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8月
監修:九州大学大学院 消化器・総合外科 診療准教授 沖 英次

胃癌

進行胃癌に対するPembrolizumab(KEYNOTE-012試験)


Muro K, et al.: Lancet Oncol. 17(6): 717-726, 2016

 胃癌は世界で5番目に多い癌腫で東アジアに多くみられるが、特に欧米では後期stageで診断されることが多いため予後不良であり、有効な治療が求められている。

 PD-1は主に活性化T細胞に発現する負の補助刺激受容体であり、リガンドと結合することで過度の免疫応答を制御する。PD-1のリガンドであるPD-L1は胃癌を含むいくつかの癌腫で発現することが報告されており、腫瘍組織においてPD-1と結合することで、エフェクターT細胞による抗腫瘍免疫応答が抑制され、腫瘍増殖を誘導する。

 PembrolizumabはPD-1に対して選択的で高い親和性を持つIgG4-κモノクローナル抗体である。Pembrolizumabは進行固形癌や血液癌において管理可能な安全性プロファイルと抗腫瘍活性が示されており、複数の国で進行メラノーマにおいて承認され、米国ではPD-L1陽性の切除不能非小細胞肺癌において診断薬PD-L1 IHC 22C3 pharmDx kitとともに承認されている。また、複数の研究により胃癌におけるPD-1経路の重要性が示され、PD-L1発現は胃癌患者の40%以上に認められることが報告されている。そこで、PD-L1陽性の進行胃癌または胃食道接合部癌患者におけるPembrolizumabの安全性及び抗腫瘍活性について検討された。

 KEYNOTE-012試験は、日本を含む13施設による多施設共同オープンラベル第Ib相試験で、進行胃癌、尿路上皮癌、triple-negative乳癌、頭頸部癌のコホートに対して行われたが、本論文では進行胃癌コホートにおける結果について報告された。対象は18歳以上、ECOG PS 0/1で臓器機能が保たれたPD-L1陽性の再発または切除不能の胃または胃食道接合部腺癌患者であり、前治療のレジメン数は問わなかった。

 対象患者は、Pembrolizumab(10mg/kg)を2週間ごとに投与され、24ヵ月間または増悪および忍容できない毒性が発現するまで続けられた。腫瘍は8週間ごとに評価され、画像検査により増悪を認めても臨床的に安定していれば、4週間以降の二次検査により増悪が確定するまで投与継続が許容された。PD-L1発現のスクリーニングは自家製免疫組織学的検査により評価され、1%以上の細胞膜染色を陽性とした。また、米国における非小細胞肺癌の診断薬として承認されている上記診断薬と同様の臨床試験用検査を使って登録患者のPD-L1発現(単核炎症細胞及び腫瘍細胞)が測定された。

 主要評価項目は安全性、忍容性、中央判定の奏効率、副次評価項目は担当医判定の奏効率、奏効期間、PFS、OS、バイオマーカー候補と抗腫瘍活性との関連性、アジア太平洋地域患者の奏効率である。奏効率25%を検出するために、α=0.025、検出力90%で、必要症例数は32例であった。また、東アジア患者における奏効率を40%とした場合、α=0.1、検出力80%で、必要症例数は東アジア16例、その他地域16例に層別化された。なお、この仮説を達成するには31%以上の奏効率が必要であった。

 2013年10月23日〜2014年5月5日の間に39例(東アジア19例、その他地域20例)が登録され、マイクロサテライト不安定性は解析可能な24例中4例(17%)に認められた。東アジアではその他地域に比べて男性、胃切除既往例、前治療ライン数が2回以上の症例が多かった。また、東アジア以外の症例において、55%は食道胃接合部、45%は胃がそれぞれ原発巣であったのに対し、東アジアの症例における原発巣は全例が胃であった。

 2015年3月23日カットオフ時点において治療関連有害事象は26例(67%)に認められ、疲労7例(18%)、食欲減退5例(13%)、甲状腺機能低下症5例(13%)、そう痒症5例(13%)、関節痛4例(10%)が多くみられた。Grade 3/4の治療関連有害事象は5例(13%)6件認め、アジアでは2例(11%)(grade 3類天疱瘡1例、grade 3末梢神経障害1例)、その他地域では3例(15%)に認められた。治療関連有害事象による治療中止は認めなかったが、4例(10%)(grade 4肺臓炎、grade 3類天疱瘡、grade 2間質性肺疾患、grade 2甲状腺機能低下症、各1例)で免疫関連の有害事象により治療が中断された。特に注意すべき免疫関連の有害事象は、アジアでは3例(8%)(grade 1甲状腺機能亢進症、grade 1甲状腺機能低下症、grade 2甲状腺機能低下症、grade 2間質性肺疾患、各1件)、その他地域では6例(15%)に認められた。

