演題速報レポート

背景と目的

 MET受容体とそのリガンドであるHepatocyte Growth Factor/Scatter Factor (HGF/SF) は、胃・胃食道接合部癌において重要な因子であり、これまでにMET高発現と胃癌における予後不良との関連が報告されている1)。RilotumumabはHGF/SFに対する完全ヒト型抗体であり、胃・胃食道接合部癌121例が登録された無作為化第II相比較試験 [Rilotumumab 15mg/kg + ECX (Epirubicin + Cisplatin + Capecitabine) vs. Rilotumumab 7.5mg/kg + ECX vs. placebo + ECX] において、Rilotumumab併用群のOS (overall survival) およびPFS (progression-free survival) が良好であったことが報告された2)。今回、Rilotumumabの効果予測因子としてのMET経路について検討した。

対象と方法

  1. ・対象
    切除不能な局所進行または転移を有する胃・胃食道接合部癌に対するRilotumumab + ECX併用療法とplacebo + ECX併用療法の第II相比較試験2)に登録された症例
  2. ・検討項目
    下記の項目についてOS、PFSとの関連を検討した。
    1.  MET蛋白発現量 (免疫組織化学染色; IHC) : MET High (腫瘍細胞>50%、細胞膜>1+) 、MET Low (腫瘍細胞≦50%、細胞膜≦1+)
    2.  MET gene copy number (FISH)
    3.  HER2 (IHC、FISH)
    4.  血漿HGF (ELISA)
    5.  血漿可溶性MET

結果

 解析対象となった118例においてMET蛋白発現量が測定できたのは90例であり、MET High症例は38例 (42%) 、Low症例は52例 (58%) であった。MET gene copy numberは75例、HGFおよび可溶性METは109例で測定可能であった (表1) 。

表1

 IHC法による解析の結果、MET High症例のPFS中央値はRilotumumab + ECX群で6.9ヵ月、placebo + ECX群で4.6ヵ月であり (HR 0.51, p=0.085) 、OS中央値は各々11.1ヵ月、5.7ヵ月であった (HR 0.29, p=0.012) 。OSにおけるRilotumumab + ECX群のMET High症例およびMET Low症例のHRは0.677 (p=0.247) であり、Rilotumumab + placebo群のHRは3.218 (p=0.037) であった (図1) 。

図1

 また、MET蛋白発現量の増加に伴い、Rilotumumab + ECX群の予後はRilotumumab + placebo群と比べて良好となった (図2) 。

図2

 また、MET High症例における有害事象は、Low症例と比較して忍容可能であった。
一方、MET蛋白発現量とHER2 status、MET gene copy numberおよび血漿HGF、可溶性METとOSとに相関は認められなかった。

結論

 MET蛋白発現量は予後因子かつRilotumumabの効果予測因子である可能性が示唆された。MET High症例における有害事象は忍容可能であった。MET gene copy numberと血漿HGF、可溶性METと予後には関連を認めなかった。
 今回の結果をもとに、MET陽性胃・胃食道接合部癌を対象にしたECX療法に対するRilotumumabの上乗せ効果を検証する第III相試験が計画中である。

コメント

 ToGAにおいて、HER2陽性進行再発胃癌患者に対してTrastuzumabの有効性が証明され3)、進行胃癌の化学療法の世界にも、分子標的治療薬による個別化医療の時代の幕が開けた。現在では、それ以外にEGFR、VEGF、MET、mTOR、HSP-90、IGF1R等の多くの分子標的治療薬が見出され、臨床開発がなされている。METは多くの胃癌で発現することが示されており、その経路に関わる分子標的治療薬に期待が集まっている。METは血管増殖因子HGFの受容体であり、チロシンキナーゼ (蛋白質のチロシン残基をリン酸化する酵素) である。RilotumumabはMET受容体のリガンドであるHGF/SFに対する完全ヒト型抗体であり、2011年のESMOでもその臨床効果の報告が成され、良好な結果が示された2) 。本研究はその試験に登録された患者検体を用いてOSとの検討が成された。Rilotumumab併用群ではMET High群において、統計学的に有意にPFSおよびOSの延長がみられ、MET蛋白発現量が多いほど予後が改善する傾向にあった。一方、HER2 statusとMET蛋白発現は重ならず、関連はないとの結果であった。
 本結果より、MET蛋白は検討した症例の多くで測定可能であり、その半数がMET High群であったことが示された。現状では、HER2強陽性は胃癌全体の2割弱のみであり、Trastuzumabを使えない患者は8割にのぼる。以上より「HER2陰性群の半数がMET Highである」ことが想定され、このような患者層にはRilotumumabの効果が得られる可能性がある。今後の第III相試験の結果に大いに期待したいところである。

(レポート:山﨑 健太郎 監修・コメント:小松 嘉人)

Reference
  1. 1) Nakajima M, et al.: Cancer. 85(9): 1894-1902, 1999[PubMed
  2. 2) Iverson T, et al.: ESMO2011: abst #6504[ESMO 2011 レポート
  3. 3) Bang YJ, et al.: Lancet. 376(9742): 687-697, 2010[PubMed][論文紹介

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