演題速報レポート

背景と目的

 KRAS 変異型大腸癌に対するOxaliplatin(L-OHP)ベースの化学療法にEGFR阻害剤を併用するとPFS(progression-free survival)及びOS(overall survival)が短くなることが、第III相試験の結果より報告されている(図11, 2)。しかし、このような負の相互作用は、KRAS 野生型の症例やKRAS 変異型に対するIrinotecan(CPT-11)ベースの化学療法では認められていない3, 4)。今回、KRAS変異型の大腸癌細胞株を用いて、EGFR阻害剤とL-OHPの薬力学的相互作用について検討した。

図1

対象と方法

 KRAS 変異型、野生型の大腸癌細胞株に対してL-OHP、SN-38(CPT-11の活性代謝産物)、Panitumumab(Pmab)、Gefitinib、MEK阻害剤、PI3K阻害剤、Src阻害剤を単剤または併用投与し、生存能力をATPlite assayにて評価した。細胞のEGFRの分布に関しては共焦点顕微鏡にて描出した。MAPKおよびPI3K経路の活性化はWestern Blot法を用いて評価した。

結果

 KRAS 変異型大腸癌細胞株に対するL-OHPによる細胞増殖阻害作用は、Gefitinibと併用投与すると減弱されたが(p=0.0002、図2)、Pmab併用投与では有意な差は認められなかった。L-OHPのplatinum-DNA adductの数に対する作用は、Gefitinib併用により変化はみられなかった(図3)。
 KRAS 野生型大腸癌細胞株では同様の作用は認められず、またKRAS 変異型/野生型にかかわらずSN-38による細胞増殖阻害作用はPmab、Gefitinibを併用投与しても減弱されなかった(図2)。

図2
図3

 EGFRはKRAS 変異型では主に細胞質に、KRAS 野生型では細胞膜表面に分布しており、抗EGFR抗体薬であるPmabを併用投与しても、L-OHPによる細胞増殖阻害作用が減弱されなかった可能性が考えられた。
 L-OHPとGefitinib併用投与によるpAKTへの作用は、KRAS 野生型株では減弱され、KRAS 変異型株では増強された()。

 KRAS 変異型大腸癌細胞株におけるGefitinibとL-OHPの負の相互作用は、MEK阻害剤、PI3K阻害剤、Src阻害剤を併用投与すると改善された(図4-6)。

図4
図5
図6

結論

 今回、KRAS 変異型/野生型大腸癌細胞株におけるL-OHPと抗EGFR阻害剤の薬力学的相互作用について検討可能な前臨床モデルを確立した。KRAS statusは細胞におけるEGFR分布に影響している可能性があり、この分布の違いがKRAS 変異型大腸癌細胞株においてPmabとL-OHPの負の相互作用が認められなかった一因と示唆された。AKTは、EGFR阻害剤が投与されたKRAS 変異型大腸癌細胞株におけるL-OHP耐性に関与している可能性がある。PI3K、MAPK経路阻害剤はKRAS 変異型大腸癌細胞株におけるGefitinibとL-OHPの負の相互作用を改善した。

コメント

 DouillardらのPRIME試験により、KRAS 野生型患者群においてPmabのFOLFOX4に対するPFSの上乗せ効果が証明されたが、KRAS 変異型患者群ではPmabの効果が認められないどころか、FOLFOX4単独治療の生存曲線と完全に逆転しており、Pmab併用によりPFS中央値が4ヵ月も短くなるという結果であった2)。本研究では、KRAS 変異型大腸癌細胞株を用いた前臨床モデルを確立し、EGFR阻害剤とL-OHPの薬力学的相互作用について検討された。この実験系において、KRAS 変異型細胞株にGefitinibを投与すると、L-OHPによる細胞増殖阻害作用の減弱が確認されたが、Pmab投与では認められなかったことから、その仮説の一助は得られたものの、機序の解明には至っていない。
 今後も様々な薬剤が登場し、その併用療法が研究されることになるが、何らかの機序により、予想外の薬力学的相互作用が生じ、投与された患者の不利益に繋がる可能性もある。この実験系では、PI3K、MAPK経路阻害剤はKRAS 変異型大腸癌細胞株におけるGefitinibとL-OHPの負の相互作用を改善させており、臨床的には分子標的薬の併用によって効果を高められる可能性も期待できる。上述の如く、本研究のような基礎実験は、治療法開発の大切なプロセスの一つとなることはいうまでもない。

(レポート:山﨑 健太郎 監修・コメント:小松 嘉人)

Reference
  1. 1) Bokemeyer C, et al.: Ann Oncol. 22(7): 1535-1546, 2011
  2. 2) Douillard JY, et al.: J Clin Oncol. 28(31): 4697-4705, 2010
  3. 3) Peeters M, et al.: J Clin Oncol. 28(31): 4706-4713, 2010
  4. 4) Van Cutsem E, et al.: N Engl J Med. 360(14): 1408-1417, 2009
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