1st-lineと2nd-lineの選択
瀧内: 続いて、進行例に対する1st-line、2nd-lineの治療戦略をおうかがいしたいと思います。
白尾: 通常、1st-lineはFOLFOX+ベバシズマブ、2nd-lineではFOLFIRIを行います。
植竹: 1st-lineは白尾先生と同様にmFOLFOX6+ベバシズマブを行いますが、2nd-lineはイリノテカン(CPT-11)単剤にしています。
瀧内: CPT-11単剤を選択する理由を教えていただけますか。
植竹: 2nd-lineということで、特に継続性を重視しています。CPT-11単剤の一番の利点は長く続けられることです。FOLFIRIの「FOLF」部分と「IRI」部分では、同じような副作用が相加的に発現しますが、CPT-11単剤にすることでそれを避けられます。また、L-OHPとも5-FUとも交差耐性がないという点も理由の1つです。
吉野: 私の場合は、まず外科医に「なぜ肝転移巣を切除できないのか」をCT画像を見ながら教えてもらい、「どういう状態になれば肝切除ができるようになるのか」を話し合います。それから、術後2週間程度でFOLFOXを始め、28日を超えた時点でベバシズマブを追加します。この症例は原発巣を切除しているので、最初はベバシズマブを投与せず、FOLFOXだけで始めます。2nd-lineはFOLFIRIになります。
貞廣: 転移は肝臓だけで、多発であっても将来の切除の可能性は予測困難という前提で考えると、FOLFOX、FOLFIRI、肝動注(5-FU/l-LV)という3つの手段になるかと思います。全身化学療法から入るのであればFOLFIRIから始めますが、症例によっては肝動注とFOLFOXの併用から開始する場合もあります。以前に参加した第I相試験で、FOLFOXと肝動注(250mg/日)を1週投与・1週休薬というスケジュールで行い、問題がないことを確認しています。
瀧内: 現在のところ、肝動注は、メタアナリシスなどでもsurvivalに有意差が出るには至っていません。貞廣先生の提示された治療法は、その部分を補う意味で全身化学療法も組み入れた肝動注ということですね。
FOLFOXが先か、FOLFIRIが先か
瀧内: 1st-lineはFOLFOXかFOLFIRIかという問題には、さまざまな角度からご意見があるかと思います。特に、肝切除を念頭に置いた場合はFOLFOXがよいとお考えの先生もいらっしゃると思いますが、いかがですか。
白尾: FOLFOXかFOLFIRIかに関しては、現時点のエビデンスではどちらが先でも大差はないと思います。ベバシズマブを加えたときも両治療はほぼ同等に扱われますが、エビデンスレベルはFOLFOXのほうが上だと思います。
瀧内: NO16966試験4)では毒性による継続性が大きな問題になりましたが、実際にFOLFOX+ベバシズマブで治療する場合には、毒性の管理に工夫が必要だと思います。
植竹: この症例はH 3 ですから、肝切除が可能な状態にもっていくのが理想です。肝切除の適応は施設ごとに異なりますが、FOLFOX+ベバシズマブの肝切除率は現時点で最も高いですし、切除に至らなくても切除不能症例の1st-lineとしても適切なので、FOLFOX+ベバシズマブから開始するのが理にかなっていると思います。投与は毒性も鑑みて6回、3ヵ月程度で肝切除を行うかどうかの評価をします。
瀧内: ベバシズマブを併用する際に、stop and go の理論を取り入れる予定はないですか。
植竹: 今のところありません。副作用が問題にならない患者さんもいますし、PR inになった症例に、L-OHPを6回で中止するのは惜しいので。切除不能例には、毒性で投与不能となるまでなるべく長く継続します。その代わり神経毒性の場合は、grade 2で少し運動に支障が出てきたら中止します。
瀧内: 肝切除にもっていくという観点からは、奏効率はきわめて重要なポイントだと思うのですが、NO16966試験では、L-OHPベースのレジメンに対するベバシズマブの奏効率の上乗せ効果はなかったですね。
