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GI cancer-net 海外学会速報レポート 2014年6月 シカゴ

背景と目的

 Panitumumab(Pmab)はKRAS 野生型の切除不能進行・再発大腸癌に対して効果を発揮することが示されており1)、STEPP試験において皮膚障害に対する予防療法は、対症療法と比較し、皮膚障害の発現を抑制することが報告されている2)。一方、アジア人を対象とした予防療法に関するデータは存在しないため、J-STEPP試験では日本人の切除不能進行・再発大腸癌患者を対象として、Pmabを含む化学療法施行時における皮膚障害の発現を、予防療法と対症療法で比較検討した。本試験の結果は2014年消化器癌シンポジウムにて発表されており3)、今回は有効性の追加解析が報告された。

対象と方法

 対象は、20歳以上、ECOG PS 0-2で日本人のKRAS 野生型切除不能進行・再発大腸癌患者で、3rd-lineにおいてPmabを含む治療が実施された症例とした。年齢、性別、施設、レジメンで層別化して、皮膚障害の対症療法群と予防療法群に無作為に割り付けられた (図1)

図1

 なお、各群における皮膚障害に対する治療は以下のとおりで、観察期間終了後に1人の皮膚科専門医が写真による中央判定を行った。

  • 対症療法群:Pmab投与開始時より保湿剤を塗布し、皮膚障害が発現した後にステロイドを塗布し、ミノサイクリンを内服する。
  • 予防療法群:Pmab投与開始時より、保湿剤およびステロイド (プレドニゾロン0.5%) を1日2回、顔、手足、首、背、胸に塗布し、日焼け止め (SPF: 30、PFA: 4~8) を外出時に塗布。そしてミノサイクリン (100mg/日) を内服する。

 主要評価項目は、試験開始6週間における主治医判定でのgrade 2以上の皮膚障害発現率であり、副次評価項目はPFS、OS、TTF (time to treatment failure)、奏効率 (ORR)、中央判定における皮膚障害であった。

 STEPP試験の試験開始6週間におけるgrade 2以上の皮膚障害発現率は、対症療法群62%、予防療法群29%であったため、皮膚障害発現率の期待値を29%、閾値を62%とし、検出力90%、両側5%の有意水準で必要登録例は92例となり、不適格症例を10%考慮して目標症例数は102例とした。

結果

 2010年6月から2013年3月までに95例が登録され、対症療法群48例、予防療法群47例に割り付けられた。なお、予防療法群のうち1例はPmabが投与されなかったため、46例が解析対象となった 。患者背景は両群間に差はみられなかった。

 試験開始6週間におけるgrade 2以上の皮膚障害の発現率は、主治医判定では対症療法群62.5%、予防療法群21.3% [risk ratio (RR) =0.34, 95% CI: 0.19-0.62, p<0.001]、皮膚科専門医による中央判定ではそれぞれ50.0%、18.6% (RR=0.37, 95% CI: 0.19-0.74, p=0.002) と、いずれも予防療法群は対症療法群と比較し有意に低率であった (表1)

表1

 PFS中央値は予防療法群3.6ヵ月、対症療法群4.0ヵ月 (HR=1.20, 95% CI: 0.78-1.84, p=0.413) (図2) であり、TTF中央値はそれぞれ3.0ヵ月、3.5ヵ月 (HR=1.23, 95% CI: 0.80-1.89, p=0.343)と両群間で有意差を認めなかった。

図2

 また、奏効率も両群で有意差は認められず、予防療法群13.3%、対症療法群18.2%であった(p=0.530) (表2)

表2

結論

 皮膚障害の予防療法により、Pmab治療に伴う皮膚障害の重症度を緩和することが可能であった。また、皮膚障害の予防療法はPmabの治療効果には影響しないことが示された。本データより、皮膚障害の予防療法は日本人症例に対しても有益であることが明確になった。

コメント

 STEPP試験において、抗EGFR抗体薬の治療開始時期から適切なスキンケアを行うことで、有効性を減じることなく、皮膚毒性を軽減することが報告されている。2014年消化器癌シンポジウムにおいて、HGCSG (北海道消化器癌化学療法研究会) より、日本人を対象としたデータにおいても同様に皮膚毒性を軽減することが報告された。今回は、同試験における抗腫瘍効果の追加解析結果である。PFS、TTF、ORR等において有意差は認められなかった。これより、治療開始時からのスキンケアが治療実施にあたっていかに重要であるかが再確認された。
 治療の成功については、治療強度とともに患者側のアドヒアランスが大きく影響する。すでに多くの施設において、医師以外のメディカルスタッフの協力を得て治療開始時期からのスキンケアが実践されているが、本邦からのエビデンスも発表されていることから、より広く普及することを望んで止まない。

(レポート:坂井 大介 監修・コメント:佐藤 温)

Reference
  1. 1) Van Cutsem E, et al.: J Clin Oncol. 25(13): 1658-1664, 2007[PubMed
  2. 2) Lacouture ME, et al.: J Clin Oncol. 28(8): 1351-1357, 2010[PubMed
  3. 3) Iwanaga I, et al.: 2014 Gastrointestinal Cancers Symposium: abst #541[学会レポート

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