論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

2014年

監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)

治療歴のある進行胃癌または食道胃接合部腺癌患者におけるRamucirumab+paclitaxel-

療法 vs. プラセボ+paclitaxel療法:第III相二重盲検無作為化比較試験(RAINBOW)

Wilke H., et al. Lancet Oncol, 2014; 15(11) : 1224-1235

 胃癌ではVEGFおよびVEGFR-2がその病理・病勢進行に大きくかかわっている。RamucirumabはVEFGR-2に対するヒトIgG1モノクローナル抗体薬であり、内皮細胞においてリガンド結合および受容体が介する経路の活性化を阻害する。一方、Paclitaxel(PTX)は単剤での2nd-line治療でその他のタキサン系薬剤やIrrinotecan(CPT-11)と同等の効果を示しており、とくに週1回投与が有望とされている。そこで、1st-line治療後に病勢進行をみた胃癌または食道胃接合部腺癌患者を対象に、Ramucirumab+PTX療法の有効性と安全性を評価する第III相二重盲検プラセボ対照無作為化比較試験を行った。
 対象は18歳以上、ECOG基準のPS 0/1で、白金製剤+フッ化ピリミジン系製剤による1st-line治療中または最終投与後4ヵ月以内に病勢進行が認められた切除不能または再発の進行胃癌/食道胃接合部腺癌患者である。適格患者はRamucirumab+PTX療法(R群)またはプラセボ+PTX療法(P群)に無作為に割り付けられた。
 患者はRamucirumab 8mg/kgまたはプラセボをday 1、15に、PTX 80mg/m2をday 1、8、15に静注した。治療は28日ごとに繰り返し、病勢進行または忍容しがたい有害事象が生じるまで続けた。
 主要評価項目は全生存期間(OS)、副次的評価項目は無増悪生存期間(PFS)、奏効率、病勢制御率、QOL、安全性である。
 2010年12月〜2012年9月に27ヵ国170施設から665例が登録され、330例がR群に、335例がP群に割り付けられた。
 R群 vs. P群の主な患者背景は、年齢中央値61歳 vs. 61歳(65歳以上は38% vs. 37%)、男性69% vs. 73%、白人63% vs. 59%、アジア人33% vs. 36%、ECOG PS 0は35% vs. 43%、胃癌80% vs. 79%、腹水あり39% vs. 32%、1st-line治療中に病勢進行をみたのは69% vs. 65%と両群に明らかな差を認めなかった。
 データカットオフは2013年7月12日で、OSに関する観察期間中央値は7.9ヵ月であった。この間にR群256例、P群260例が死亡した。OSの中央値はR群9.6ヵ月 vs. P群7.4ヵ月、6ヵ月OSは72% vs. 57%、12ヵ月OSは40% vs. 30%であり、R群で有意に良好であった(HR=0.807,95%CI :0.678-0.962,p=0.017)。サブグループ解析でもほぼすべてのサブグループでR群で良好であった。多変量解析を行ったところ、ECOG基準のPS、地域、腹水の有無がOSの最も強力な予後因子であった。
 PFS中央値は4.4ヵ月 vs. 2.9ヵ月、6ヵ月PFSは36% vs. 17%、9ヵ月PFSは22% vs. 10%であり、やはりR群で有意に良好であった(HR=0.635,95%CI:0.536-0.752,p<0.0001)。サブグループ解析でも大部分のサブグループでR群のほうが良好であった。
 奏効率は28%(CR <1%、PR 27%)vs. 16%(<1%、16%)とR群で有意に高かった(p=0.0001)。SDは52% vs. 47%、PDは13% vs. 25%であり、病勢制御率は80% vs. 64%とR群が有意に優れていた(p<0.0001)。奏効期間はR群4.4ヵ月、P群2.8ヵ月であった。
 OSの中央値をアジアと非アジア別にみると、非アジアではR群8.5ヵ月 vs. P群5.9ヵ月(HR=0.732)であったのに対しアジアでは12.1ヵ月 vs. 10.5ヵ月(HR=0.986)であった。
 QOLはQLQ-C30とEQ-5D-3Lで評価したが、両群同等のQOLスコアであった。
 治療期間の中央値はR群18.0週、P群12.0週で、両群とも治療中止の最大原因は病勢進行であり(R群72%、P群76%)、それぞれ12%、11%が副作用によって治療中止に至った。
 安全性はR群327例、P群329例で評価した。Grade 3/4の有害事象はR群が47%/22%、P群が39%/8%とR群で高頻度に発生した。Grade 3/4の主な血液毒性は好中球減少(22%/19% vs. 16%/ 3%)、白血球減少(16%/2% vs. 6%/<1%)であったが、grade 3以上の発熱性好中球減少症は3% vs. 2%とほぼ同等であった。非血液毒性としてはgrade 3の高血圧(14% vs. 2%)、疲労(12% vs. 5%)、神経障害(8% vs. 5%)、腹痛(6% vs. 3%)がR群で多く認められた。
 VEGF経路に関連することからとくにR群で注意すべき有害事象は高血圧、蛋白尿、出血であったが、grade 4/5の発生頻度は低かった(Grade 4の高血圧はなし)。
 重篤な有害事象はR群47% vs. P群42%でみられ、そのうち死に至ったのは12% vs. 16%であったが、治療薬が原因と思われる死亡は各群2%ずつであった。
 進行胃癌または食道胃接合部腺癌患者の2nd-line治療においてRamucirumab+PTX療法はプラセボ+PTXに比べ生存期間と奏効率を有意に改善した。アジア地域では非アジア地域ほどの効果が得られなかったが、これは試験中止後に治療を受けた患者数がアジア地域で多かったためと考えられる。有害事象はプラセボ群より高頻度にみられたものの想定内であり、本試験および先行のRamucirumab単独療法に関する第III相REGARD試験の結果を併せると、VEGFR-2を標的とした治療法の役割は明らかであり、Ramucirumab+PTX療法が2nd-line治療としての新たな標準治療になりえると考えられた。

監訳者コメント

我が国の2nd-line治療を変える大きなエビデンス

 切除不能進行胃癌に対する2nd-line治療として、VEGFR-2に対するモノクローナル抗体薬であるRamucirumabの有用性は、同じく第III相試験であるREGARD試験によってすでに報告されていた1。しかし、REGARD試験はRamucirumab単剤とプラセボ単剤を比較した試験であり、2nd-lineの標準治療としてPTX療法が確立している我が国においてはこの結果をそのまま受け入れることが困難であった。
 今回報告されたRAINBOW試験は、そのPTX療法と併用した場合でもOSおよびPFSを有意に延長することを証明した。有害事象についても許容範囲であり、我が国の2nd-line治療を変える大きなエビデンスとなるものと考えられる。
 今後は、Ramucirumab を1st-lineに上乗せする意義があるかどうかについて興味のあるところであり、現在附随研究として進行中のバイオマーカー探索とともに、その結果が非常に楽しみである。

1. Fuchs CS. et al. Lancet, 2014 ; 383 : 31-39

監訳・コメント:大阪大学大学院医学系研究科外科学講座消化器外科学 黒川 幸典(学部内講師)

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