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GI cancer-net 海外学会速報レポート 2014年6月 シカゴ

背景と目的

 大腸癌肺転移に対する切除は広く行われており、5年生存率は40~50%と報告されている。一方、L-OHPを含む新規抗癌剤がstage III大腸癌の術後補助化学療法として使用され、それ以前の5-FUレジメンと比較し、治療成績の向上が報告されている。本試験では、新規抗癌剤が使用可能な近年の大腸癌肺転移の切除成績と周術期の化学療法の効果について、日本における多施設共同研究として後ろ向きに検討した。

対象と方法

 2004~2008年に日本の46施設で大腸癌肺転移に対して初回切除が行われた1,237例が検討された。そのなかで、周術期治療の情報がない (119例)、R0切除でない (116例)、術後追跡の適切な情報がない (47例)、対象期間外に手術が行われていた (34例)、重複癌もしくはその既往 (12例)、初回切除でない (5例)、その他 (6例) の理由により症例が除外され、適格とされた898例が解析の対象となった。

 予後調査のカットオフは2013年8月31日に行われ、観察期間中央値は61ヵ月 (範囲:0.2-111) であった。周術期治療は、手術単独、術後化学療法 (Post-C)、術前化学療法 (Pre-C)、術前および術後化学療法 (Pre- and post-C) の4群に分類され、患者背景や予後因子の偏りを調整したうえで、多変量解析によって評価された。

結果

 解析対象898例の患者背景を表1に示す。肺転移の個数は1~10個であったが、71%は単発の症例であり、中央値は1個であった。術式としては部分切除60%、区域切除13%、葉切除以上27%であり、73%の症例は区域切除までの切除範囲であった。また、再発形式は胸腔内のみ46%、胸腔外のみ33%、両者20%であり、再発症例の35%で切除が行われていた。

表1

 5年DFS (disease-free survival) は35.3%、5年OSは65.7%であった (図1)

図1

 予後因子の解析では、年齢、DFI (disease-free interval)、胸腔外病変の有無、肺転移前のCEA値、病理学的な肺転移個数、病理学的な腫瘍径が独立した因子であった (表2)

表2

 周術期治療として45%が手術単独、42%に術後化学療法が行われ、術前化学療法が行われた症例は6%、術前および術後化学療法が行われた症例は7%であった (図2)

図2

 周術期治療化学療法の分類による予後の検討では、術後に化学療法が行われた場合にOSが良好な傾向を認めた (図3、表3)

図3

表3

 術後化学療法の内容の検討では、手術単独群、手術 + 術後L-OHP群、手術 + 術後5-FU群の間にDFSとOSについて差を認めなかった (表4)

表4

結論

 新規抗癌剤時代において、大腸癌肺転移切除は5年DFS 35.3%、5年OS 65.7%と良好な成績が得られた。また、予後因子は、DFI、胸腔外病変の有無、肺切除前のCEA値、肺転移の個数と腫瘍径であった。

 手術単独群の5年DFSは39.3%であり、手術単独にて根治が得られる症例があると考えられる。周術期化学療法の効果は明らかには認められなかったが、術後化学療法においてOSは良好な傾向 (HR=0.84, 95% CI: 0.65-1.1) がみられ、今後前向きな検討が望まれる。

コメント

 素晴らしい成績である。46施設から登録された1,237例から様々な理由で症例が除外されたものの、898例 (72.6%) が検討されている。5年OSは 65.7%と極めて良好で、これまで報告されている肝転移巣のR0切除後の成績を上回っている。

 演題名中に「in the modern chemotherapy era」とあるが、術前および / もしくは術後に化学療法が行われた症例は55%に過ぎず、この良好な治療成績の相当部分は、肺転移巣の適切な評価、症例の選択と優れた手術によってもたらされたものと考えられる。一方、化学療法に関しては術後補助化学療法の有効性が示唆されたが、あくまで後ろ向きの解析である。今後は前向きの臨床試験の遂行が期待される。

 切除不能進行・再発大腸癌に対する化学療法の成績は、また踊り場に差し掛かった感が否めない。CALGB80405試験で示された良好なOSにも、転移巣の積極的な切除が少なからず関与している可能性がある。やはり、癌は切除するのが最も確実な治療法である。腫瘍内科医、消化器外科医、呼吸器外科医のコラボレーションによって、大腸癌肺転移症例の予後が一層向上するものと期待される。5年OSが7割を超える時代が到来することを期待する。

(レポート:中村 将人 監修・コメント:大村 健二)

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