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GI cancer-net 海外学会速報レポート 2014年6月 シカゴ

背景と目的

 胃癌は世界で年間約100万人が新たに診断され、中国では80%以上が診断時に進行癌であることから、化学療法は重要であり、2nd-line治療抵抗性の進行胃癌においては、PSなど全身状態が良好な患者に対する新規治療開発が求められている。

 Apatinib (YN968D1) は、VEGFR2を選択的に阻害する新規小分子チロシンキナーゼ阻害剤で、第I相試験の結果からMTDは経口で850mg/dayと設定されている。Apatinibは、2nd-line治療抵抗性の進行胃癌患者に対する第I/IIa相試験において、奏効率13.9%、病勢コントロール率80.0%と報告されているため1)、Apatinibの有効性と安全性を評価する第III相試験が計画された。

対象と方法

 本試験は、多施設共同二重盲検プラセボ対照無作為化第III相試験である。2nd-line治療抵抗性の進行胃癌患者を、転移臓器数 (2個以下 vs. 3個以上) を割付因子として、Apatinib群およびプラセボ群に2:1に割り付けられた (図1)。Apatinibおよびプラセボは28日を1サイクルとして、850mgを1日1回連日内服とした。

 対象は、18~70歳で、病理学的に胃腺癌と診断されている症例のうち、2nd-line治療抵抗性で、少なくとも3ヵ月以上の生存が見込まれ、ECOG PS 0/1、測定可能病変を有する患者である。主な除外基準として、抗VEGFR抗体薬での治療歴があげられる。

 主要評価項目はOSであり、副次評価項目はPFS、奏効率 (RECIST v1.1)、病勢コントロール率、QOL、安全性であった。

図1

結果

 患者背景は、性別、年齢、ECOG PS、組織学的grade、転移臓器個数、臨床病期、治療歴など両群間で差を認めなかった (表1)

表1

 主要評価項目であるOS (FAS解析) の中央値は、Apatinib群6.5ヵ月、プラセボ群4.7ヵ月であり、有意差を持って、Apatinib群が生存を延長した (HR=0.709, 95% CI: 0.537-0.937, p=0.0149) (図2)。OSのサブグループ解析では、全ての因子においてApatinib群に良好な傾向がみられ、転移臓器個数が2個以下ではApatinib群で有意であった (HR=0.70, 95% CI: 0.51-0.97)。

図2

 副次評価項目であるPFSは、FAS解析 (Apatinib群2.6ヵ月 vs. プラセボ群1.8ヵ月, HR=0.444, 95% CI: 0.331-0.595, p<0.0001) およびPPS解析 (各2.8ヵ月 vs. 1.9ヵ月, HR=0.455, 95% CI: 0.332-0.624, p<0.0001) ともにApatinib群ではプラセボ群に比べ有意な延長を認めた (図3)

図3

 RECIST v1.1に基づく奏効率は、主治医判定ではApatinib群2.84%、プラセボ群0%、中央判定ではそれぞれ1.7%、0%であった。

 有害事象全体や、grade 1/2およびgrade 3/4の有害事象については、Apatinib群で有意に多かったが、重篤な有害事象は両群で差を認めなかった。
 Apatinib群では、血液学的毒性の白血球/好中球減少 (各p<0.0001)、血小板減少 (p=0.0002) (表2) 、非血液学的毒性の蛋白尿、高血圧、手足症候群 (各p<0.0001) (表3)、grade 3/4の手足症候群 (p=0.0032) が有意に高頻度であったが、認められた有害事象はこれまでの抗VEGFR抗体薬と類似し予期されたものであり、Apatinibによる治療は忍容可能であった。

表2

表3

結論

 Apatinibは、胃癌で初めて生存の延長を証明したVEGFRを標的とする小分子化合物である。Apatinib単剤療法は、2nd-line治療に抵抗性となった進行胃癌患者の新しい治療オプションとなる。

コメント

 現在、進行・再発胃癌において認可された分子標的薬はTrastuzumabのみである。これまでにGefitinib、Panitumumab、CetuximabといったEGFR阻害剤や、Bevacizumabといった抗VEGF抗体薬の臨床試験が計画されたが、すべてnegativeであった。本試験結果から、Apatinibは単剤でその有用性を証明したことになり、大変期待されるものである。

 ただし、本試験は中国のみで行われており、承認に向けて準備するにあたっては、これから日本での臨床試験の計画を立てなければならない。欧米でも再度臨床試験を組み立てるとのことであった。一方、質疑応答時の対応やスライドの表記等から、臨床試験の質に関して、どうしても疑念が残ってしまう。にもかかわらず発表を本サイトで紹介することにしたのは、やはり胃癌の化学療法の進歩において期待があるからである。

(レポート:坂井 大介 監修・コメント:佐藤 温)

Reference
  1. 1) Li J, et al.: J Clin Oncol. 31(18): 3219-3225, 2013[PubMed

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