放射線療法の併用の可否をめぐって

瀧内:結腸癌に比べ、直腸癌の術後補助療法は非常に混沌とした状況にあるので、直腸癌の標準的化学療法は何かという質問には答えにくいと思いますが、大津先生いかがでしょうか。

大津:まだ混沌としていますが、基本的には化学療法単独か、放射線療法を併用するかだと思います。米国は放射線療法の併用を標準としており、ヨーロッパも最近は併用する施設が増えてきています。放射線療法を併用することによる生存率のベネフィットはありませんが、局所再発を抑えるということで使用されているのです。最近は術後よりも術前の放射線化学療法が流行しているようです。その化学療法のregimenは、5-FUの持続静注が標準だと思います。

瀧内:NCCNのガイドラインをみても、化学療法の部分は結腸癌のデータをそのまま流用しており、capecitabine、FOLFOXなど、いろんなregimenがOKということで、何が標準か明確ではありません。海外と日本では治療戦略がまったく違うわけです。特に米国では局所制御を目的として、当初から放射線療法を含めた治療戦略がさまざまな試験で試みられてきました。現在、欧米での放射線療法の補助療法としての位置づけはどうなっているのでしょうか。

坂本:NSABP R-01では放射線療法は少しよい結果が出ているが有意ではない、R-02ではまったく効果がないというデータが示されており、R-03は途中で挫折、R-04は術前放射線治療を標準治療と決めて全例に施行し、その後に無作為化している状況です。さらにDutch trialの結果もネガティブでしたし、術前放射線療法がよかったというデータはSwedish rectal cancer trialだけです。米国は腫瘍放射線医のために、何が何でも放射線療法を直腸癌治療に組み込みたがっているという印象もありますが、日本は直腸癌の手術の質が高いので状況は異なっているのではないかと思います。

貞廣:私は、化学療法だけでよいという坂本先生の意見と違い、術前放射線化学療法を実臨床のなかで標準的治療として、術前と術中の電子線照射を併用しています。直腸癌に対して術前に放射線治療を行う目的は、直腸癌の再発形式では局所再発が最も多いことに基づいています。結腸癌において肝転移を抑えれば予後が改善するのと同様の目的で、直腸癌に対して局所治療である放射線化学療法あるいは放射線療法が用いられてきたのです。OSに差が出ない理由は、直腸癌の局所再発は30〜35%で最も多いのですが、肝や肺の転移も30%近いため、局所再発を抑えても予後の差にまで結びつかないのだと考えます。

瀧内:その意味では、全身化学療法の役割も大きいといえますね。

貞廣:それが今後の大きな課題だと思います。しかし、EORTC 22921でも、また術前の放射線療法と術後の放射線化学療法を比較したSauerの報告でも、術後補助化学療法は5-FUが4コース行われているだけなのです。直腸癌の手術は侵襲が大きく、術前に放射線化学療法を行った影響もあると思うのですが、術後の患者の状態が結腸癌とずいぶん違います。そのため、術後化学療法を十分にできないというジレンマがあるのです。特に術前に放射線化学療法を行った患者さんでは、それが一番の問題です。

三嶋:直腸癌は結腸癌に比べて再発のイベント数が多く、予後が悪いため強力な化学療法が有効であると推測できます。つまり、直腸癌はIIIcに相当すると考えてよいと思うので、全身化学療法を適応すべきだと思います。放射線治療を行うなら術後ではなく術前なので、術後は化学療法単独でよいと思います。我々外科医が放射線を嫌う理由は、子宮癌の放射線照射後のfrozen pelvisや放射性腸炎などで、QOLがかなり低下した生存を多数経験しているからです。腫瘍放射線医が少なく技量の差が大きい現状では、OSに差がないのであれば、放射線を骨盤に照射しないほうがよいと思うのです。

