術後補助化学療法の選択肢
瀧内: 昨年はベバシズマブが本邦でも使用できるようになり、カペシタビンも術後補助化学療法での使用が認められました。また、今年中にcetuximabも承認される予定で、ようやく欧米と遜色のない治療オプションが揃います。そこで本日は、架空の症例を先生方と一緒に検討し、レジメン選択の基準や注意点などについて、お話をうかがいたいと思います。まず、case1の術後補助化学療法適応例の治療の選択肢について、ご意見をお聞かせください。
白尾: 注射薬の5-FU/l-LVと経口薬のUFT/LV錠、カペシタビンが考えられます。また、FOLFOXも日本では術後補助化学療法として承認されてはいませんが、検討の余地はあると思います。
植竹: 私はまず、この症例の健康状態をみたいと思います。術後平均1ヵ月ぐらいで肝障害が起こってくることがあるので、1ヵ月後に必ず血液検査を行い、その結果が万全で術後の主要な臓器障害がなければ、その時点でUFT/LV錠、5-FU/l-LV(RPMI)、カペシタビンのなかから患者さんに選択していただきます。ですから、術後補助化学療法の開始時期は、術後1ヵ月を過ぎてからになります。
吉野: stage III aということなので、基本は先生方が挙げられた3種類になりますが、「できる限り再発を抑える治療を」という希望があるなら、FOLFOXも提示します。開始時期は術後8週間以内です。
貞廣:53歳で主だった既往歴もなく、ほぼ健康体ということですから、術後2週間程度で仕事に復帰できるかと思います。外来治療を希望されているのでUFT/LV錠を勧めますが、今後はカペシタビンも提示する必要があると考えています。
瀧内: 先生方のご意見をまとめると、まずは患者さんと相談したうえで、5-FU/l-LVか経口薬にするかを決める。患者さんの強い希望があれば、FOLFOXもあり得るということですね。
注射薬か、経口薬か
瀧内: それでは、注射薬か経口薬かということで、まずは5-FU/l-LVとUFT/LV錠を比較したいと思います。両者の効果はほぼ同等と考えてよいのでしょうか。
白尾: 現在、日本国内でその両者を比較する試験(JCOG 0205試験)が進行中ですが、海外の成績から考えると、ほぼ同等ではないかと思います。簡便性、毒性なども含めて総合的に考えると、UFT/LV錠を推していくのが一般的だと思います。
瀧内: 欧米人の場合、経口薬では下痢などが多いという報告もありましたが、日本人ではいかがでしょうか。
白尾: 切除不能進行胃癌でUFT/LV錠の臨床試験を行ったときには、毒性の出方は欧米人と日本人で大きな差はなかったのですが、日本人で下痢が比較的軽度でした。また、UFT/LV錠と5-FU/LVのクロスオーバー試験で両方のレジメンを経験した患者さんからは、経口薬のほうが好まれたという結果も出ています1) 。
植竹: 私は投薬を6ヵ月間完遂することが最重要だと考えていますので、患者さんのライフスタイルに合わせて選んでいただいています。食事の前後1時間を避けて8時間ごとにきちんと服用できる方ならUFT/LV錠でもよいのですが、もし私が受けるとしたら、週1回抗癌剤を投与して、それ以外の日は薬のことを考えずにすむ5-FU/l-LVもいいかもしれません。副作用については、プロファイルが違うだけで、発現率は同等と説明しています。
瀧内: 来院間隔は、5-FU/l-LV(RPMI)ですと週1回になりますが、経口薬の場合はどうされていますか。
植竹: 最初は投与開始から2週間後に受診してもらい、自覚的な副作用の有無を聞いて、例えば下痢止めや吐き気止めの処方が必要かどうかなどを確認します。それ以降は1ヵ月おきに受診していただきます。
瀧内:
注射薬と経口薬の選択は、個々の患者さんに合わせてということですね。当院の場合だと、男性は注射薬を、女性は経口薬を選ぶ傾向がありますね。また、JCOG 0205試験の結果が日本における結腸癌stage III のベースのデータとなると思いますので、その結果発表が待ち遠しいですね。
UFT/LV錠か、カペシタビンか
瀧内: 2007年末に海外でのデータだけでカペシタビンの大腸癌術後補助化学療法の効能が追加されました。実際の臨床現場では「経口薬はUFT/LV錠とカペシタビンのどちらがよいか」という議論が持ち上がっています。患者さんにどのように情報を伝えるべきか、という問題もありますね。
吉野: UFT/LV錠は1日3回食間、4週服薬・1週休薬、カペシタビンは1日2回食後で、2週服薬・1週休薬です。外勤の方はUFT/LV錠ですと、昼間の服用が抜ける可能性があるので、仕事の内容によってはカペシタビンを勧める場合もあります。ただ、カペシタビンは手足症候群の発現頻度がUFT/LV錠より高いので、手先を使う職業の人には避けるようにしています。また、UFT/LV錠のほうが薬価が高く、70歳未満の場合は医療費に響いてくるので、その説明も必要です。
貞廣: 当院では、薬剤師が手帳を渡して服薬指導をしているので、UFT/LV錠のコンプライアンスがそれほど問題になるとは感じていません。カペシタビンは、再発・転移大腸癌の第 II 相試験2) に参加した際、非常に切れがよい薬だという印象をもちましたが、その反面、grade 3の手足症候群も経験しました。X-ACT試験でも、17%の症例でgrade 3以上の手足症候群が発現しています3)。しかも今回の承認では、第 II 相試験のときよりも1ヵ月あたりの総投与量が25%増えているので、その点を懸念しています。ですから、日本人での使用経験が増えて、副作用の実態が明らかになってから使用したいと思っています。
植竹: 私も同意見で、カペシタビンの使用はしばらく待とうかと思っていたのです。しかし、日本でも保険収載され、国際的なエビデンスもあるので、選択肢の1つとして患者さんに示さなくては不誠実になってしまいます。
瀧内: 手足症候群のコントロールはどのように行っていますか?
