演題速報レポート

背景と目的

 Tivantinibは、hepatocyte growth factorの受容体であるチロシンキナーゼのc-Metを阻害する経口剤である。c-Metは癌細胞の増殖、浸潤、転移や血管新生に関わっており、肝細胞癌 (HCC) において高頻度に発現している。また、c-Metは予後不良因子としても報告されている。TivantinibはHCCにおける第I相試験にて、単剤でもSorafenibとの併用においても良好な治療効果が報告されており、本試験では2nd-line化学療法としての有効性が検証された。

対象と方法

 対象は1st-line化学療法に治療抵抗性の切除不能HCC患者 (PS 0-1、Child-Pugh A) であり、Tivantinib群 (360mg bid→240mg bid) と対照群とに2:1に無作為割付けされた (割付け調整因子:PS、血管浸潤の有無) 。治療はPDもしくは許容できない毒性が出現するまで継続し、治療効果判定は6週毎に実施した。対照群におけるPD後のTivantinib使用 (クロスオーバー) を許容した。
 主要評価項目はITT populationにおける中央画像判定によるTTP (time to progression: 片側α0.05) であり、副次評価項目はPFS (progression-free survival)、OS (overall survival)、DCR (disease control rate: 病勢制御割合) 、奏効率 (RR)、有害事象、薬物動態である。

結果

 2009年10月から2011年8月の間に107例が登録されたが、Tivantinib群 (360mg bid) に57例が登録された時点で、grade 3以上の好中球減少が高頻度に発現したため、240mg bidに減量された。Tivantinib群と対照群の患者背景に差はなかった (表1)


表1

 PDによる治療中止はTivantinib群では66%、対照群では72%であり、有害事象による治療中止はTivantinib群で7%にみられた。後治療はTivantinib群の7%、対照群の3%に実施された。
 ITT populationにおけるTTPはTivantinib群で有意に延長しており (HR 0.64, 95%CI: 0.43-0.94, p=0.04) 、TTP中央値はTivantinib群6.9週、対照群6.0週であった (図1) 。DCRはTivantinib群で44% (95%CI: 32-56%)、対照群で31% (95%CI: 16-48%)であった。一方、OSに有意差は認められなかった (HR 0.90, 95%CI: 0.57-1.40, p=0.63) 。


図1

 Met陽性 (免疫染色にて腫瘍の>50%でMet 2+ or 3+と定義) はTivantinib群45%、対照群54%であり、Met陽性例では陰性例に比べて予後不良であった (OS中央値: 陽性9.0ヵ月 vs. 陰性3.8ヵ月, HR 2.94, 95%CI: 1.16-7.43, p=0.02)。Met陽性例におけるTTPはTivantinib群で延長しており (HR 0.43: 95%CI: 0.19-0.97: p=0.03) 、TTP中央値はTivantinib群11.7週、対照群6.1週であった (図2) 。OSもTivantinib群で延長しており (HR 0.38, 95%CI: 0.18-0.81, p=0.01) 、OS中央値はTivantinib群7.2ヵ月、対照群3.8ヵ月であった。Met陰性例におけるTTP、OSに有意差はみられなかった。
 サブグループ解析の結果を表2に示す。


図2

表2

 Tivantinib群におけるgrade 3以上の有害事象について、240mg bidの用量では貧血9%、好中球減少6%と忍容性は良好であった (360mg bid: 貧血16%、好中球減少21%) 。

結論

 Tivantinib (240mg bid) は、HCC患者、特にMet陽性患者に対する2nd-line化学療法として、効果、安全性いずれの観点からも有望なレジメンであると考えられた。

コメント

 未承認薬の臨床試験成績報告である。ARQ 197の非臨床試験結果から、ヒト癌細胞株のc-Met活性化を阻害し、複数のヒト腫瘍異種移植片に対して抗腫瘍活性が示されている。各癌腫において臨床試験が行われており、欧州では扁平上皮癌を除く非小細胞肺癌を対象とする臨床第III相試験の登録がすでに終了している (MARQUEE試験)。本米国臨床腫瘍学会年次集会においても、HCCのほかに腎癌、悪性黒色腫、胃癌と多岐にわたり報告が行われており、注目の開発中薬剤として速報紹介となった。
 本試験結果より、Tivantinibの推奨投与法が確認され、またMet陽性のバイオマーカーとしての可能性が示された。これらの情報をもとに、新たに臨床第III相試験が計画される。有用性を検討するには、その結果を待たなければならない。ただし、Metが予後予測因子であることについては、今後広く検討されていくものと考える。

(レポート:中島 貴子 監修・コメント:佐藤 温)

btn_close

演題速報 デイリーランキング

このサイトは医療関係者の方々を対象に作成しています。
必ずご利用規約に同意の上、ご利用ください。記事内容で取り上げた薬剤の効能・効果および用法・用量には、日本国内で承認されている内容と異なるものが、多分に含まれていますのでご注意ください。