演題速報レポート

背景

 本臨床試験は、術前画像診断により切除可能と診断された肝限局転移 (LM) を有する大腸癌患者への周術期化学療法と肝切除の効果を評価するEORTCの第III相試験である。主要評価項目はPFS (progression-free survival) であり、2007年 米国臨床腫瘍学会年次集会にて報告された1, 2) 。今回、副次評価項目であるOS (overall survival) について、観察期間中央値8.5年の結果を報告する。

方法

 2000年9月から2004年7月までに、切除可能な4個以下の肝転移を有する大腸癌患者364例が登録され、化学療法群 (FOLFOX4を術前・術後に6サイクルずつ実施) と手術単独群とに182例ずつ無作為割付けされた。それぞれ適格症例は171例で、肝切除は152例に施行された。化学療法群では術前化学療法が全例に、術後化学療法は115例に施行された (図1、2)
 OSは両側非層別化log-rank testにて比較し、有意水準は0.05とした (intent-to-treat 解析)。

図1
図2

結果

 中央値8.5年の観察期間が経過した時点で化学療法群の58.8% (107例)、手術単独群の62.6% (114例) で死亡が報告された。主な死因として、再発は化学療法群で46.7% (85例)、手術単独群で54.4% (99例) であり、周術期合併症による死亡は両群とも1.1% (2例) であった。
 5年OSは化学療法群で52.4%、手術単独群で48.3%、中央値はそれぞれ63.7ヵ月、55ヵ月であり、両群間に有意差を認めなかった (図3: HR=0.87, 95%CI: 0.66-1.14, p=0.303)。


図3

 腫瘍の増悪後の2nd-line治療として化学療法が実施された割合は、化学療法群で75.6%、手術単独群で90%であった (表) 。一方、再肝切除が施行された割合はそれぞれ 53.7%、50.0%であった。


結語

 FOLFOX4による周術期化学療法は手術単独と比べて、PFSを向上させたが、OSについては有意な改善を示さなかった。

コメント

 本演題は、切除可能な肝転移を有する大腸癌患者を対象としてFOLFOX4による術前・術後補助化学療法の有用性を検討した試験 (EORTC Intergroup trial 40983) の長期観察結果の報告である。この試験については、既にFOLFOX4の術前・術後補助化学療法によって、手術単独と比較して肝転移症例の3年DFSを8.1%向上すると報告されている1, 2)。しかし、副次評価項目のOSについては、FOLFOX4を用いた術前・術後補助化学療法による延長効果は認められなかった。適格症例の5年生存率は、CTによって3.9%向上したのみである。この理由として、同程度のOSの上乗せで有意差が出たMOSAIC試験を取り上げ、本研究のパワー不足が指摘されていた。確かに、このstudy designで1,000例をこえる症例の登録を得ることは至難であろう。一方、前回の報告 (2007年 米国臨床腫瘍学会年次集会) をみると、8%の3年DFS (disease-free survival) の差は手術時の腫瘍遺残の有無の差がほぼそのまま反映されたものである。二重盲検試験が困難なstudyで、何らかのバイアスがかかった可能性もある。なおディスカッションでは、現在のところ、この療法が切除可能な大腸癌肝転移症例に対する標準的補助化学療法であるという十分なエビデンスはないと述べられた。

(レポート:岩本 慈能 監修・コメント:大村 健二)

Reference
  1. 1) Nordlinger B, et al.: 2007 Annual Meeting of the American Society of Clinical Oncology® abst #LBA4003 [学会レポート]
  2. 2) Nordlinger B, et al.: Lancet. 371(9617): 1007-1016, 2008 [PubMed]
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