吉野: IFL±ベバシズマブの効果を比較したAVF2107g試験でも、奏効率は10%しか上がっていません5)。 結局、ベバシズマブの役目は奏効率を上げるということより、PFSを延ばすことなのだと思います。
では、肝切除率が上がるのかという問題になりますが、エビデンスレベルの高いデータはありませんが、NO 16966試験のサブ解析6) では、ベバシズマブ併用群の肝切除が増えています。また、『Cancer』に掲載された論文では、ベバシズマブを併用したほうがL-OHPの総量が少ない段階で切除できる可能性が示唆されています7)。ただ、NO16966試験の問題点は、ほとんどの患者さんが6ヶ月間で治療を完全に終了してしまっているということです。OPTIMOX2試験では、完全休薬後にFOLFOXを再導入した群と維持療法施行後に再導入した群で、OS中央値が19ヵ月 vs 26ヵ月と、7ヵ月の有意差がありました8)。この差は大きいと思います。
これらの点を考えると、L-OHPが使えなくなった患者さんは、5-FU/l-LV+ベバシズマブに切り替えてでも治療を継続し、神経毒性が回復してきたらL-OHPを再導入するのがよいと思います。
瀧内: 肝切除の際のL-OHPはsinusoidal dilatationなどの障害、CPT-11ベースのレジメンでは脂肪性肝炎などの障害と、併用薬によって肝障害の出方も違うといわれています。貞廣先生は、そこに肝動注も加えるということですが、薬剤と肝障害の関連を実感されていますか。
貞廣: 1ヵ月ほど休んでから手術するので、あまり障害を感じたことはありません。私はCPT-11から全身化学療法に入るのですが、FOLFOXよりCPT-11+UFT/LV錠(TEGAFIRI)のほうが扱いやすいと感じています。当院で第 II 相試験に参加した50例中、10ヵ月以上継続できた症例が7例あるのです。CPT-11は最初の1〜2回で副作用が強く出る人がいることも事実ですが、それを超えた患者さんは継続性がよく、SDが3年間続いている人もいます。一般に1st-lineのほうが2nd-lineよりも継続期間が長いので、CPT-11の扱いやすさは捨てがたいと思います。2nd-lineでFOLFOX+ベバシズマブを行っています。
瀧内: 一時は多くの先生がFOLFOXに流れていきましたが、最近はFOLFIRIのほうがよいと再評価する先生も増えていると聞いています。
経口薬では、2nd-lineでFOLFIRI とTS-1+CPT-11(IRIS)を比較するFIRIS試験が行われていますが、TS-1の位置付けについてはいかがでしょうか。
白尾: TS-1は日本で開発された経緯があり、毒性も比較的少なく、扱いやすいと感じている先生方が多いと思います。現時点では、大腸癌領域でのきちんとした評価は得ていないため、大腸癌にもTS-1が使えるようにという期待を込めて試験を行っているわけです。
5-FU/l-LV+ベバシズマブについて
瀧内: 分子標的治療薬が組み入れられて、FOLFOXあるいはFOLFIRIとベバシズマブを併用する施設も増えていると思いますが、すべての症例にL-OHPやCPT-11が投与できるとは限りません。条件の悪い人や高齢者には、5-FU/l-LV+ベバシズマブの選択肢もありうると思うのですが、いかがでしょうか。
吉野: 私が行うとすれば、sLV5FU2+ベバシズマブですね。高齢者で3剤併用に不安があるときは、それで開始すると1〜2回の投与でその患者さんの毒性プロファイルがみえてくるので、L-OHPあるいはCPT-11を追加するかどうかの判断ができます。
瀧内: 米国のAVF2192g試験では、5-FU/LV(RPMI)群のPFSが5.5ヵ月であったのに対し、5-FU/LV+ベバシズマブ群では9.2ヵ月9)と、CPT-11やL-OHPが使えないような条件の悪い症例が対象であるにもかかわらず、良好な成績が得られています。
白尾: NCCNのガイドライン(図)でも同様の考え方が採用されています。実際には、その具体的選択基準が難しいのですが、PSを基準にしてもいいかもしれません。吉野先生のように、我々も安全性が高いと思われるinfusional 5-FU/l-LV+ベバシズマブから開始しています。
