背景と目的
症状を伴わないstage IV大腸癌において、原発巣切除を行うことが有益かについては未だ明確な回答が得られていない。メタアナリシスでは、stage IV大腸癌において原発巣切除を行うことで、死亡リスクを31%低下させることが報告されている。しかし、原発切除群と非切除群との間で、PSや合併症の有無など予後に関連する患者背景を調整した上での検討は行われていない。
対象と方法
対象は、1992?2005年までにカナダSaskatchewan州でstage IV大腸癌と診断された患者であり、Kaplan-Meier法による生存分析、log-rank検定による群間比較とCox比例ハザードモデルを用いた多変量解析を行った。
結果
Stage IV大腸癌患者1,378例のうち、出血、閉塞、穿孔などの症状を有する544例が除外され、原発巣による症状がほとんどない834例を解析対象とした。そのうち原発巣切除は521例 (62.5%) に実施され、313例 (37.5%) には実施されなかった。
原発巣切除群および非切除群の患者背景には、年齢、PS、アルブミン値、転移臓器個数、診断後の化学療法の有無などに群間差を認めた (表1)。
表1
原発巣切除群は、非切除群と比較して予後良好であった (OS中央値 19.7ヵ月 vs. 8.4ヵ月) (図1)。また、L-OHPもしくはCPT-11を含む術後化学療法が実施された患者のサブグループ解析においても、同様の傾向であった (OS中央値 29.4ヵ月 vs. 16.0ヵ月)。
図1
さらに、PSや年齢など他の予後因子を含めた多変量解析を行ったところ、原発巣切除は予後良好因子であった (HR=0.47, 95% CI: 0.39-0.57, p<0.0001) (表2)。
表2
結論
無症候性stage IV大腸癌に対する原発巣切除は、化学療法や合併症の有無、年齢と独立した予後良好因子である。
コメント
大腸癌に対する減量手術の検討である。胃癌においては、JCOGで実施されたREGATTA試験 (JCOG0705)の結果が2014年3月に報告され1)、切迫症状を有さない症例に対して、減量手術は施行すべきではないと結論付けられている。今回、減量手術を受けた症例において、良好な生存転帰を示したと報告されているが、背景因子が大きく偏っており、多変量解析によっても十分に補正されているとは言い難い結果であった。最近はやりの、背景因子を調整した検討を行うか、前向きの無作為化比較試験によって検証する必要があるものと思われた。大腸癌においては、胃癌と異なり原発巣切除により化学療法の治療強度が低下するとは考えにくく、有用性が検証される可能性は十分にあると考えられる。
討論では、discussantに対して「なぜ減量手術が有効と思われるのか?」という質問があったが、残念ながら明確な回答は得られなかった。質問者の “this society think” という日本ではあまり聞くことのない表現に、米国における学会のpresenceの高さを再認識させられた。
(レポート:谷口 浩也 監修・コメント:寺島 雅典)
- Reference
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- 1) 辻仲利政ら:第86回日本胃癌学会総会2014