演題速報レポート

背景・目的

 これまで、切除不能の遠隔転移を有する大腸癌において、原発巣切除 + 化学療法と化学療法単独とを比較した無作為化試験はなく、原発巣切除が生命予後に与える影響はいまだ議論されているところである。この研究の目的は、複数の切除不能の遠隔転移を有する大腸癌患者における原発巣切除が生命予後に及ぼす影響を検討することである。

方法

 初回治療を対象とした4つの臨床試験 (FFCD 9601、FFCD 2000-05、ACCORD 13、ML 16987: 図1) から遠隔転移を有する大腸癌患者1,155例の個別データが抽出された。

図1

 切除不能と判断された同時性遠隔転移を有する症例を適格症例とし、原発巣を切除された群 (Resection群) と原発巣が残存したままの群 (No resection群) とに分けてその効果を検討した。主要評価項目はOS (overall survival) とし、生存期間に対する影響の評価には、階層化されたCox比例ハザードモデルを用いた。

結果

 遠隔転移を有する大腸癌患者1,155例のうち、異時性転移を有する症例、不確定な遅延が生じた症例、切除後6ヵ月を超える症例を除いた810例を、Resection群478例とNo resection群332例とに分けて比較した (図2)。

図2

 両群間には年齢や性別、転移数、PSなどに群間差はみられなかったが、No resection群では直腸原発が多く (p<0.0001)、さらにALP高値 (p=0.04)、CEA高値 (p<0.0001) を認めた。
 Forest plotにより原発巣切除とOSとに有意な相関が認められ (図3)、単変量解析による24ヵ月時点のResection群のOSもNo resection群と比べて高値であった (図4)。

図3
図4

 また、CEA (≦600ng/mL) および原発巣別の解析においても、原発巣切除とOSに相関が認められ、多変量解析においても同様の傾向であった (図5) 。

図5

結語

 この研究により、切除不能の遠隔転移を有する大腸癌患者の原発巣切除は、独立した良好な予後因子であることが確認できた。CEAの上昇が顕著でなければ、直腸癌であっても原発巣を切除するべきである。

コメント

 切除不能な転移巣を有する大腸癌症例に対して原発巣の切除を施行する価値があるかについては、いまだ意見の一致をみていない。NCCNのガイドラインでは、同時性の切除不能の転移巣を有する結腸癌症例では、原発巣の切除は腸管の閉塞が切迫している場合と出血が激しい場合に限るとされている。本研究では、切除不能な転移巣を有する大腸癌症例を対象とした4本のRCTの後ろ向き解析から、結腸および直腸のいずれの原発臓器であっても、原発巣切除症例で非切除症例と比較してOSが延長することが示された。ただし、この仮定を証明する無作為化比較試験ではないので、原発巣を切除できなかった症例では腫瘍の局所の進行度がより高度であった可能性がある。なお、CEAが高値 (600ng/mL以上) である症例では、原発巣切除による延命は認められていない。ディスカッションでは「無症状の原発巣を切除することによって、転移を有する癌症例の予後が改善することは、腎細胞癌や乳癌でも認められる現象である」と述べられていた。

(レポート:岩本 慈能 監修・コメント:大村 健二)

btn_close

演題速報 デイリーランキング

このサイトは医療関係者の方々を対象に作成しています。
必ずご利用規約に同意の上、ご利用ください。記事内容で取り上げた薬剤の効能・効果および用法・用量には、日本国内で承認されている内容と異なるものが、多分に含まれていますのでご注意ください。