植竹: NCCNのガイドラインもカペシタビン+ベバシズマブの次にinfusional 5-FU/LV+ベバシズマブになっていますね。
瀧内: 転移・再発症例に対する経口療法として、今後、日本では、UFT/LV錠あるいはTS-1とベバシズマブの併用も検証すべきレジメンではないかと思います。
3rd-lineについて
瀧内: 以上のように、1st-line、2nd-lineは欧米と変わらない治療選択肢が可能になっているということですが、3rd-lineはどうされていますか。
貞廣: best supportive care だけですね。患者さんと相談しながら1st-line、2nd-lineと進んで、ある程度の期間を経た後ですから。最近、1st-line、2nd-lineで十分な効果が得られなかった肝転移だけの症例に対して、L-OHPの肝動注が有効であったという報告が出ていますが、現時点できちんとした3rd-lineの提示はできません。
白尾: 私も貞廣先生と同じ意見です。残念ながら3rd-lineで提示すべき治療はないということです。
植竹: エビデンスはありませんが、肝転移が生命予後の規定因子ならば、他臓器に転移があっても5-FUの肝動注を行います。それからTS-1、あるいはドキシフルリジン(5'DFUR)も考えます。3rd-lineぐらいになって、細胞増殖が盛んでTPが高いと推察される腫瘍には、ほかの経口フッ化ピリミジンよりも5'DFURが効く可能性があります。
吉野: どうしても治療を望まれる患者さんには第 I 相試験も提示しますが、cetuximabを個人輸入している方もいらっしゃいます。以前はTS-1を使っていたのですが、最近は使用していません。3rd-lineとしてのTS-1の有効性を示唆する韓国の論文もあるのですが、実地医療では有効例が少ないように思います。
瀧内: 3rd-lineには、なかなかよい選択肢がないということですね。
cetuximabの今後の展望
瀧内: 現在、cetuximabの承認が強く待ち望まれていますが、cetuximabが導入された場合の今後の展望についてコメントをお聞かせください。
吉野: cetuximabは今年の秋か冬あたりに、CPT-11との併用で承認されるのではないかと思います。おそらく2nd-lineか3rd-lineで使われ、2nd-lineではCPT-11またはFOLFIRIとの併用、3rd-lineではCPT-11との併用で多く用いられるのではないでしょうか。現在進行中のEPIC試験では、最初からcetuximabを併用した群と、後治療としてプロトコールを offにしてから併用された群のOSが最終的には同じであった10) ことから、2nd-lineに必須というわけではなく、「少なくとも3rd-lineまでに使用すべき薬剤」という認識でよいのではないかと思います。
おそらく、実地医療でよく行われるのはCPT-11とcetuximabの併用です。CPT-11 failure 症例に対して日本のデータでも奏効率が30%、TTPが 4.1ヵ月11) 。CPT-11 failure例にcetuximabを追加すると、cetuximab単独の奏効率は10%程度ですから、より高い奏効率が期待できるということで、多く行われると思います。もう1つ、今回の承認要項には入らないと思いますが、K-ras遺伝子変異がある例(全体の約4割)には効かない12)という報告が多数あるので、その検査をしてから投与を決めるようになるかもしれません。非常に高価な薬剤ですからね。
瀧内: では、case2についてはすべての1st-lineにベバシズマブを併用する。多くの先生方はFOLFOX+ベバシズマブということでした。また、2nd-lineは、1st-lineで使わなかったほうのレジメンを行い、CPT-11の場合には単剤もありうるということですね。そうしたなかで、日本独自のTS-1が2nd-lineで検証中であり、その結果によってはIRISも2nd-lineの選択肢になりうるということかと思います。なお、現時点では3rd-lineのよい選択肢がないため、cetuximabへの期待も大きいと思います。
本日はお忙しい中ご出席いただき、どうもありがとうございました。