OS の代替エンドポイントとしてのPFS
先生はLV/5-FUが結腸・直腸癌もしくは結腸癌の治療の鍵となると結論を出されていますが、CPT-11やL-OHPに関するメタアナリシスも進めていらっしゃるのですか。
はい。実は今LV/5-FUをベースとし、新薬として主にL-OHPやCPT-11を追加するレジメについてメタアナリシスを進めています。
今回注目しているのはPFSとOSの関連性です。初期の試験ではPFSについて信頼できる情報がありませんでしたが、今ではPFSの評価を行うことが標準的となっています。進行性疾患に対する試験の場合は、PFSも主要評価項目にすべきだと思います。
PFSを用いれば、これまでよりもずっとスピーディに、明確な結果が得られるかもしれません。Second line以降の治療の影響を排除することができますね。
その通りです。PFSを進行性疾患を対象とした試験の主要評価項目とすべきであると考える理由は2つあります。1つは、PFSが分析する最初のエンドポイントであるためです。またOS期間は、この約10年で1年未満から2年前後へと延長しており、治療の究極の目的であることも確かですが、臨床試験のエンドポイントとして優れているとはいえません。LV/5-FUに加えてsecond line、third line、fourth lineという形で患者を治療していけばOS期間は確かに延長するでしょうが、最初に割り付けた治療群間の無作為化比較はできないためです。
そこでわれわれは、PFSがOSの良好な代替エンドポイントになることを実証するため、これらの関連性を検討しました。今年のASCOで発表を行いました(ASCO 2005 ♯3513)が、論文としても発表する予定です。
分子標的製剤の評価に適した試験デザインとは
先生の研究における次の段階はやはり分子標的製剤でしょうか。またそうだとすれば、分子標的製剤の評価法としてどのようなことを考えていらっしゃいますか。生物統計学者としての観点からお話しください。
おっしゃるとおり、分子標的製剤に関する研究を考えています。しかし分子標的治療は一部の患者にしか効果がないとされているため、これを評価する手法を明確にするのは簡単ではありません。試験前にどのような患者に有効かが明らかであれば、比較的簡単なのですが。たとえば乳癌におけるtrastuzumabのように、HER2/neu遺伝子を過剰発現している場合に効果が高ければ、こうした患者だけに投与すればよいのですから。
反対に、肺癌の治療薬gefitinibはどのような患者に有効か明確でないまま、非小細胞肺癌患者すべてに投与されていました。1,600例以上が無作為化された大規模試験ではOSが改善したものの、その程度はきわめて小さかったのです。そこでサブセット分析を行った結果、EGFR受容体変異を持つ患者にだけ効果があることが分かりました。今では一部の患者でしかgefitinibの有効性が認められないこと、そしてアジア系女性の腺癌患者で効果が高いことが分かっています。
喫煙者でない患者にもより高い効果がみられているようですね。
そうです。こうした例から分かるように、分子標的治療の開発アプローチについては、現在答えがないのです。ただし統計学的なアイデアの1つとしては、層別化割り付けによる試験デザインがあります。
つまり、患者をその特性や臨床データ、あるいは分子標的となる遺伝子の状況から層別化割り付けをするのです。全体および層別の結果を念頭に置いて試験をデザインすることになります。
その場合、これまでの無作為化試験よりもずっと多くの患者が必要となりますね。
しかし、個別の試験をいくつも実施するよりは少ない被験者ですみます。総合的な結果を高い検出力で検討でき、層別の結果を検討して可能性のある交互作用も検討できます。
層別化割り付けは静的なものと動的なものに分けられ、後者の1つに最小化法があります。私の見解では、最小化法は多様な要因を層別化するのにきわめて便利で効率的な方法です。たとえば3、4種の臨床、病理、もしくは分子要因を用いる場合、最小化法を用いれば、どの要因においてもうまくバランスの取れた治療群に分類できます。
静的な方式を採用すると治療群に大きな不均衡が生じることがありますが、最小化法では動的な調整ができるため、そのようなことがありません。とても効率のよい方法ですから、もっと活用されるべきでしょう。
有効性に関わる予測因子の研究が必要
結腸・直腸癌に関し、分子標的治療が奏効する患者を分けて検討できるような新たな臨床試験に、先生は生物統計学者として参加していらっしゃるのですか。
はい。ただ、現時点では層別化に必要な要因、すなわち分子マーカーや分子レベルの予測因子に関する知識がまだ十分に揃っていないのです。このため既知の要因でのみ、層別化割り付けが可能です。層別化アプローチを効果的に活用するまでには、まだまだ分子生物学の研究を進めていく必要があります。
Responder、non-responderにおける分子レベル特性のデータがもっと揃えば、これまで以上に正確な層別化割り付けができますね。
その通りです。乳癌では、ホルモン受容体やHER-2/neu過剰発現など、いくつもの分子レベルの要因が明らかになっていますが、結腸・直腸癌においてはそのような要因がまだ解明されていません。ですから、結腸・直腸癌の検体をより多く評価分析して、有効性の予測因子となる分子マーカーを特定する必要があるでしょう。
そうですね。たとえばBOND試験(N Engl J Med. 2004;351:337)では、腫瘍上にEGFR発現のない患者のなかにもcetuximabによく反応している患者がいましたね。
はい。Trastuzumabとは別のモデルがみられました。この結果は、きわめて重要性を持つことになるでしょう。近い将来、さまざまな要因が特定され、より効率的に治療ターゲットを定めることができるはずです。しかし分子生物学以外にも、予測因子については知識がもっと必要です。例を挙げると、高レベルのthymidylate synthase(TS)はLV/5-FUの効果に影響を与えうることが10年ほど前から報告されています。
TSとdihydropyrimidine dehydrogenase(DPD)ですね。
そうです。しかし、エビデンスにはあまり説得力がありません。ですから、たとえばTSのレベルにより被験者を層別化割り付けした無作為化試験を実施すべきでした。今後はもっと、こうした試験デザインに注目していくべきでしょう。
結腸・直腸癌のキードラッグはLV/5-FU
先生はLV/5-FUをキードラッグとし、次にCPT-11やoxaliplatin、その次に分子標的製剤を検討していらっしゃるわけですが、これが結腸・直腸癌の治療アプローチといってよろしいでしょうか。
そうです。もちろん、second line、third lineと進んでいくのですから新薬の開発は困難になりますし、より進行した患者の治療を行うため選択肢は少なくなっていきます。しかし、まずすでに確立されているものを土台として、その上に分子標的製剤を加えていくのが論理的です。新薬の開発はこのような方法で行うべきでしょう。
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