ESMO 2013 演題速報レポート
ESMO 2013 演題速報レポート
2013年9月27日〜10月1日にオランダ・アムステルダムにて開催された The European Cancer Congress 2013 - ESMOより、大腸癌や胃癌などの注目演題のレポートをお届けします。演題レポートの冒頭には、臨床研究の第一線で活躍する監修ドクターのコメントを掲載します。
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胃癌
Abstract #2453
TRIO-013/LOGiC試験におけるHER2評価:進行胃・食道・食道胃接合部癌に対するCapecitabine + L-OHP ± Lapatinibの無作為化第III相試験
Evaluation of HER2 Status in Advanced or Metastatic Gastric, Esophageal, or Gastro-esophageal Adenocarcinoma for Entry to the TRIO-013/LOGiC Trial of Lapatinib in Combination with Capecitabine plus Oxaliplatin
Michael F. Press, et al.
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Expert's view
Lapatinibは胃癌での有用性を示せず
山口 研成先生

 LOGiC試験は、HER2陽性胃癌、食道胃接合部癌に対してEGFRとHER2の両者を阻害する経口チロシンキナーゼ阻害剤Lapatinibの有効性を検討した第III相試験である。残念ながら乳癌で証明された効果は胃癌では実証されず、先だって報告された2nd-lineのTyTAN試験の結果と合わせ、胃癌におけるLapatinib開発は困難になったと言わざるを得ない。
 Trastuzumabの胃癌での成功から、乳癌と同様に胃癌でもHER2陽性胃癌は他の胃癌と分けて治療開発が行われるようになった。しかし、胃癌と乳癌は組織の染色性を含めかなり異なり、乳癌と同一の方向性でよいのかは議論されてきた。今回の検証では、胃癌においてもIHCとFISHの相関は高そうであるが、IHCにおける中央ラボでの評価と施設ラボでの評価の乖離や、治療対象を絞り込む適切な検査法の検討がまだ必要であることが示唆された。また胃癌はheterogeneityが強いことも再認識された。
 2nd-lineのTyTAN試験でもIHCによる適切な絞り込みでLapatinibの有用性が期待できる患者集団があることが示されているが、本試験でも同様の傾向が確認されている。今後の治療対象を適切に見極めるHER2診断研究に期待したい。

背景と目的

 上部消化管 (胃、食道、食道胃接合部) 癌におけるHER2の遺伝子増幅やタンパク過剰発現の状況は、文献によってばらつきがみられる。上部消化管癌では乳癌よりもHER2のheterogeneityが多くみられており、HER2陽性が不良な予後因子であるとのエビデンスは確定的ではないものの、Trastuzumabの有効性を示したToGA試験の知見に基づき、診断時のHER2検査が推奨されている。
 LapatinibはEGFRおよびHER2を標的にする低分子チロシンキナーゼ阻害剤であり、HER2陽性乳癌患者に対して使用されている。しかし、胃・食道・食道胃接合部癌に対するCapecitabine + L-OHP (CapeOx) へのLapatinibの上乗せ効果を評価した無作為化第III相試験、TRIO-013/LOGiC試験ではOSの優越性を認めず、現時点で上部消化管癌においてHER2阻害剤は有効性を示していない。今回はTRIO-013/LOGiC試験におけるHER2の判定状況を解析した。

対象と方法

 本試験では、施設判定または中央判定によるHER2陽性が求められた。施設判定ではFISH法が推奨されたが、CISH/SISH法も許容され、IHC法の場合はIHC 3+をHER2陽性とした。なお、施設判定の結果は中央判定による確認が行われるまで盲検を維持した。
 無作為割付けの対象となった545例のうち施設判定は333例 (61%) で、FISH法が259例、IHC法が40例、FISH + IHC法が34例であり、中央での確認判定ではそれぞれ1例、6例、325例であった。中央判定の212例 (39%) には全てFISH + IHC法が行われた。

結果

 施設判定でFISH陽性だった286例のうち中央判定でFISH陽性だったのは250例であり、一致率は87%であった。また、施設判定でIHC 2+だった11例のうち中央判定でもIHC 2+だったのは1例、施設判定でIHC 3+だった60例のうち中央判定でもIHC 3+だったのは27例であり、IHC (0〜3+) の一致率は41%であった。
 中央判定におけるFISH法によるHER2遺伝子増幅とIHC法によるタンパク過剰発現の比較では、全体の一致率は90.9% (95% CI: 89.2-92.5) であった (表1)。なお、FISH陽性のうちIHC 1+/0は16.4% (90/547例) で、FISH陰性のうちIHC 1+/0は96.6% (681/704例) であった。IHCスコア別のHER2/CEP17比のサブグループでは、HER2/CEP17比2〜5の162例中、IHC 0が29例 (18%)、IHC 1+が45例 (28%) であり、HER2/CEP17比>5〜10の185例では、それぞれ4例 (2%)、12例 (6%) であった。

表1

 また、中央判定の2,335例中62例 (2.7%) でHER2のheterogeneityがみられた。
 有効性をIHCスコア別に解析したところ、PFSは全体 (HR=0.82, 95% CI: 0.68-1.00, p=0.038)、IHC 3+/2+の症例 (HR=0.76, 95% CI: 0.62-094, p=0.0096) においてCapeOx + Lapatinib群で有意な延長が認められたものの、OSは全体、IHC 3+/2+、IHC 1+/0のいずれの症例においても有意な改善は認められなかった (表2)。

表2

  OSのサブグループ解析は既報の通り、60歳未満 (HR=0.69, 95% CI: 0.51-0.94)、アジア (HR=0.68, 95% CI: 0.48-0.96) でCapeOx + Lapatinib群が良好であり、IHC 1+/0 (HR=0.91, 95% CI: 0.55-1.51)、IHC 3+/2+ (HR=0.86, 95% CI: 0.68-1.09) いずれもCapeOx + Lapatinib群で良好な傾向が認められた。

結論

 胃・食道・食道胃接合部癌では、FISH法によるHER2の遺伝子増幅とIHC法によるHER2過剰発現は高い相関を示した。また、HER2のheterogeneityはみられたものの、発生率は低かった。
 Lapatinibを併用することによりPFSは改善されたが、主要評価項目であるOSの有意な改善効果は得られなかった。なお、サブグループ解析では、アジアや60歳未満の症例で良好な傾向を認めている。

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