背景と目的
ミスマッチ修復欠損 (dMMR) は大腸癌の約15%で癌発生にかかわっており、マイクロサテライト不安定性 (MSI) と97%一致している1)。さらに、早期stage、予後良好、右側優位の発生、5-FU耐性などと相関することも報告されている2)。結腸癌に対する術後補助化学療法の26試験37,800超の症例データを含むACCENTデータベースを用い、ミスマッチ修復ステータス情報を有する17試験7,803例を対象として、ミスマッチ修復欠損と切除可能大腸癌の臨床/病理学的な特徴および予後との相関を解析した。
対象と方法
本解析に登録した試験のうち、14試験でPCRによるマイクロサテライト不安定性、1試験で免疫染色によるMLH1/MSH2/MSH6蛋白、2試験で両方の測定が行われていた。ミスマッチ修復欠損 (dMMR) をMSI-高/MLH1, MSH2, MSH6蛋白低下と定義し、それ以外をミスマッチ修復良好 (pMMR) とした。主要評価項目は無再発期間 (TTR : time to recurrence) とOSで、切除単独または5-FUベースの単剤補助化学療法を行った症例 (追跡期間中央値7年) において予後の解析が行われた。
結果
臨床/病理学的な特徴との相関解析では、年齢、性別、stage、原発巣部位別で相関がみられた (表1)。
表1
切除単独治療群
Stage II症例の5年TTRは、dMMR例 89%、pMMR例 74%であり (HR=0.35, 95% CI: 0.15-0.80, p=0.013)、5年OSはdMMR例 90%、pMMR例 78%であった (HR=0.37, 95% CI: 0.17-0.81, p=0.013) (図1)。
図1
Stage III症例の5年TTRはdMMR例 60%、pMMR例 47%であり (HR=0.79, 95% CI: 0.45-1.39, p=0.41)、5年OSはdMMR例 59%、pMMR例 54%であった (HR=0.84, 95% CI: 0.49-1.43, p=0.51) (図2)。
図2
多変量解析では、stage (III vs. II)、T-stage (T4 vs. T2)、MMR (dMMR vs. pMMR) で有意差を認めた (表2)。
表2
5-FU補助化学療法群
Stage II症例の5年TTRはdMMR例 88%、pMMR例 83%であり (HR=0.84, 95% CI: 0.57-1.24, p=0.37)、5年OSはdMMR例 88%、pMMR例 87%であった (HR=0.91, 95% CI: 0.63-1.31, p=0.62) (図3)。
図3
Stage III症例の5年TTRはdMMR例 72%、pMMR例 64%であり (HR=0.82, 95% CI: 0.67-0.99, p=0.040)、5年OSはdMMR例 77%、pMMR例 71%であった (HR=0.81, 95% CI: 0.67-0.99, p=0.039) (図4)
図4
再発後の予後に関する検討では、stage II症例のOS中央値はdMMR例 1.6年、pMMR例 2.2年 (HR=1.00, p>0.99)、stage III症例はそれぞれ1.2年、1.6年であり (HR=1.00, p>0.99)、ともにミスマッチ修復良好と欠損で予後に差はみられなかった。
本解析では、切除単独と5-FUベース補助化学療法に割り付けられた症例は、登録した7,803例中868例 (11.1%) に過ぎなかった。また、stage II症例の多くは12リンパ節確認が標準的となる以前の症例であった。このデータを用いて5-FU補助化学療法の予後予測因子の検討を行うことはできなかった。
結論
ミスマッチ修復欠損は、切除可能結腸癌の様々な臨床/病理学的特徴と相関し、切除単独治療を行った症例、特にstage IIにおける切除後の良好な予後予測因子であることが示された。5-FU補助化学療法を行ったstage III症例においてもミスマッチ修復欠損が予後良好であったが、その統計学的なインパクトは小さかった。以上より、stage II症例に対してはミスマッチ修復を測定し、欠損例においては5-FU補助化学療法は勧められないことが示された。
コメント
ACCENTデータベースに登録された結腸癌症例において、stage II/III症例におけるミスマッチ修復欠損の測定と臨床的予後とが解析され、上述の結果となった。その結果、stage IIで切除単独療法となった症例だけが、統計学的に切除後の予後予測因子となった。2010年の「Journal of Clinical Oncology」でも同様の検討が報告されており2)、5-FUの補助化学療法によって、stage IIIのミスマッチ修復欠損がある群にはbenefitがあるとのことであったが、今回の検討でははっきりしなかった。
この対象に入った5-FU補助化学療法例は全登録症例の11.1%と、限られた症例数のなかでの検討であり、さらに手術の際のリンパ節郭清もなされていなかったなどの問題もある。現在各種分子標的薬療法の効果等も、各種バイオマーカーの発見により様々な効果予測が検討されているが、このミスマッチ修復欠損も、充実したデータベースの構築により、今後の大腸癌術後補助化学療法の個別化に期待できる。本来、補助化学療法を受けずとも再発を起こさない、化学療法の苦労を受ける必要がない患者群の抽出などに応用ができれば、患者への大いなる貢献となるだろう。
(レポート:砂川 優 監修・コメント:小松 嘉人)
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