吉野: カペシタビンを減量するようにいわれていますが、私はいったん休薬します。術後補助化学療法では、再発・転移症例よりも安全性を重視する必要があるからです。それによって、grade 1まで回復してきたら同じ用量で投与を再開し、再びgrade 2が発現したら減量する、というスタイルをとっています。それから、手荒れや乾燥が症状を悪化させるので、ステロイド、尿素、保湿剤の3種類の軟膏をあらかじめ処方しておき、手が荒れてきたら混ぜて塗布するように指導しています。クリームは、刺激感があるので不向きです。これまで10人ほどに使用し、grade 1の患者さんはいますが、減量や中止が必要になった方はまだおりません。
術後補助化学療法の投与期間
瀧内: 治療は6ヵ月で終了されますか。
吉野: 現時点では、エビデンスのある6ヵ月が一般的だと思います。海外では、FOLFOXの術後補助化学療法で、6ヵ月投与と3ヵ月投与を比較するSCOT試験が行われています。もし3ヵ月でも十分だという結果が出れば、患者さんには朗報になりますね。
貞廣: がん集学的治療研究財団の特定研究であるJFMC 33試験では、UFT/LV錠の6ヵ月(4週投与・1週休薬)と18ヵ月(5日投与・2日休薬)の比較を行っているところです。私自身は「6ヵ月以上服用すればエビデンスがある」「至適継続期間に関しては明確なエビデンスがない」「2年以上は長過ぎる」という点を説明して、副作用なども含めて患者さんの希望を聞き、投与期間を決めているのが現状です。
瀧内: 長期間の内服を希望された場合、コンプライアンスを落とさずに継続できるものでしょうか。
貞廣: その点はあまり問題ないと思います。経口薬の長所は利便性なので、仕事や生活への支障は少ないと思います。定期的な血液検査や問診、診察は必要ですが、それも、治療期間がある程度経過すれば、それほど頻回でなくても大丈夫です。
瀧内: 服薬コンプライアンスを保つために何か工夫をされていますか。
植竹: 薬剤師が介入して、患者さんに服薬メモをつけていただき、外来受診時に我々がチェックしています。あとは、患者さんのライフスタイルに合わせて服薬状況を考えます。UFT/LV錠のモデルケースとして紹介しているのは、「(1) 朝6時服薬、7時朝食、(2) 13時までに昼食、14時服薬、(3) 21時までに夕食、22時服薬」というパターンです。
術後補助化学療法にFOLFOXは必要か
瀧内: では、stage III の術後補助化学療法として、FOLFOXは必要でしょうか。
植竹: 若年のstage III b症例には、何らかのエビデンスが報告されれば、行いたいですね。
白尾: 私は、基本的に標準治療はあまりたくさんあっては混乱を来すだけなので、なるべく少ないほうがよいという考えです。そういう意味で保険の問題を除けば、FOLFOXを積極的に stage III 症例に使ってもよいのではないかと考えています。
貞廣: 個人的には、FOLFOXの再発・転移症例への使用経験から有害事象が強いことを実感しているので、PFSを3〜5%上乗せするために行うのは消極的です。
瀧内: FOLFOXの神経毒性は想像以上にきついので、本当に術後補助化学療法に適しているのかという問題はありますね。また、ポートの埋め込みも必要です。
吉野: 私は、術後補助化学療法でもオキサリプラチン(L-OHP)は必要だと思いますし、治療オプションは多いほうがよいと考えています。ただ、実際に行うのはstage III b 以上で、stage III a についてはリスクとベネフィットのバランスをよく話し合ったうえで、希望される方に行っています。
瀧内: case1では、stage III a症例に対する術後補助化学療法についてご意見をいただきました。5-FU/l-LVか経口薬かは、患者さんの希望やライフスタイルに沿った形で選ぶ。経口薬には、UFT/LV錠とカペシタビンの2つの選択肢があり、UFT/LV錠は長年の使用データが蓄積されていて、使いやすい薬剤と位置付けられています。一方、カペシタビンは日本での術後補助化学療法についての試験データがないので、今後、臨床での使用経験が重ねられていくうちに、おのずとその評価が決まっていくと思います。また、FOLFOXはさまざまな臨床試験の結果や実臨床での経験を参考に、内科・外科で十分な議論が必要ですね。