わが国における治療の将来展望

瀧内:全身化学療法はUFT単独ですか。

三嶋:医師用のガイドラインにも患者用のガイドラインにもUFTを1年間と書かれているのですが、私はステージIIIでは、結腸癌より予後の不良な直腸癌にはもう少し強力なFOLFOXを用いるほうがよいと思っているので、UFT1年間ではなくLV/5-FUの注射を勧めます。この点ではガイドラインが出て困っています。

大津:N・SAS-CC-01では直腸癌において手術単独群とUFT群の予後に大きな差がみられていますね。

坂本:あの試験は、統計学的にパワー不足であることと、早期終了しすぎたため余計にイベント数が少なくなってしまっているという2つの欠点があります。フォローをしっかりして5年生存率をみてもらいたいですね。

大津:普通に考えても、生存率に15%も乖離があるというのは疑問ですね。ただ、ガイドラインでUFTを標準としたので、その次の手はどうするのか、外科の先生にお聞きしたいと思います。放射線治療が必要ないというのは、内科医としては腑に落ちないところもあります。

貞廣:直腸癌治療に関しては、海外のエビデンスを基に日本の外科医の考え方も変わっていくと思います。術前の放射線療法あるいは放射線化学療法の導入も徐々に進んでいますし、集学的治療のなかで放射線の局所治療に対するパワーには素晴らしいものがあるので、将来的には外科医の多くが術前放射線治療を含め、ベストの補助化学療法を考える時代になると思います。

三嶋:手術まで2ヵ月くらい待てる直腸癌は局所再発も少ないけれど、2週間以内に手術すべき直腸癌は局所再発が多いので放射線治療が必要になります。しかし、実際にはすぐに放射線治療が開始できないので、やむを得ず急いで手術をするというジレンマがあります。トレーニングを受けた腫瘍放射線医が増えてくれば、状況は変わると思います。

坂本:がん集学的治療研究財団ではUFTを対照として、TS-1の効果を検討する無作為化比較試験を800例を目標としてスタートしたところです。また、国内でUFTとFOLFOXを比較する試験などもぜひ行ってほしいと思います。私は日本のデータは日本で作らなければ正確なものにならないのではないかという信念をもっています。

瀧内:私は、海外の大規模試験は我々の進むべき方向性を示していると思うので、特に結腸癌においては大きな幹として受け入れていくべきだと思っていますが、直腸癌の治療も欧米に合わせてもいいとお考えでしょうか。

貞廣:放射線療法を併用することは認めて導入すべきで、それに加えて局所以外の再発を抑制することが直腸癌の予後を改善する近道だと思います。

坂本:術前に放射線治療あるいは化学療法を行うことによって、手術のレベルに差が出る可能性はないでしょうか。私自身は、あまりよい印象をもっていないのですが。

貞廣:以前は前後2門の照射でしたが、今は4門に変わっているので、術前照射後に手術を行っても、手術が難しくなったり副作用が障害になることはありません。むしろ、腫瘍の縮小により括約筋温存手術が増えるという効果もあります。手術一辺倒だった外科医の意識も変わるべきだと思います。

坂本:腫瘍放射線医の間にかなり大きな技量の差があるという話も聞きます。優れた腫瘍放射線医がいる施設はよいのですが、いない病院ではどうすればよいのでしょうか。

貞廣:特殊な患者さんを除いて放射線治療は外来で行えるので、放射線療法の設備がなかったり腫瘍放射線医がいない場合は、センター的な施設で治療を受けるように変わっていくと思います。

瀧内:直腸癌の治療については日本独自の歩みがみられる一方で、海外の術前放射線療法を導入するという考えも大事だということですね。今後、大腸癌の術後補助化学療法はさらなる進歩を遂げるものと思われますが、その原動力となるのが現在使われている殺細胞性抗癌剤と分子標的治療薬だと思います。なかでもbevacizumab、cetuximabは上乗せすることで生存率の延長が報告されており、期待されますね。本日は、大腸癌の術後補助療法について内科・外科の先生方とホットなディスカッションができて大変有意義だったと思います。どうもありがとうございました。

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