演題速報レポート

背景と目的

 BrivanibはVEGFR、FGFRを標的とする経口チロシンキナーゼ阻害薬である。今回、KRAS 野生型切除不能進行・再発大腸癌症例を対象にCetuximab療法に対するBrivanib併用の有効性を検証することを目的に第III相比較試験を行った。

対象と方法

  1. ・対象
    Fluoropyrimidine投与歴があり、Oxaliplatin、Irinotecanに対して不耐・不応となった切除不能進行・再発大腸癌症例*であり、分子標的薬の投与歴については、抗EGFR抗体薬は前投与なし、抗VEGF製剤は1剤のみ許容することとした。
    *2008年5月12日以降はKRAS 野生型に限定した。

  2. ・方法
    対象をBrivanib群 (Brivanib 800mg/day 連日投与 + Cetuximab) とplacebo群 (Cetuximab単独) とに1:1の割合でランダムに割り付けた (層別化因子:施設、PS)。
     主要評価項目:OS (overall survival)
            9.7ヵ月→12.9ヵ月 (HR=0.75) 、片側α=0.025、検出力90%、
            必要症例数 計750例
     副次的評価項目:PFS (progression-free survival)、ORR (objective response
             rate)、duration of response、QOL、安全性など

結果

 2008年2月から2011年2月の間に750例が登録された (Brivanib群376例、placebo群374例) 。両群間で患者背景に大きな隔たりはなかった。
 主要評価項目のOSに有意差は認められず (HR=0.89, 95%CI: 0.77-1.03, p=0.13) 、中央値はBrivanib群8.9ヵ月、placebo群8.2ヵ月であった (図1) 。

図1

 患者背景因子によるサブグループ解析ではPS 2以外はBrivanib群でOSが良好な傾向を認めたものの、ほとんどが95%CIは1を跨いでいた (図2) 。

図2

 PFSの中央値はBrivanib群4.8ヵ月、placebo群3.4ヵ月であり、Brivanib群で有意に良好であった (HR=0.74, 95%CI: 0.64-0.86, p<0.0001、図3) 。

図3

 サブグループ解析では、PS 2の症例以外はBrivanib群でPFSが良好であった (図4) 。

図4

 ORRもBrivanib群14%、placebo群7%とBrivanib群で有意に良好であった (p=0.002) 。用量強度を90%以上維持できた割合は、CetuximabについてはBrivanib群43%、placebo群72%であり、Brivanib/placeboについては各々47%、86%とBrivanib群で少なかった。
 Grade 3以上の非血液毒性はBrivanib群で多く (81% vs. 54%) 、特に倦怠感 (27% vs. 11%)、高血圧 (11% vs. 1%) の頻度が高かった。また、Brivanib群ではgrade 3以上のトランスアミナーゼ上昇 (AST: 17% vs. 6%、ALT: 22% vs. 5%) およびTSH上昇 (25% vs. 4%) を多く認めた。有害事象により薬剤の投与を中止した割合は、CetuximabではBrivanib群8%、placebo群4%であり、Brivanib/placeboでは各々23%、4%とBrivanib群で多く、後治療は各々18%、23%にを施行された。QOL評価はplacebo群で良好であった。

結論

 KRAS 野生型切除不能進行・再発大腸癌症例に対するCetuximab療法にBrivanibを併用することでPFS、ORRの改善は認められたが、主要評価項目であるOSにおける有効性は示せなかった。新たな有害事象は認めなかったが、Brivanib併用例では薬剤の用量強度、およびQOLが低下した。

コメント

 Brivanibは、VEGFとFGFの受容体を標的とする経口チロシンキナーゼ阻害薬である。第I/II相試験においてKRAS 野生型大腸癌患者におけるプロスペクティブな検討により1)、CetuximabとBrivanibの併用によるPFSの改善が期待されたため、第III相試験が計画された。その結果は2012年1月に行われた消化器癌シンポジウムにおいて報告されたが2)、PFSは有意にBrivanib併用群で勝っていたものの、主要評価項目であるOSについて有意差はなく、negative studyに終ったとの報告であった。今回はそのupdateデータの報告となったわけであるが、特に大きな変化はなく結論は変わらなかった。今後は、バイオマーカー解析を進めていくとのコメントもあり、Brivanibの効果がある群が見出されることが期待される。
 最後に、ディスカッサントが他の2つのpositive試験となった第III相試験 (TML試験VELOUR試験)3, 4)の結果と比較・解説した。これら2つの試験ではわずかに1.4ヵ月のOSの差であったが、検出力が90%もあったので有意となった。しかし、本研究では検出力が80%しかなく、これではOSの差が0.8ヵ月しかないので、差がでなかったわけである。ディスカッサントが「この1.4ヵ月というOSの延長は、実臨床ではどのような意味があるのか考えねばならない」と総括したことが印象に残った。

(レポート:山﨑?健太郎 監修・コメント:小松 嘉人)

Reference
  1. 1) M. Ayers, et al.: 2009 Gastrointestinal Cancers Symposium, abst #375
  2. 2) Lillian L. Siu, et al.: 2012 Gastrointestinal Cancers Symposium, abst #386
  3. 3) Dirk Arnold, et al.: 2012 Annual Meeting of the American Society of Clinical Oncology®, abst #CRA3503[学会レポート
  4. 4) Lillian L. Siu, et al.: 2012 Annual Meeting of the American Society of Clinical Oncology®, abst #3504
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