2015年 消化器癌シンポジウム 演題速報レポート
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Abstract #582
EGFR陽性・KRAS exon 2野生型の日本人切除不能進行・再発大腸癌におけるCetuximabに起因した皮膚毒性とEGFR CA-SSR1 変異の関連:JACCRO CC-05/06 AR試験
Association of EGFR CA Simple Sequence Repeat 1 (CA-SSR1) Variant with Cetuximab (Cet) -induced Skin Toxicity (ST) in Japanese Metastatic Colorectal Cancer (mCRC) Patients (pts) with Overexpressed EGFR and KRAS exon 2 Wild-type (KRAS wt) (JACCRO CC-05/06 AR)
Wataru Ichikawa, et al.
抗EGFR抗体薬のバイオマーカーとなり得るか、大規模臨床試験に期待

室 圭 先生

愛知県がんセンター
中央病院
薬物療法部

 EGFR GCNは腫瘍のEGFR 依存性(Oncogene Addiction)を示す指標の1つである。以前より肺癌では、EGFR GCNが EGFRチロシンキナーゼ阻害剤の臨床的アウトカム(奏効率やPFS)と相関があることが示されてきた1)。また、大腸癌でもEGFR GCNと抗EGFR抗体薬の効果との関連性の報告が散見される。すなわち、抗EGFR抗体薬の効果が期待できる正の効果予測因子となり得る可能性があり、注目されていた。
 しかしながら、本研究の結果、EGFR GCNが高い群で抗EGFR抗体薬併用療法の効果は良好な傾向にあったものの、有意な関連は認められなかった。解析症例数が少ないこと、併用レジメン(FOLFOX/SOX)の効果にも影響されることなどがnegativeとなった要因かもしれない。一方、EGFR CA-SSR1の遺伝子多型に関する検討では、治療効果には影響なく、皮疹の強さとの相関が認められた。
 皮疹の重症度と抗EGFR抗体薬の治療効果との相関は以前より知られているが、そのメカニズムは十分解明されているわけではない。このような遺伝子多型がそのメカニズムの1つかもしれないが、この多型だけでは説明困難であり、実際は複数の遺伝子多型が皮疹の程度に影響を与えているのではないかと考える。
 以上、本検討で得られた結果は興味深いものの、単アーム第II相試験付随のバイオマーカー研究であることから、得られる結果とその結果の解釈には限界がある。今後、大規模無作為化比較試験において同様の解析が行われ再現性のある結果が得られること、そして、抗EGFR抗体薬のバイオマーカーとして臨床応用されることを期待したい。
背景と目的
 Cetuximabによる治療を行った切除不能進行・再発大腸癌患者の予後に対するEGFR 遺伝子コピー数 (GCN) とEGFR CA-SSR1 (CA simple sequence repeat 1) 多型の関連は、まだ明らかになっていない。これまでに白人とアジア人の間ではEGFR CA-SSR1の繰り返し配列数が異なることが知られているが、日本人患者における臨床的アウトカムとの関連についての報告はほとんどない。
 本研究では、Cetuximabによる治療を行った日本人の切除不能進行・再発大腸癌患者における効果予測因子として、EGFR GCNとEGFR CA-SSR1多型が評価された。
対象と方法
 本解析では、切除不能進行・再発大腸癌に対する1st-lineとしてのL-OHPベース治療 + Cetuximabを評価した2つの前向き試験から77例が登録された (JACCRO CC-05試験: mFOLFOX6 + Cetuximab 28例、JACCRO CC-06試験: SOX + Cetuximab 49例)。なお、両試験の主な適格基準は、EGFR陽性、KRAS exon 2野生型で、ECOG PS 1以下、評価可能病変を有し、臓器機能が保たれた切除不能進行・再発大腸癌患者であった。
 EGFR GCNはFISH法を用いて評価し (既報2)に基づきカットオフ値は2.92)、EGFR CA-SSR1はPCR増幅とキャピラリー電気泳動による断片長解析により同定した (20をカットオフ値とし、20未満: S、20以上: L)。これらバイオマーカーと奏効率、PFS、OSの関連とともに、皮膚毒性の関連も評価した。
結果
 対象の年齢中央値は63歳で、ECOG PS 0が90%を占めた。なお、両試験における患者背景は概ね同等であった (表1)。対象77例における奏効率は72.7%、PFS中央値は10.0ヵ月、OS中央値は30.5ヵ月であった。
表1
 EGFR GCN 2.92以上は30例、2.92未満は47例で、EGFR GCNにより有効性を比較した結果、PFS中央値はEGFR GCN 2.92以上の症例が11.6ヵ月、2.92未満の症例が9.1ヵ月 (p=0.08)、OS中央値はそれぞれ未到達、30.5ヵ月 (p=0.33)、奏効率はそれぞれ77%、70%であり (p=0.54)、EGFR GCN 2.92以上の症例で良好な傾向がみられるものの、いずれも有意差は認められなかった (図1)。
図1
 また、EGFR CA-SSR1のgenotypeはLLが36例、SLが29例、SSが12例で、genotype別に有効性を比較した結果、PFS中央値はLL 11.1ヵ月、SL 9.1ヵ月、SS 15.2ヵ月 (p=0.86)、OS中央値はそれぞれ26.8ヵ月、33.9ヵ月、未到達 (p=0.73)、奏効率はそれぞれ66.7%、79.3%、75.0%であり、いずれも有意差を認めなかった (図2)。
図2
 試験開始から8週後までに発現した最も重度な皮膚毒性のgradeと、EGFR CA-SSR1のgenotypeとの関連を評価したところ、SSはLLやSLに比べ有意に皮膚毒性の重症度が高かった (図3)。
図3
結論
 日本人の切除不能進行・再発大腸癌患者に対する1st-lineとしてのFOLFOX/SOX + Cetuximabにおいて、EGFR GCNとEGFR CA-SSR1は、ともに効果を予測できなかったが、EGFR CA-SSR1のSS genotypeではCetuximabに起因する皮膚毒性が強いことが示唆された。なお、EGFR CA-SSR1アレルの頻度はアジア人における既報3)と概ね同等であった。
Reference
1) Peled N, et al.: Ther Adv Med Oncol. 1(3): 137-144, 2009 [PubMed
2) Cappuzzo F, et al.: Ann Oncol. 19(4): 717-723, 2008 [PubMed
3) Liu W, et al.: Clin Cancer Res. 9(3): 1009-1012, 2003 [PubMed