ESMO 2014 演題レポート
2014年9月26日〜9月30日にスペイン・マドリッドにて開催された ESMO 2014 Congressより、大腸癌や胃癌などの注目演題のレポートをお届けします。演題レポートの冒頭には、臨床研究の第一線で活躍する監修ドクターのコメントを掲載しています。
会場写真
このページを印刷する   表示文字サイズ変更 大 中 小
大腸癌

Abstract #508PD

FIRE-3試験におけるFOLFIRI + CetuximabまたはFOLFIRI + Bevacizumabによる1st-line後の2nd-lineの解析
Second-line Therapies in Patients with KRAS Wild-type Metastatic Colorectal Cancer (mCRC) after First-line Therapy with FOLFIRI in Combination with Cetuximab or Bevacizumab in the AIO KRK0306 (FIRE-3) Trial
Dominik Paul Modest, et al.
photo

Expert's view

切除不能進行・再発大腸癌に対する1st-lineの治療選択は、2nd-line以降の治療結果に影響を及ぼすか?

仁科 智裕 先生

国立病院機構
四国がんセンター
消化器内科

 FIRE-3試験のOSの解析においてBevacizumab群に比べてCetuximab群が有意に良好な結果が報告されたが、その理由の1つに2nd-line以降の治療の影響があるだろうことが議論されてきた。本報告において2nd-lineの治療効果も含めた詳細な結果が示された。
 2nd-line以降でのOxaliplatin (L-OHP) や分子標的薬の使用率は両群に差がなく、2nd-lineにおける治療期間、PFS、OSともCetuximab群の方がBevacizumab群より良好であったことから、分子標的薬としてCetuximabをBevacizumabより先行させる戦略がより重要で、1st-lineの選択が後の治療結果に影響を及ぼすと結論された。確かに、Irinotecan (CPT-11) ベースの化学療法を1st-lineに用いることが多い地域およびFIRE-3試験が行われた時代の治療戦略としては、分子標的薬としてCetuximabを先行させる戦略が優れている可能性はある。しかしBevacizumab群では、第III相試験 (TML試験) でOSの延長が示された治療戦略である2nd-lineでのBevacizumab継続使用 (Bevacizumab beyond progression: BBP) の症例が少なく (16.4%)、後治療における抗EGFR抗体薬の使用率は約5割と有効な薬剤を使い切る戦略からすれば少ないこともあり、Bevacizumab先行でも2nd-line以降の治療で予後を改善させる余地があると考えられる。
 なお、もう1つのhead to headの大規模比較試験であるCALGB80405試験では、KRAS exon 2の主解析に加えて拡大RAS 解析の結果でもCetuximab群とBevacizumab群の間でOSに有意差がないことが報告された。両試験の結果の違いの要因として、患者背景、1st-lineのベース化学療法レジメン、2nd-line以降の薬剤の使用率の違いなど様々なことが考えられるが、まだ解釈できるだけのデータが乏しいのが現状である。
 1st-lineの治療選択が2nd-line以降の治療結果にどのように影響を及ぼすのか、そしてどの治療戦略がRAS 野生型の症例により適しているのかを検討するためにも、CALGB80405試験における本報告と同様の解析報告が待たれる。
背景と目的

 KRAS exon 2野生型転移性大腸癌対する1st-lineとしてのFOLFIRI + Cetuximab (Cetuximab群) またはFOLFIRI+Bevacizumab (Bevacizumab群) を比較したFIRE-3試験では、主要評価項目である奏効率は、Cetuximab群62%、Bevacizumab群58%と両群に有意差は認められず (p=0.183)、PFSも中央値がそれぞれ10.0ヵ月、10.3ヵ月と有意差を認めなかったが (p=0.547)、OS中央値はそれぞれ28.7ヵ月、25.0ヵ月であり、Cetuximab群で有意な延長を認めた (p=0.017)。今回は、FIRE-3試験における2nd-lineレジメンの選択と治療期間、および2nd-line開始からのOSについて検討した。
対象と方法

 試験プロトコールでは、2nd-lineレジメンはCetuximab群がFOLFOX + Bevacizumab、Bevacizumab群はIrinotecan (CPT-11) + Cetuximabが推奨されたが、レジメンの選択は担当医の裁量に任された。2nd-lineとは1st-lineに用いた薬剤とは別の新たな薬剤による治療であり、2nd-lineの治療期間は2nd-line治療薬の初回投与から最終投与までと定義した。また、2nd-lineのPFS (PFS2) は、2nd-line開始から病勢進行または死亡までとし、2nd-lineのOS (OS2) は2nd-line開始から死亡までの期間とした。なお、本解析のデータのカットオフ日は2014年8月22日とした。
結果

 1st-lineのITT集団592例のうち2nd-lineを施行されたのは414例 (RAS 野生型275例) で、3rd-line以降の治療も受けたのは256例 (RAS 野生型177例) であった。RAS 野生型の2nd-lineにおけるCetuximabとBevacizumabのクロスオーバーの割合は両群で同様であり、2nd-lineにおけるOxaliplatin (L-OHP) 投与率、2nd-line以降におけるCPT-11投与率も両群で同様であった (表)
 2nd-lineの治療期間は、KRAS exon 2野生型およびRAS 野生型ともにCetuximab群がBevacizumab群よりも有意に長期であり、抗体薬クロスオーバー投与もCetuximab群の治療期間が有意に長かった (図1)
表
図1
図1
 PFS2およびOS2は、KRAS exon 2野生型およびRAS 野生型ともに、Cetuximab群がBevacizumab群よりも有意に延長していた (図2)
図2
図2
 KRAS exon 2野生型のOS2の検討では、抗体薬のクロスオーバーを行った症例は、行わなかった症例と比べてOS2が不良であり、Bevacizumab群では有意差を認めた (p=0.012)。同様に、2nd-lineでL-OHPを使用した症例は、使用しなかった症例と比べてOS2が不良であり、Cetuximab群では有意差を認めた (p=0.002) (図3)
図3
図3
結論

 本解析により、1st-lineで至適なレジメンを選ぶことが、2nd-line、3rd-lineレジメンの選択以上に、治療結果への影響が顕著に大きいことが明らかとなった。これらのデータにより、1st-lineにおいてCetuximabを投与した後にVEGF阻害薬を投与する治療戦略は、VEGF阻害薬投与後にCetuximabを投与するよりも有効性が高いことが示唆される。
消化器癌治療の広場へ戻る このページのトップへ