化学放射線療法は手術に取って代わるには至らないが、選択肢の1つ

瀧内:では、現在臨床医にとって最も興味のあるステージIIとIIIに進みたいと思います。このステージでは手術が最も有効な治療戦略と考えられていますが、化学放射線療法も手術に取って代われるのではないかということでJCOG9906試験が行われたわけです。

室:その結果、まだ手術に取って代わるには至らないという結論でしたね。3年OSは46%で、全国レベルの食道外科手術成績とほぼ同等だと思いますが、食道癌切除に精通した千葉大学や東北大学などの専門施設の手術成績と比べると10%近く劣ります。ただし、患者さんの希望や手術の合併症の問題もあるので、選択肢の1つにはなり得るという位置づけになると思います。

根本:東北大学では、2年間の追跡で化学放射線療法のほうが有意に優れた成績だったのですが、3年目でわずかに逆転しました。ただ、その差は有意ではないので、手術と大差はないと考えて選択肢の1つとして提示して構わないと思います。「手術と同等の成績が得られる可能性がある」と患者さんに説明すると、1対1くらいの割合で化学放射線療法を選択されます。また、OSだけでなく、QOLもきちんと評価すべきだと思うので、長期のQOLデータもまとめたうえで、患者さんに提示したいと考えています。

瀧内:フランスのFFCD 9102試験をみると、化学放射線療法群に比べ、最初は手術群のQOLが劣るのですが、長期になると逆転して手術群のほうが優る傾向があると報告されていました。

松原:外科医としては、患者さんにさまざまなデータを示したうえで、現時点で手術が最も確実な治療であると勧めています。その結果、9割以上の方が手術を選択されます。

武藤:国立がんセンター東病院ではかつて、化学放射線療法をかなり積極的に行っていたので、1対9ぐらいで化学放射線療法が多かったのですが、最近は外科のスタッフが増えたこともあり、外科対化学放射線療法が1対2ぐらいの割合になっています。

瀧内:化学放射線療法はCRに入っても再発する症例のあることが大きな問題ですが、CR後のフォローアップはどのような間隔で行ったらよいとお考えですか。

武藤:食道癌の化学放射線療法は局所コントロールが悪いことが最大の欠点ですが、早期発見すれば、サルベージ手術であっても、T1N0、T2N0で50%以上の5年OSが得られています(MDアンダーソンがんセンターのデータ)。そこで、我々の施設ではCRを認めたら1ヵ月以内に再確認し、CR期間が長期になるまでは密に検査しています。その後は隆起やびらんが残ったり、経過中に狭窄が出現するなどわずかな内視鏡的な変化を認めれば、生検に加えて超音波内視鏡検査による腫瘍の有無の確認を行います。

室:CRと判断したもののなかに、小さな遺残がマスクされているものも含まれている可能性があるので、それを見つける努力は必要ですね。粘膜下膨隆所見はこのタイプの遺残や再発例での特徴的な内視鏡所見の1つですから、それを見逃さないことが大切です。CRを得て最初の1〜2年間は、最低3〜4ヵ月ごとにCT、内視鏡で、怪しければ1ヵ月後の内視鏡でチェックするようにしています。

根本:東北大学は最初の2年間は3ヵ月ごとに検査します。2年経てば局所再発率はある程度、低くなると思います。

術後FP療法は、RFSを有意に延長

瀧内:この領域でもう1つ、注目されているのがサルベージ手術だと思います。根治的化学放射線療法を行ってCRに至らなかった症例、それからCR後の再発症例もあるわけですが、サルベージ手術の合併症は通常の手術に比べて多いのでしょうか。

松原:先日の第58回日本胸部外科学会のパネルディスカッションでは、サルベージ手術の残遺死亡と合併症の頻度は全国的に高いと報告されていました。我々の施設に限るとそれほど高くはなく、手術死亡も今のところ認めていませんが、ひとたび合併症を起こすと重症化するのは間違いありません。症例を重ねると、個々の患者さんにサルベージ手術を行っていいかどうかという見極めもできてくると思います。

根本:我々は手術後の再発例にサルベージ放射線療法を頻繁に行っています。これに関しては、病理組織学的にみると放射線単独では生存期間中央値が7ヵ月前後でした。現在は化学放射線療法を積極的に組み合わせています。Nedaplatin+5-FUというプロトコールで生存期間の中央値が30ヵ月ぐらいですから、化学放射線療法は手術成績に上乗せの効果が得られるというメリットがあります。

瀧内:JCOG9204試験によれば、このステージのリンパ節転移陽性例では手術単独よりも手術+FP療法のほうがよいという成績でしたね。

松原:OSには有意差はありませんが、RFSは有意に延長したことから、術後FP療法が標準治療といってよいと思います。

瀧内:日本とは異なり、欧米ではむしろ術前に化学療法あるいは化学放射線療法を行う戦略がとられていますね。

室:日本でもそうした取り組みをしている施設は多いようです。ただ、世界的にみても術前補助療法はネガティブスタディのほうが多いようなので、その位置づけはまだ議論の余地があるところだと思います。

瀧内:JCOGでは9907試験において現在、FP療法を術前に行う群と術後に行う群で比較する試験を行っていますので、その結果が待たれますね。また、術前補助療法として化学放射線療法まで必要かどうかという疑問もあるのですが、どう思われますか。

松原:私はリンパ節転移が5個以上の症例と3領域に広がっている症例に対しては、術前化学放射線療法を積極的に実施しています。FP療法+40Gy照射の後に手術を行うのですが、効果がみられた症例では予後がかなり向上しているという実感があります。局所再発はほとんどみられないので、局所治療においては化学放射線療法後に手術を行うことで完璧に近づいていると思います。ただ、その後の遠隔転移をどうするかが課題なのです。

