2015年 消化器癌シンポジウム 演題速報レポート
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監修・コメント
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Abstract #515
FIRE-3試験のアウトカムに対する術後補助化学療法の影響:KRAS (exon 2) 野生型切除不能進行・再発大腸癌の1st-lineとしてのFOLFIRI + CetuximabまたはBevacizumabの無作為化第III相試験
Influence of Adjuvant Pretreatment on Outcome of FIRE-3 (AIO KRK-0306): A Randomized Phase III Study of FOLFIRI Plus Cetuximab or Bevacizumab as First-line Treatment for Wild-type (WT) KRAS (exon 2) Metastatic Colorectal Cancer (mCRC) Patients
Sebastian Stintzing, et al.
いまだ未解決の問題:術後補助化学療法は1st-lineの成績に影響するか?

市川 度 先生

昭和大学藤が丘病院
腫瘍内科

CALGB 80405試験のKRAS 野生型患者のうちL-OHPを含む術後補助化学療法を受けた患者のOS中央値は、FOLFIRI + Cetuximab群 (35例) の25.6ヵ月に対してFOLFIRI + Bevacizumab群 (32例) では41ヵ月であり、有意差はない (p=0.09) もののハザード比は1.8 (95% CI: 0.9-3.4) と、Bevacizumab群で良好な傾向にあった1)。これを受けて、同様の解析がFIRE-3試験において行われた。
 図2は、大いに気になるKaplan-Meier曲線である。Oxaliplatin (L-OHP) を含まない術後補助化学療法を受けた症例ではCetuximab群でOSが有意に延長しているが、L-OHPを含む術後補助化学療法を受けた症例ではBevacizumab群とCetuximab群のOS曲線はほぼ重なっている。
 発表では、術後補助化学療法にL-OHPを含む症例、含まない症例の背景因子が公表されていた。L-OHPを含む術後補助化学療法を受けた症例では、女性の割合が約40%と多く、原発部位が左半の患者が約70%であった。これに対して、L-OHPを含まない術後補助化学療法を受けた症例では、女性の割合は約20〜30%であり、約94%は原発部位が左半 (約77%が直腸) であった。つまり、気になる図2は、L-OHPを含む術後補助化学療法を受けたか否かだけでなく、性差、原発部位 (右半、左半) の違いも含まれた結果と解釈すべきであろう。
 よって、「術後補助化学療法が1st-lineの効果に及ぼす影響については、さらに検討を続ける必要がある」という結論に、私は賛成である。
背景と目的
 FIRE-3試験は、KRAS (exon 2) 野生型切除不能進行・再発大腸癌の1st-lineとしてのFOLFIRI + Cetuximab (Cetuximab群) とFOLFIRI + Bevacizumab (Bevacizumab群) を比較した無作為化第III相試験であり、奏効率およびPFSでは両群間に差はなかったものの、OSにおいてはCetuximab群で有意に優れることが示されている (p=0.017)。
 今回は、探索的なサブグループ解析として、術後補助化学療法による治療歴のある症例における抗腫瘍効果および生存データの解析を行った。
対象と方法
 対象は、FIRE-3試験におけるKRAS (exon 2) 野生型のITT集団592例および最終的にRAS 野生型と判定された400例であり、抗腫瘍効果および生存データについてFisherの正確確率検定とlog-rank検定により解析を行った。
結果
 KRAS (exon 2) 野生型592例のうち術後補助化学療法を受けていたのは124例 (Cetuximab群68例、Bevacizumab群56例) であり、L-OHPを含まないレジメンが66例 (それぞれ34例、32例)、L-OHPを含むレジメンは58例 (ぞれぞれ34例、24例) であった。
 一方、RAS 野生型400例のうち術後補助化学療法を受けていたのは75例 (Cetuximab群37例、Bevacizumab群38例) で、L-OHPを含まないレジメンが39例 (それぞれ18例、21例)、L-OHPを含むレジメンは36例 (それぞれ19例、17例) であった。
 KRAS (exon 2) 野生型における奏効率とPFSは、術後補助化学療法なし、あり、L-OHPを含むレジメン、含まないレジメンのいずれにおいても、Cetuximab群とBevacizumab群の間に有意差を認めなかった (表1)。一方、RAS 野生型においては、術後補助化学療法を受けた症例の奏効率がBevacizumab群に比べてCetuximab群で有意に良好であり (p=0.01)、L-OHPを含まないレジメンが施行された症例の奏効率もCetuximab群で有意に良好であった (p=0.05) (表2) 。ただ、いずれの集団においてもPFSに差はみられなかった。
表1
表2
 OSについては、KRAS (exon 2) 野生型ではL-OHPを含まないレジメンが施行された症例においてCetuximab群で有意な延長を認めた (HR=0.54, p=0.045) (図1)。一方、RAS 野生型では、術後補助化学療法が施行されていない症例 (HR=0.74, p=0.03)、およびL-OHPを含まないレジメンが施行された症例 (HR=0.40, p=0.03) において、Cetuximab群で有意な延長を認めた (図2)
図1
図2
結論
 術後補助化学療法を受けた患者における有効性の結果は、試験全体を反映するものであった。術後補助化学療法歴のあるRAS 野生型における奏効率は、Bevacizumab群に比べてCetuximab群で有意に良好であった (p=0.01)。術後補助化学療法が1st-lineの効果に及ぼす影響については、さらに検討を続ける必要がある。
Reference
1) Venook A, et al: 2014 WCGC: What is the best cytotoxic backbone for biologics?