 39例中36例が奏効の評価が可能であり、中央判定による奏効率は22%(アジア24%、その他地域21%)、担当医判定による奏効率は33%(アジア37%、その他地域30%)であり、CRは認めなかった。また、53%の症例でベースラインと比較して標的病変の縮小を認めた。なお、マイクロサテライト不安定性患者4例中2例がPR、2例がPDであった。

 中央判定によるPFS中央値は1.9ヵ月、6ヵ月PFS割合は26%、OS中央値は11.4ヵ月、6ヵ月OS割合は66%、12ヵ月OS割合は42%であり、PFS、OSともにアジアとその他地域は同程度であった。なお、8週時点に病勢増悪を認めた9例中3例は臨床的に安定しており、試験治療を続けた。

 スクリーニング期に自家製免疫組織学的検査によるPD-L1発現の評価を行った162例中65例(40%)がPD-L1陽性であり、そのうち中央判定により評価可能であった36例中35例でデータカットオフ時に臨床試験用検査を行った。その結果、単核炎症細胞上のスコアが2以下の症例における奏効率は15%(26例中4例)、スコア3の症例における奏効率は44%(9例中4例)であった。また、腫瘍細胞上のスコアが0の症例における奏効率は24%(29例中7例)、スコア1以上(〜100)の症例における奏効率は17%(6例中1例)であった。

 以上のように、大部分が既治療であるPD-L1陽性進行胃癌において、Pembrolizumabの毒性プロファイルは管理可能であり、事前に規定した中央判定における奏効率31%は達成できなかったものの、抗腫瘍活性は期待できると考えられる。一方、胃癌における効果予測バイオマーカーとしてのPD-L1発現の有用性については、まだ断言できない。



監訳者コメント:
進行胃癌に対するPembrolizumabの安全性と有効性

 PD-1は1992年に京都大学の本庶佑先生らが発見した免疫チェックポイント分子の1つであり、その働きを阻害する抗PD-1抗体薬であるPembrolizumabおよびNivolumabはメラノーマ、非小細胞肺癌などで既にその有効性が示されている。本試験は、胃癌に対するPembrolizumabの安全性と有効性が初めて報告された試験である。

 最近の進行胃癌に対する臨床試験を振り返ると、2nd-lineにおけるRamucirumab+Paclitaxel併用療法のPaclitaxel単独療法に対する優越性を検証したRAINBOW試験において、Ramucirumab+Paclitaxel併用療法群のOS中央値は9.6ヵ月であった。本試験において、中央判定による奏効率は22%であり、事前に期待された奏効率31%には及ばなかったものの、多くの症例が2nd-line以降で治療が行われていることを考慮すると、第Ib相試験であることを鑑みてもOS中央値11.4ヵ月というのは特筆すべき結果である。

 安全性に関しては、既に他癌腫に対して行われている抗PD-1抗体薬の試験結果と比較して、予期されない有害事象は認められなかった。しかし、甲状腺機能低下症や類天疱瘡、肺臓炎といった免疫関連の特徴的な有害事象には注意が必要である。

 今回、Pembrolizumab治療におけるバイオマーカー候補の1つとして腫瘍細胞におけるPD-L1発現が検証された。非小細胞肺癌においてはPD-L1発現と治療効果に相関が認められているが、本試験においてはPD-L1発現の高い症例において治療効果が高い傾向は認められたものの、明らかな関連は示されなかった。しかし、本試験は限られた症例数であること、そもそもPD-L1陽性例のみが登録されており、PD-L1陰性例に対するPembrolizumabの治療効果は不明であること、炎症細胞側におけるPD-L1発現の評価が不十分であることを考慮すると、バイオマーカー解析にはさらなる検討が必要である。

 本試験の有望な結果をもとに、現在、2nd-lineにおけるPembrolizumab単独療法とPaclitaxel単独療法を比較する第III相試験であるKEYNOTE-061試験1)、1st-lineにおけるPembrolizumab単独療法とPembrolizumab+フッ化ピリミジン系製剤+Cisplatin併用療法、フッ化ピリミジン系製剤+Cisplatin併用療法の3群を比較する第III相試験であるKEYNOTE-062試験2)が進行中であり、結果が待たれる。

監訳・コメント:国立がん研究センター東病院 消化管内科 小谷 大輔

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