室:化学放射線療法施行後に手術をする群と化学放射線療法を継続する群を比較する試験がフランスとドイツで行われましたが、フランスのFFCD 9102試験でも生存に差を認めず、ドイツのStahlらが報告した試験 (Stahl M, et al. JCO 23:2310-2317, 2005)でも、生存成績は同等であったと報告されています。FFCD 9102はレスポンダーのみ、ドイツの試験はレスポンダー、ノンレスポンダー全例での検討です。ドイツの試験は同等性を証明する試験で、統計学的には同等であるという結論だったようですが、手術群の方が生存成績が良好な傾向はありましたが。ですから、少なくともレスポンダーであれば、手術を行わずに化学放射線療法でよいのではないか、という考えもあると思います。ただ、ドイツの試験の2年OSは60%くらいですが、FFCD 9102は34%と低く、試験成績自体がまったく異なっています。

松原:フランスの手術の成績は日本に比べ良好ではないため、そのまま日本に当てはまるとは思いません。

治療予測因子を解明する研究も進行中

瀧内:化学放射線療法のレスポンダーを見分ける予測因子はあるのでしょうか。それがわかれば、無駄な化学放射線療法を行う必要がなくなるので、意味があると思うのですが。

根本:我々は、種々の因子の免疫染色を行っていますが、その結果、放射線が効きにくいタイプの癌では血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の発現が高いことがわかりました。一般に低酸素状態だと放射線は効きが悪いといわれていますが、浸潤性に増殖するようなタイプは低酸素状態の腫瘍細胞が多く、VEGFの産生が亢進されると思われるので、抵抗性であると予想してプロスペクティブスタディで検証を始めたところです。

武藤:我々もいくつか検討しており、免疫染色レベルでは血管の密度がレスポンスに関係するというレトロスペクティブな解析を行っています。また国立がんセンター研究所との共同研究で、生検材料を用いた治療前の予測因子も検索しています。3年以上生存した群と1年以内に死亡した群で網羅的な遺伝子発現解析をしたところ、免疫系に関与する遺伝子の高発現が長期生存に関係することや、薬剤耐性に対する遺伝子が発現している症例はすぐPDになってしまうというデータが得られました。現在は治療前に採取した生検材料を用いて、T1とT4を除くステージII、III症例に対して化学放射線療法の1年後の無病生存を遺伝子発現プロファイルで判断できるかというプロスペクティブスタディを始めています。

瀧内:近い将来、優れた予測因子が見つかるのではないかと期待しています。このステージにおける手術前の補助化学療法については、いかがでしょうか。

室:ステージIVの臓器転移に対して、TXT+CDDP+5-FUの3剤療法の抗腫瘍効果がFP療法を上回るなら、術前治療にも使用できる可能性があります。手術前なので毒性の管理には注意する必要がありますが、臨床への応用が期待される治療法の1つです。

瀧内:TXT+CDDP+5-FUの3剤療法には術前化学療法としての期待があるわけですね。その他分子標的薬剤も含めて、今後期待される新薬の開発状況についてお話しいただけますか。

室:欧米人の食道癌は腺癌が主体なので、化学療法や化学放射線療法に関して、日本人に多い扁平上皮癌は海外の頭頸部癌の知見から学ぶべきことが多いと思います。頭頸部癌領域では放射線単独に比べて放射線+cetuximab治療のほうが3年OSやPFSが優れていたという成績もあるので、化学放射線療法あるいは化学療法に分子標的製剤を追加する治療は今後開発していくべき方向性だと思います。

瀧内:最後に放射線量のことについてご意見をいただきたいと思います。日本では多くの施設が60Gyまで照射していますが、この照射量あるいは照射範囲についてはいかがでしょう。

根本:64Gyと50Gyを比較した米国のINT 0123試験では、むしろ50Gyのほうがよいことが示されましたが、食道以外の臓器では照射量を上げたほうが治りがよいため、その結果を受け入れていない医師が多いのも事実です。なぜ食道だけ違うのか、我々も解釈に悩んでいるところです。国立がんセンター東病院でも、そうしたトライアルを始めたと聞いているので、その結果をみた上で照射量を減らすかどうか考えたいと思います。一方、照射範囲に関しては、まだゴールドスタンダードといえるものはありませんが、放射線照射を最適化するツールがいろいろ開発されているので、それを使って標準といえるものを提示できるような研究をしたいと思います。

室:私はINT 0123試験の結果を受け入れたいと思っています。化学放射線療法の成績を高めるためには、より安全に照射できる方法を取り入れるべきだと思います。また、晩期毒性を減らす努力はもちろん必要です。ただし、手術でも術後長期経過後の合併症の問題があるわけですし、「晩期毒性があるから化学放射線療法はだめだ」という論拠にはならないと考えます。
 放射線と併用する薬剤の選択肢が増えたことで化学放射線療法の可能性は今後も広がると期待しています。TXTについては先ほどお話が出た3剤併用の他にも高齢者などpoor riskな症例を対象としたTXT+放射線療法といった臨床試験も進められています。手術を希望しない患者さんに対して、また何らかの理由で手術ができない患者さんに対する治療オプションとして、化学放射線療法はますます重要になるのではないかと感じています。

瀧内:本日は、各ステージにおける化学放射線療法の位置づけについて、各分野のエキスパートの先生方から貴重なご意見をいただき、化学放射線療法の持つ光と影の部分を明らかにしていただいたと思います。影の部分に関しては今後、新しい薬剤の追加や放射線療法のさまざまな工夫を加えて取り組んでいきたいと思います。どうもありがとうございました。 

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