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監修:名古屋大学大学院 医学研究科 坂本純一(社会生命科学・教授)

結腸癌の術後補助化学療法としてのL-OHP:NSABP C-07試験の最新報告−生存成績およびサブグループ解析を含む

Yothers G. et al., J Clin Oncol. 2011, 29(28):3768-3774

 L-OHPは、MOSAIC試験およびNSABP C-07試験でdisease-free survival(DFS)に関する上乗せ効果が明らかになったことから、ステージII〜IIIの結腸癌に対する術後補助化学療法におけるその役割が確立された。しかし、ステージII/IIIの患者全てが術後補助化学療法としてL-OHPの投与を受けるべきなのかどうかについては議論がある。MOSAIC試験やNSABP C-07試験などのプール解析からは、L-OHPの、OSおよびDFSへの影響は年齢70歳以下の患者に限定されるという結果も報告されている。
 本試験は、結腸癌患者に対する術後補助化学療法として5-FU+LV(FULV群)とFULV+L-OHP(FLOX群)を比較するNSABP C-07試験について、DFSの最新報告、OS結果の提示、およびあらかじめ選択された患者サブセットにおいてOSおよびDFSに差が生じるか否かを検討する探索的解析を実施したものである。
 対象はステージII(T3〜4 N0 M0)またはステージIII(T1〜4 N1〜2 M0)の結腸癌患者で、治癒的切除術を受け残存病変のない者とした。登録期間は2000年2月〜2002年11月で追跡期間中央値は8年である。
 評価可能な対象患者2,409例はFULV群(1,209例)とFLOX群(1,200例)に無作為に割り付け、FULV群にはLV 500 mg/m2(2時間で静注)、FU 500 mg/m2(LV投与後、1時間でbolus投与)を週1回、6連続週投与し、2週間の休薬期間を置き、この8週1コースのレジメンを3コース実施した(治療期間6ヵ月)。FLOX群にはL-OHP 85 mg/m2を2週毎に投与した(FULVの前に2時間で静注、治療期間6ヵ月)。
 主要評価項目はDFS、副次評価項目はOSである。
 年齢70歳未満はFULV群1,006例、FLOX群1,007例、70歳以上は203例、193例。ステージIIは349例、346例、IIIは860例、854例であった。
 DFSのイベントはFULV群503件、FLOX群432件が報告され、DFSイベントの相対リスクはFLOX群で-18%と有意に低下していた(HR 0.82、95%CI 0.72-0.93、p=0.002)。5年DFSはFULV群64.2%、FLOX群69.4%、両群の差は5.2%でFLOX群が良好であった。
 死亡数はFULV群362例、FLOX群320例で両群のOSに有意差は認められなかった(HR 0.88、95%CI 0.75-1.02、p=0.08)。5年OSは78.4% vs 80.2%、両群の差は1.8%でFLOX群に良好な傾向が認められた。
 治療方法と年齢の相互関係を多変量解析にて検討したところ、OSには有意な相関が認められたが(HR 1.46、95%CI 1.02〜2.09、p=0.0391)、DFSには有意差はなかった(HR 1.34、95%CI 0.97〜1.84、p=0.0733)。
 次に年齢を70歳以上と未満に分けてOSを検討すると、70歳未満群の死亡数はFULV群285例vs. FLOX群243例で、L-OHPの有意な上乗せ効果が認められた(HR 0.80、95%CI 0.68〜0.95、p=0.013)。一方70歳以上群の死亡数は各77例で有意差は認められなかった(HR 1.18、95%CI 0.86〜1.62、p=0.30)。5年OSは70歳未満群の78.8%vs. 81.8%に対し、70歳以上群では76.3%vs 71.6%でFLOX群のほうが低下していた。DFSについても同様の結果がみられた(70歳未満群のHR 0.76、95%CI 0.66〜0.88、p<0.001。70歳以上群のHR 1.03、95%CI 0.77〜1.36、p=0.87)。
 ステージ別解析では、ステージIIIの患者のOSのFLOX群とFULV群の相違は有意水準の境界域であった(HR 0.85、95%CI 0.72〜1.00、p=0.052)。DFSはFLOX群が有意に改善していた(HR 0.78、95%CI 0.68〜0.90、p<0.001)。一方ステージIIの患者ではOS(HR 1.04、95%CI 0.72〜1.50、p=0.84)、DFS(HR 0.94、95%CI 0.70〜1.26、p=0.67)ともにL-OHPの上乗せ効果は認められなかった。5年OSはステージIII群ではFLOX群で2.7%の改善が認められたが、II群の改善率は0.1%にすぎなかった。
 グレード4/5の有害事象は、FULV群の70歳以上群13%、70歳未満群9%、FLOX群ではそれぞれ20%、10%に発現した。70歳未満群は70歳以上群と比較し、5-FUの累積投与量が多かったが、FLOX群では年齢に関わらず5-FUの用量はFULV群の91%であった。5-FUの相対用量は70歳未満群がやや高かった。L-OHPの累積投与量は70歳以上群では未満群に比べ25%少なかったが、相対用量に差はなかった。このことから、70歳以上群ではL-OHPの早期中止が多かったことが示唆された。
 5-FU療法にL-OHPを併用することは、大部分のステージIII結腸癌、またハイリスクのステージII結腸癌患者に対し適切な選択肢であると考えられるが、高齢患者にL-OHPを投与する場合は患者選択に注意が必要である。

監訳者コメント

大腸癌補助化学療法には腫瘍因子のリスク分類のみでなく患者リスクの分類も必要

 大腸癌の治療成績を向上させるためには手術療法の改善とともに補助化学療法の改善が必須である。しかしながら現在、使用できる補助化学療法の種類は多岐に渡り、対象となる患者背景も明確にされていない状況である。補助化学療法に使用する薬剤には概ね抗腫瘍効果に比例した副作用が伴うのが一般的である。そのため、より再発ハイリスクな患者群にはより強力な治療方法を、と考えたい一方で忍容性、継続性のため安全性を重視したレジメン選択をすべき患者群も存在する。
 本研究は大腸癌標準補助化学療法の一つであるFU/LVにL-OHPを付加することによる効果上乗せをみたものである。試験全体として生存率、無再発生存率を改善しながらも年齢別でみた場合の70歳以上群ではむしろ無再発生存期間は低下してしまう結果となった。このことは70歳以上群での有害事象発生率、累積投与量の低下からもうなずける結果であり、また他の論文での、高齢者におけるFLOXでの重篤な下痢の発生報告からも十分想定される結果といえる。
 補助化学療法をできる限り必要な患者のみに対象を絞り、より効果的かつ安全に施行していくためには、再発リスク評価の精度向上のみならず、化学療法に対するリスク評価の確立が望まれる。

監修:名古屋大学大学院医学系研究科 坂本純一(社会生命科学・教授)
監訳・コメント:名古屋市立大学 原 賢康(消化器外科・助教)
竹山 廣光(消化器外科・教授)

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