Abstract #705
既治療のKRAS exon 2野生型切除不能進行・再発大腸癌に対するPanitumumab vs. Cetuximabの第III相試験 (ASPECCT試験) :低マグネシウム血症の予後への影響
Randomized Phase 3 Study of Panitumumab vs Cetuximab in Chemorefractory Wild-type KRAS Exon 2 Metastatic Colorectal Cancer: Outcomes by Hypomagnesemia in ASPECCT
Timothy Price, et al.
抗EGFR抗体薬と低マグネシウム血症の「鶏と卵」?
ASPECCT試験1)では、grade 3/4の低マグネシウム血症はCetuximab群の3%に対してPanitumumab群では7%と高頻度に認められているが、grade 3/4の
皮膚障害の発現には差を認めていない。我々は、皮膚障害管理や試験治療前の血清マグネシウム値に関してPanitumumab群とCetuximab群に違いがあった可能性をcorrespondenceとして投稿した
2)。
発表者のPrice先生によれば、我々のcorrespondenceが今回の追加解析のヒントになったとのことであった。低マグネシウム血症を「ベースラインから基準範囲下限未満もしくは1.2mg/dL (0.5mmol/L) 未満への低下」とした今回の解析では、Panitumumab群、Cetuximab群によらず、低マグネシウム血症例は非低マグネシウム血症例に比べて予後は良好であった。そして、低マグネシウム血症例の治療期間は非低マグネシウム血症例と比べて有意に延長していた。
投与期間が長い症例で低マグネシウム血症が発生しやすかったのか?低マグネシウム血症を発現する症例は予後が良好であったのか?まさに「鶏が先か?卵が先か?」であり、“終わりのない話”なのかもしれない。
背景と目的
ASPECCT試験では、既治療の
KRAS exon 2野生型切除不能進行・再発大腸癌患者に対してPanitumumabとCetuximabの単剤療法が比較され、主要評価項目であるOSにおける非劣性が報告されている (HR=0.97, 95% CI: 0.84-1.11)
1)。一方、EGFR機能の阻害により発現する低マグネシウム血症は、抗EGFR抗体薬に関連した有害事象の1つであり、低マグネシウム血症の発現と生存との関連について報告があるものの評価は一定していない
3-5)。
本研究では、
ASPECCT試験の探索的な解析として、低マグネシウム血症の発現の有無と生存の関連を評価した。
対象と方法
ASPECCT試験の対象は、既治療の
KRAS exon 2野生型切除不能進行・再発大腸癌患者999例であり、3rd-lineとしてPanitumumabを投与する群 (Panitumumab群) とCetuximabを投与する群 (Cetuximab群) に1:1で無作為に割り付けられ、バイオマーカー解析のために血漿サンプルが収集された。
本解析では低マグネシウム血症の定義を、ベースラインから基準範囲下限未満もしくは1.2mg/dL (0.5mmol/L) 未満への低下とし、治療群別に低マグネシウム血症の発現と予後との関連を評価した。なお、低マグネシウム血症発現時におけるマグネシウム補充に関する解析は行っていない。
結果
低マグネシウム血症はPanitumumab群29 %、Cetuximab群19%に認められ、発現までの期間中央値は両群とも82日であった (表1)。また、低マグネシウム血症に伴う治療中止はそれぞれ1%、0.4%、用量調節は5%、3%であった。
低マグネシウム血症発現の有無別に検討したところ、患者背景はいずれの群においてもほぼ同等で、ITT集団とも類似していた。
OS中央値は、Panitumumab群では低マグネシウム血症例13.8ヵ月、非低マグネシウム血症例8.7ヵ月、Cetuximab群ではそれぞれ12.5ヵ月、9.4ヵ月であり、いずれも低マグネシウム血症例で良好であった (図1)。同様に、PFS中央値はPanitumumab群ではそれぞれ6.7ヵ月、3.0ヵ月、Cetuximab群ではそれぞれ6.6ヵ月、3.2ヵ月であり、いずれも低マグネシウム血症例で良好であった。
なお、治療期間中央値は、Panitumumab群では低マグネシウム血症例28.0週、非低マグネシウム血症例11.7週、Cetuximab群ではそれぞれ27.0週、14.0週であった。
奏効率は、Panitumumab群では低マグネシウム血症例34.5%、非低マグネシウム血症例16.9% (OR=2.71, 95% CI: 1.67-4.34)、Cetuximab群ではそれぞれ28.0%、17.9% (OR=1.81, 95% CI: 1.02-3.15) と、いずれも低マグネシウム血症例で良好であった (表2)。
なお、低マグネシウム血症を重症度別 (grade 1/grade 2-4) に分けて治療成績を比較したところ、Panitumumab群、Cetuximab群ともに重症度による違いはみられなかった (表3)。
結論
ASPECCT試験における低マグネシウム血症の発現率はCetuximab群に比べてPanitumumab群で高かったが、いずれの群においてもマネジメントされており、低マグネシウム血症に伴う治療中止や用量調節は少なかった。また、両群ともに、低マグネシウム血症を発現した症例は、発現しなかった症例に比べてOS、PFS、奏効率が良好であった。一方、本研究ではマグネシウム補充に関する解析は含まれておらず、抗EGFR抗体薬治療におけるEGFRとマグネシウム代謝との関連については、さらなる検討が必要であると考えられる。
Reference
1) Price TJ, et al.: Lancet Oncol. 15(6): 569-579, 2014[
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2) Sunakawa Y, Ichikawa W, et al.: Lancet Oncol. 15(8): e301-302, 2014[
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3) Burkes R, et al.: Eur J Cancer. 47(S420): 6098 poster, 2011
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