演題速報レポート

背景と目的

 結腸癌根治切除例に対する術後補助療法を最適化するため、再発リスクを正確に定量化できる方法が必要とされている。これまでに12遺伝子を用いたOncotype DXR Colon Cancer Recurrence ScoreR assay (Genomic Health, Inc.) はQUASAR試験1)、CALGB 9581試験2)に登録されたstage II 結腸癌根治切除例を対象に再発を予測することが検証されてきた。今回、NSABP C-07試験3)に登録されたstage II/III結腸癌根治切除例を対象に、あらかじめ計画された評価項目、方法、解析を用いて前向きに検証を行った。

対象と方法

■対象
 NSABP C-07試験に登録された2,409例中、腫瘍サンプルが回収可能な1,860例から半数の929例をランダムに抽出した (層別因子 : 再発の有無、stage)。最終的な解析対象は腫瘍量が不十分であった9例、組織型が非適格であった19例、抽出したRNAの質および量に問題のあった9例を除いた892例とした。

■評価項目

  • ・主要評価項目
    5-FU/LVまたはFLOX療法が施行されたstage II/III結腸癌根治切除例において、RSの連続値と再発率の相関を検討する。
  • ・副次評価項目
    • RSに応じて患者を低リスク群 (RS 0-29)、中リスク群 (RS 30-40)、高リスク群 (RS 41-100) に分類し、高リスク群と低リスク群の再発率を比較する。
    • RSの連続値と臨床病理学的因子における再発率の関係を検討する。

結果

 RSの調整済みハザード比 (RS 25単位の増加毎) は1.96 (95%CI: 1.50-2.55, p<0.001) とstage (IIIA/B vs. II、IIIC vs. II)、治療法 (5-FU/LV vs. FLOX) とともに有意に再発を予測することが示された (図1)


図1

 解析対象となった892例中、5-FU/LV療法群は449例、FLOX療法群は443例であり、両群の患者背景因子に大きな隔たりはなかった。観察期間中央値8.6年 (97%が3年間、94%が5年間観察) の時点で、再発はstage II 264例中31例 (12%)、stage III 628例中214例 (34%) に認めた。
 5-FU/LV群のみの低リスク群、中リスク群、高リスク群の5年再発率は、順にstage IIで各々9%、13%、18%、stage IIIA/Bで21%、29%、38%、stage IIICで40%、51%、64%であり、低リスク群と比較して高リスク群で有意に再発率が高かった (HR=2.11, p<0.001)。
 その他、各々のstageにおける再発リスク、治療法別の5年再発率は下記の通りであった(表1)


表1

 臨床病理学的背景因子を含んだ多変量解析においても、RSの調整済みハザード比 (RS 25単位の増加毎) は1.57 (95%CI: 1.19-2.08, p=0.001) と有意に再発を予測することが示された (表2)


表2

 また、PFS (progression-free survival)、OS (overall survival) における解析においても、RSの調整済みハザード比 (RS 25単位の増加毎) は各々1.60 (95%CI: 1.28-1.99, p<0.001)、1.89 (95%CI: 1.46-2.44, p<0.001) と有意差を認めた。

結論

 本試験において、RSは5-FU/LVまたはFLOX療法を施行されたstage II/III結腸癌根治切除例においても再発を予測することが検証され、stage IIIでは初めてRSが再発を予測することが示された。Stage II 結腸癌症例と同様、stage III 結腸癌根治切除例に対しても術後補助化学療法の決定の際にRSは有用と考えられる。現在、Oxaliplatin (L-OHP) の治療効果ならびに耐性を予測する新たな遺伝子の解析が進行中である。
 解剖学的なstagingおよびRSなどを用いてリスクを層別化することで、術後補助化学療法の臨床試験の対象をより低リスク症例または高リスク症例などに絞り込むことが可能と考えられた。

コメント

 今回のNSABP C-07試験登録症例を対象としたOncotype DXRの検証試験により、stage IIIにおいてもstage IIと同様にRSが再発を予測できる可能性が示された。また、stage II、IIIA/B、IIICのいずれのサブグループ解析においても、有意差はないもののHigh RSグループにおいてFLOX群の方が再発率を低く抑える傾向も認められた。
 試験の共同研究者であるYothersらは、昨年の米国臨床腫瘍学会年次集会において、stage II 高リスク群 (穿孔・T4病変・検索リンパ節個数12個未満) では、有意差はないもののL-OHPの上乗せ効果がみられる傾向にあったことを報告している4)。本報告では、化学療法の上乗せについてはstage IIIにも有効であることが示唆されたが、L-OHP併用の有用性については明確には証明されていない。今後はL-OHPの効果・耐性を予測する新たな遺伝子を検出してこの検査系に組み入れることにより、真にL-OHPが有効である群を見出すことができれば、患者にとって有効でかつ不利益な副作用を生じさせない治療法の確立が可能となるかもしれない。いずれにせよこれらの新しい検査により、真にL-OHPが有効な患者群を絞り込み、その群に対する前向きの臨床試験ができれば、最も確実にそれを証明することができる。
 会場でYothers氏に質問する機会を得たが、Oncotype DXRはすでに商品化されており、彼らもこのキットを日常的に使って臨床に役立ててみたいとのコメントがあった。乳癌では日本人においても有効であることが検証され、このOncotype DXRによる治療体系が形成されつつあるが、大腸癌においては未だ難しく、さらなる研究の積み重ねが必要であるものと思われる。

(レポート : 山﨑 健太郎、監修・コメント : 小松 嘉人)

Reference
  1. 1) Gray RG, et al.: J Clin Oncol. 29(35): 4611-4619, 2011 [PubMed][論文紹介
  2. 2) Venook AP, et al.: 2011 Annual Meeting of the American Society of Clinical Oncology®: abst #3518
  3. 3) Yothers G. et al.: J Clin Oncol. 29(28): 3768-3774, 2011 [PubMed][論文紹介
  4. 4) Yothers GA, et al.: 2011 Annual Meeting of the American Society of Clinical Oncology®: abst #3507[学会レポート

関連リンク
  1. GI-pedia 第3回「大腸癌のバイオマーカー」/2.3 Gene signature
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