演題速報レポート

背景

 5-FU/Cisplatin (FP) 療法を用いた化学放射線療法 (CRT) は切除不能局所食道癌の標準治療であるが、安全性と予後を改善する新しい併用レジメンが求められている。切除不能局所食道癌患者 97例を対象としたFP併用CRTとFOLFOX併用CRTのCR率を評価する無作為化比較第II相試験において、FOLFOX併用CRTによる高いCR率 (44.7%) と良好な毒性プロファイルが認められたため1, 2)、第III相試験に移行した。

対象と方法

 対象は未治療の切除不能局所食道腺癌・扁平上皮癌 (Any T, N0 or N1, M0 or M1a) 患者であり、割付け調整因子は組織型 (腺癌 vs. 扁平上皮癌) 、治療開始前6ヵ月の体重減少 (<10% vs. ≧10%) 、ECOG PS (0 vs. 1 vs. 2) 、施設とし、1:1に割り付けられた。
 A群ではFOLFOX (Oxaliplatin 85mg/m2 day 1、Leucovorin 200mg/m2 day 1、5-FU bolus 400mg/m2 day 1、5-FU 46時間持続1,600mg/m2 day 1-2) を隔週で実施し、1-3サイクルは放射線照射を併用し、4-5サイクルはFOLFOXのみを施行した。B群ではFP(Cisplatin[CDDP] 75mg/m2 day 1、5-FU 1,000mg/m2 day 1-4)を1、5、7、11週に実施し、放射線照射は1-5週に併用した。放射線量は両群ともに50Gy/25fr (5日/週×5週間) とした。
 主要評価項目はPFS (progression-free survival) であり、副次的評価項目はCR率、有害事象、治療成功期間(TTF: time to treatment failure)、OS (overall survival)、QOLと設定して試験が開始された。

結果

 2004年10月から2011年8月の間に267例が登録され(A群:134例、B群:133例)、両群の背景因子に差はなかった。
 Grade 3/4の血液毒性は2群間で差はなく、好中球減少(A群/B群)29.0/28.9%、発熱性好中球減少症 5.3/7.0%、貧血 5.3/10.9%であった。全gradeの非血液毒性については、疲労(53.4/46.9%)は2群間で差はなかったが、A群では末梢神経障害 (18.3% vs. 0.8%: p=0.0001) の頻度が高く、B群では粘膜炎 (26.7% vs. 32.0%: p=0.011) 、脱毛 (1.5% vs. 9.4%: p=0.006) 、腎機能障害 (3.0% vs. 11.7%: p=0.036) が高頻度にみられた。また、治療関連死亡(TRD)7例 (1例 vs. 6例: p=0.06) 、突然死4例 (1例 vs. 3例: p=0.06) を認めた。一方、治療完遂はA群 67.9%、B群 72.2%であった。
 観察期間中央値25.3ヵ月の段階で、A/B群におけるCR率は41.0%/41.3%であり、PFS中央値は9.7/9.4ヵ月 (HR 0.93, 95%CI: 0.70-1.24) 、OS中央値は20.2/17.5ヵ月 (HR 0.94, 95%CI: 0.68-1.29) と有意差を認めなかった。

結論

 FOLFOX併用CRTは、FP併用CRTと比較して治療完遂率、CR率に大きな差はなく、PFSの改善はみられなかった。FOLFOX併用CRTはgrade 1-2の末梢神経障害の頻度が高いものの、粘膜炎、脱毛、腎機能障害といった有害事象や突然死も少なく、特にCDDP禁忌の症例に対しては安全な新しい治療オプションとなる。

コメント

 結果からすれば、本試験はあくまでもnegative studyであり、食道癌に対するdefinitiveなCRTにおけるbaseline chemotherapyとしてのFOLFOXの優越性は証明されなかった。しかし、結論にも記載されているように、FOLFOXはより毒性が軽微で、安全性も高く、CDDPが使用できない症例に対する有望なオプションとなるものと考えられた。FOLFOXは外来でも使用できるため、FPと比較してより利便性が高く、実際にはFOLFOXと放射線療法の併用の方がFPより使用しやすいものと思われる。会場での質問にもあったが、本試験はデザインに問題があり、本来FPとの非劣性試験で検討すべきものと思われた。しかし、FPにおける6.4%のTRDと、フランスにおいてこの対象の約85%が扁平上皮癌であることには些か驚いた。

(レポート:結城 敏志 監修・コメント:寺島 雅典)

Reference
  1. 1) Conroy T, et al.: 2007 Annual Meeting of the American Society of Clinical Oncology® abst #4532 [学会レポート]
  2. 2) Conroy T, et al.: Br J Cancer. 103(9): 1349-1355, 2010
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