吉野:最後に、大腸癌領域の新規治療の開発状況について、谷口先生にご紹介いただきます。
谷口:現在開発中の3つの新規治療について簡単に紹介します。1つめは、HER2陽性大腸癌に対するHER2阻害薬併用療法です。MyPathway試験は米国で進行中のバスケットデザインによる試験で、HER2、BRAF、Hedgehog、EGFRのそれぞれに異常が認められた患者を対象に、分子標的薬を投与しています。そのなかで、HER2の過剰発現あるいは活性化変異が認められた患者に対して、Trastuzumab+Pertuzumab療法が実施されました。その結果、ORRはKRAS野生型では52%でしたが、変異型では0%と、大きな違いが認められています5)。
2つめは、マイクロサテライト不安定性の高い(MSI-H)大腸癌に対する免疫チェックポイント阻害療法で、CheckMate142試験の結果から、MSI-HではNivolumab単独、あるいはNivolumab+Ipilimumab併用が有効な可能性が示唆されています。最近、Nivolumab単独群の治療成績がアップデートされ、BRAF変異型かつMSI-Hでも有効例が確認されたことから、遺伝性および散発性のMSI-H大腸癌の両方で治療に反応しているように考えられました。また、PD-L1発現も有効性とはあまり関係しないという結果が得られました6)。
3つめは、BRAF V600E変異例に対するBRAF阻害薬による治療です。BRAF阻害薬単独では効果が不十分であることから、抗EGFR抗体薬との併用で開発が進んでおり、Cetuximab+IrinotecanとCetuximab+Irinotecan+Vemurafenibを比較する第II相試験(SWOG1406試験)では、主要評価項目であるPFS中央値はそれぞれ2.0ヵ月、4.4ヵ月(HR=0.42; logrank test, p=0.0002)と大きな差が認められました7)。BRAF V600E変異例に対するBRAF阻害剤と抗EGFR抗体の併用療法は他にも複数の試験が実施され、期待される結果が報告されています。
吉野:ありがとうございました。新たな治療法の開発によって大腸癌の予後の改善が期待されます。今後は大腸癌治療においても個別化医療が進展し、HER2、BRAF、MSIなど、ゲノムの状態や変異のタイプに沿った治療が行われる時代が到来するのではないかと期待しています。先生方、本日は有意義なお話をありがとうございました。
