抗VEGF抗体/抗EGFR抗体の併用は是か非か

瀧内:次に進行・再発大腸癌に話題を移します。ここからは、内科の先生方にお話をうかがってまいりたいと思います。
  2008年 米国臨床腫瘍学会年次集会で注目すべき発表としては、CAIRO2試験15)が挙げられます。これは進行大腸癌においてCapeOX+ bevacizumabに cetuximabを加える有用性を検証した臨床試験ですが、佐藤先生のご印象はいかがですか。

佐藤:CAIRO2試験は、BOND2試験16)の当時からあった「抗VEGF抗体と抗EGFR抗体の併用が有効性を改善するのではないか」という期待から行われたものですが、結果は当初の期待を裏切って、一次エンドポイントのprogression-free survival(PFS)中央値はcetuximab併用群で9.6ヵ月、非併用群で10.7ヵ月と、逆転の有意差が出てしまいました(p=0.018)。また、OSは20.3%と20.4%、奏効率はいずれも44%でした。

瀧内:毒性は併用群のほうが悪くなっているのですか。

佐藤:そうですね。下痢や皮膚毒性は併用群のほうが明らかに多くなっています。治療サイクル数に関しても、併用群のほうが若干劣ります。「cetuximabとbevacizumabを併用すべきではない」という結論なのですが、その理由は毒性だけにあるのではなく、併用によって有効性も落ちる可能性があるからです。

瀧内:薬物相互作用のようなことがあるかもしれないのですね。これはPACCE試験17)の中間解析の結果も同じですね。

佐藤:PACCE試験は、CPT-11またはL-OHPベースの化学療法+bevacizumabにpanitumumabをON/OFFして比較・検討した試験です。中間解析の結果、一次エンドポイントのPFSはCPT-11ベースの併用群で10.1ヵ月、非併用群で11.7ヵ月と、やはり改善はみられませんでした。奏効率では若干、panitumumabを併用したほうがよかったという結果です(表4)。まだ中間解析なので明確なことは言えませんが、抗EGFR抗体と抗VEGF抗体は相性がよくないのかもしれませんね。

瀧内:BOND2試験で分子標的薬の併用が有効ではないかという印象をもっていたのですが、2つの検証試験がネガティブな結果であったことから、現状で分子標的薬の併用は推奨できないと考えてよいのではないかと思います。

KRAS 変異の有無と個別化医療時代の幕開け

瀧内:さて、2008年 米国臨床腫瘍学会年次集会ではCRYSTAL試験18)およびOPUS試験19)におけるKRAS 解析が大きなトピックとなりました。山口先生にご紹介いただきます。

山口:CRYSTALはFOLFIRI±cetuximab、OPUSはFOLFOX±cetuximabの試験ですが、いずれもKRAS 野生型の患者においてPFSのハザード比が0.7を切るほど大きく、今まで発表されたbevacizumabベースの試験のハザード比と比べ、大きな差がみられました。また、bevacizumabベースの試験の多くはPS0-1を対象としていますが、OPUS試験はPS2の症例まで含まれていることもあり、1st-lineとしてのcetuximabが十分に現実味のある治療だと思わせるデータだと思います。

瀧内:このデータを踏まえて、2009年のNCCNのガイドライン改訂(2009年版, ver.2)では、1st-lineにKRAS 野生型の症例に対するcetuximabのオプションが加わりました。

山口:これらの試験ではKRAS 検査のみでしたが、BRAF 変異も調べると有効症例がもっと絞り込めるのではないかと期待しているところです。

瀧内:KRAS 野生型であっても、BRAF 変異があると抗EGFR抗体では効果が得られないとする報告20)もあります。今回のCRYSTAL、OPUS試験の発表は、分子マーカーによって有効症例を層別化する個別化医療時代の幕開けを象徴するものだったと思います。

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