ステージIVでも遠隔転移がなければ根治を目指した化学放射線療法を実施

瀧内(司会):本日は化学放射線療法、外科的治療、内視鏡的治療の各分野をリードされている先生方にお集まりいただき、食道癌治療に対する最近の考え方というテーマで話し合いたいと思います。なかでも、化学放射線療法は最近10年間で著しく進歩し、注目を集めている治療戦略の1つです。本日はステージ別に化学放射線療法の位置づけについて各先生方のご意見を頂戴していきたいと思います。
 まず最初に、ステージIVの食道癌における化学放射線療法の位置づけについて、ご意見をお聞かせください。

室:リンパ節転移が頸部や上腹部に限局したステージIVaでは、根治を目指した化学放射線療法が当然考えられます。一方、遠隔転移があるステージIVb症例では化学放射線療法が根治治療にならない場合もあり、必ずしも第一選択にはなりません。通過障害があれば姑息的に放射線治療を併用しますが、遠隔転移がある場合の基本は化学療法であると考えます。

根本:ステージIVaでは腫瘍の進展範囲がすべて照射可能となるため、東北大学でも化学放射線療法で積極的に根治を目指します。特にN1症例ではよい成績が出始めています。ステージIVbではQOL改善が治療の主目的になるので、化学療法をベースに、食道狭窄が強い場合は放射線療法を併用することが多くなります。

室:国立がんセンターでは、T4でCR率が30%強、3年OSが35%程度、5年OSは20%弱ですが、T4を除いたステージIVaであれば十分根治も望めますし、比較的よい成績が出ています。

瀧内:例えばステージIIIのT4症例では、ダウンステージをねらって術前化学放射線療法を実施されるわけですか。

松原:手術を考慮している患者さんでは、40Gyの照射を行った時点で必ず効果判定をして、手術可能になればそこで中止、ダウンステージが不十分であれば60Gyまで照射を続けます。ですから、このステージでは化学放射線療法が第一選択です。

瀧内:ステージIVあるいはT4のステージIIIから化学放射線療法でダウンステージが得られ、手術可能になった場合には積極的に手術を推奨されるということでしょうか。

松原:積極的に手術を行っていますが、T4が確実にダウンステージできたかどうかの術前診断が非常に重要です。完全に切除できた症例の予後は良好ですが、郭清したリンパ節に癌が遺残している場合はダウンステージできていても再発リスクが高まります。

今後はdocetaxelを加えた3剤療法がfirst line治療になる可能性も

瀧内:現在、食道癌の化学療法における基本レジメンはFP療法(5-FU+CDDP)ですが、これで十分なのか、もしくはdocetaxel(TXT)のような新しい薬剤を組み込んだ新しいレジメンに、今後期待していくべきなのでしょうか。

室:米国などではTXTやpaclitaxel(TXL)を加えた3剤療法が行われていますが、FP療法を上回る成績は得られていません。CR率を上げるためには3剤療法も有用だと考えますが、まだ臨床試験段階です。そのため、現状では我々もFP療法と放射線療法を行い、その後の再発に対してTXTをsecond line治療に使用するケースが圧倒的に多くなります。また、3剤療法はかなり毒性が強いため、十分効果のある用量を投与できるかどうかが問題です。

瀧内:現在、国内でも3剤を用いたDCFの化学療法の臨床試験が行われており、海外と遜色のない用量が第I相試験で投与されたと聞いています。

室:この数施設で行っている第 I 相試験には私も参加していますが、原発巣、肝転移、リンパ節転移がすべて消失したCR例も経験しており、切れ味はいいですね。本試験ではTXT 70mg/m2、5-FU 800mg/m2 、CDDP 80mg/m2が推奨用量となりましたが、これはMoiseyenko、Ajaniらが報告したTAX 325試験(転移性胃癌に対する第III相比較試験)で用いられた投与量とほぼ同程度です。もう少し症例数を追加してこの用量での安全性を検討したうえで、JCOG食道がんグループにおいてDCF療法の有効性と安全性を確認するための多施設共同第II相試験を実施する予定にしています。

瀧内:現状でのTXTの位置づけとしては、FP療法の後のsecond line治療ということですが、試験の結果によっては今後、TXTがfirst line治療に組み込まれる可能性は十分あると思います。

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