このページを印刷する

GI cancer-net 海外学会速報レポート 2014年6月 シカゴ

背景と目的

 根治的手術もしくは局所焼灼術を受けた肝細胞癌 (HCC) 症例の再発率は高く、5年再発率はおよそ70%にのぼる。また、切除や焼灼術の後に遺残腫瘍がない場合、再発を抑制する有効な治療法はない。Sorafenibは、切除不能HCCに対して有効性が示されている経口マルチキナーゼ阻害剤である1)。本試験は、HCCの術後補助化学療法としてのSorafenibの有効性および安全性を検討することを目的とした。

対象と方法

 対象は、肝外病変および大血管浸潤のない、新規に診断されたHCC患者であり、根治目的の切除術もしくは局所焼灼療法を受け、中・高度の再発リスクを有し、Child Pugh status A (5/6点) またはB (腹水のない7点)、ECOG PS 0の症例であった。また、HCCに対する前治療がなく、CTもしくはMRIによる診断で残存腫瘍がないことも条件とされた。

 根治術の内容、地域、再発リスク、Child-Pugh A vs. Bを層別化因子として、Sorafenib群とプラセボ群に1:1で無作為に割り付けられた。Sorafenibは、400mg を1日2回経口投与し、最大4年間継続した。

 主要評価項目はRFS (recurrence-free survival) であり、副次評価項目はTTR (time to recurrence)、OS、QOL、薬物動態、バイオマーカーなどである。

結果

 計1,114例がSorafenib群556例、プラセボ群558例に割り付けられた。背景因子は両群で均等であり、それぞれ、アジア太平洋からの登録59.4% vs. 59.1%、外科的切除 / 局所焼灼80.9/19.1% vs. 80.6/19.4%、高再発リスク症例が46.4% vs. 44.8%、Child-Pugh Aが 97.3% vs. 96.4%、年齢中央値は58歳 vs. 60歳で、両群ともほぼすべての症例がPS 0であった。

 464のRFSイベントが観察された時点で解析が行われ、主要評価項目であるRFSの中央値は、Sorafenib群33.4ヵ月、プラセボ群33.8ヵ月と両群に差を認めなかった (HR=0.940, 95% CI: 0.780-1.134, 片側p=0.26)。また、サブグループ解析においても、いずれも差を認めなかった。

 なお、副次評価項目であるTTR (中央値38.6ヵ月 vs. 35.8ヵ月, HR=0.891, 95% CI: 0.735-1.081, 片側p=0.12)、およびOS (両群中央値未到達, HR=0.995, 95% CI: 0.761-1.300, 片側p=0.48) でも両群に差を認めなかった。

 Grade 3/4の主なSorafenib治療関連有害事象は、手足症候群 (28.1% vs. 0.7%)、下痢 (6.4% vs. 0.9%)、高血圧 (6.7% vs. 1.8%)、血小板減少 (5.9% vs. 1.8%) などがプラセボ群と比較して多くみられた。

 増悪以外の治療中止の割合はSorafenib群で高く、その原因としては有害事象 (23.9% vs. 7.3%)、同意撤回 (16.7% vs. 6.3%) が挙げられる。なお、Sorafenib群は、治療期間も短く (12.5ヵ月 vs. 22.2ヵ月)、1日内服量も少なかった (578mg/day vs. 778mg/day)。

結論

 HCCの切除後もしくは焼灼術後のSorafenibによる術後補助化学療法に関する本試験では、主要評価項目であるRFSの中央値は33.4ヵ月 vs. 33.8ヵ月であり、Sorafenib投与による改善を認めなかった (HR=0.940, 95% CI: 0.780-1.134, 片側p=0.26)。

 また、TTRおよびOSについても同様に、Sorafenib投与による改善はみられなかったが、治療期間はSorafenib群で有意に短かった。また、有害事象はSorafenibの既知のものと一致していた。

コメント

 マルチキナーゼ阻害剤であるSorafenibは、切除不能肝臓癌に適応をもつ小分子化合物の分子標的薬である。Sorafenibは、進行肝細胞癌に対するプラセボ対照試験、SHARP試験において、OS (10.7ヵ月 vs. 7.9ヵ月, HR=0.69, p<0.001)、およびtime to radiologic progression (5.5ヵ月 vs. 2.8ヵ月, HR=0.58, p<0.001) で有意な延長を認めている1)。一方、抗腫瘍効果はほとんど認められていない (奏効率2.3%)。

 本試験は、肝細胞癌に効果があるという特性を利用して、術後補助化学療法としての有用性を検証するものであったが、残念ながら結果は逆に有用性がないことを示唆するものであった。今後、実臨床においては、局所根治術後の術後補助化学療法にSorafenibを使用すべきではないだろう。

 これまでにも、大腸癌や乳癌におけるBevacizumab等、術後補助化学療法として有用性を示せなかった分子標的薬がある。通常、術後補助化学療法の目的は、術後の微細残存腫瘍細胞の駆逐にある。このため、主には感受性のある殺細胞性抗癌剤、あるいは分子標的薬なら抗腫瘍効果の高いものが選択される。Sorafenibはcytostatic drugであり、毒性発現に対して不十分な効果しか得られなかったと考える。 

(レポート:坂井 大介 監修・コメント:佐藤 温)

Reference
  1. 1) Llovet JM, et al.: N Engl J Med. 359(4): 378-390, 2008[PubMed

閉じる

演題速報
アクセスランキング

このサイトは医療関係者の方々を対象に作成しています。
必ずご利用規約に同意の上、ご利用ください。記事内容で取り上げた薬剤の効能・効果および用法・用量には、日本国内で承認されている内容と異なるものが、多分に含まれていますのでご注意ください。