死にたい」という方も1割います(終末期医療に関する調査等検討会報告書)。ですから、当院の緩和ケア病棟は最期を迎えるところではなく「専門的緩和ケアの導入と適応」の場であり、「在宅移行までのワンクッション」「在宅患者のバックアップベッド」と位置づけています。そのため、患者さんが緩和ケア病棟に入る際は、必ず退院の話から入ります。実際に今の社会資源をうまく利用すれば、短期間で帰れる患者さんは多いのです。介護保険や身体障害者の各種申請制度を利用し、地域の医師に働きかければ多くが在宅に移行できます。ですから、在宅患者さんにとって緩和ケア病棟は救急病棟なのです。

三浦:開業医の協力は得られるのですか。

谷水:開業医の間で在宅医療を進めようという意識は高まっています。24時間対応の在宅療養支援診療所の制度ができましたし、地域の在宅患者の往診だけを行っている在宅医療専門医も出てきています。

瀧内:モチベーションのある開業医をいかに見つけるかですね。

谷水:まずは、患者さんのかかりつけ医を説得すればよいわけです。我々の働きかけと、かかりつけ医に対する教育的な活動も必要だと思います。松山市医師会所属の開業医約430名のうち、3分の1は在宅医療に協力すると言ってくれています。それをホームページに載せたり、訪問看護ステーションや各医療機関に配布しています。また、コメディカルを含めた勉強会も行っています。

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