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治療失敗の原因は癌の進行ではなく薬剤の毒性 |
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進行癌治療の目的は、まずOSを延長すること、そして、quality of life(QOL)を良好に保つことです。短期間にいくつもの薬剤の併用を行う場合の毒性発現については何か調べていますか。 |
それは大変重要なご指摘です。というのも、現在、私たちはOSが2年を越えるような治療法を手にしたわけですが、そこではQOLが重要な課題となるからです。CPT-11、L-OHP、cetuximab、bevacizumabを用いた併用療法を2年も続けることができるでしょうか。癌が進行するまで、あるいは毒性による副作用が出現するまで治療を続ける、というのが5-FUの経験に基づく従来の考え方でしたが、新しい薬剤ではそうもいきません。
たとえば、L-OHPは神経毒性があり、1年間も継続して投与することはできません。L-OHPを用いるFOLFOXやXELOXは非常に強力なregimenですが、毒性による強い副作用も早期に出現するため、癌が進行するまで使い続けるということができないのです。Goldberg先生が実施したN9741試験では、FOLFOX 4群の63%が、癌の進行のためではなく、ほかの理由によって治療を中止しています。 |
Time to treatment failure(TTF)をいかに延長するか、ということですね。 |
そうです。N9741試験ではFOLFOX 4群において、time to progression(TTP)が9.3ヵ月だったのに対し、TTFがわずか5.8ヵ月でした。 |
つまり、ほとんどの治療失敗の原因は癌の進行ではなく毒性にあった、と。 |
そうです。実際にはL-OHPによる神経毒性と5-FUのbolus投与による好中球減少が治療中止の2大原因でした。この試験で検討されたFOLFOX
4 regimenでは1サイクルのなかでday 1、day 2に2日連続して5-FUをbolus投与しますが、これが好中球減少に強く関与していると考えられます。
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5-FUのinfusionはより長く、かつbolus投与はしない |
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それでは、modified FOLFOX 6のように5-FUのinfusionを長くした場合はどうですか。 |
私はそのほうが好ましいと思っています。FOLFOXのようなregimenを採用するときの重点は5-FUのinfusionにあります。つまり、5-FUのinfusionはより長く、かつbolus投与はしないregimenがよいと思っています。実際、私は実地診療においてmodified
FOLFOX 7と呼んでいるregimenを採用しており、これは5-FUのbolus投与はまったく行いません。また、オリジナルのFOLFOX 7では2週間毎のL-OHPの投与量が130mg/m2ですが、私は85mg/m2にこだわっています。 |
130mg/m2でもそんなに多くはないですよね。 |
はい。しかし、2週間毎では多いと思います。FOLFOX 4では85mg/m2です。したがって、L-OHPは85mg/m2またはせいぜい100mg/m2とし(FOLFOX 6の用量)、130mg/m2は使いません。そして、5-FUのbolus投与も行いません。その代わりcapecitabine+L-OHPのregimenを試みています。 |
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QOLか、PFSか |
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Capecitabine の経口投与が5-FUのinfusionに取って代わることを期待していらっしゃるのですか。 |
今回のASCOでは、capecitabine+L-OHPとLV/5-FU+L-OHPを比較した第III相試験の結果が、ドイツとスペインからそれぞれ報告されます(ASCO
2005 #3507および#3524)。FUFOX
regimenと比べてXELOX regimenが有意に劣るわけではなかったということで、この結果を皆さんがどう解釈されるのか興味深いところです。XELOXはFUFOXよりもPFSが短い(30週
vs. 35週、ASCO 2005 #3507)という結果でしたが、統計学的な有意差はありませんでした。 |
毒性はいかがでしたか。 |
FUFOXが5-FUのbolus投与を行わないregimenだったこともあって、毒性は非常に似通った結果でした。したがって、投与の簡便性という点では優れるXELOXが、統計学的な有意差はないもののPFSでFUFOXに劣る、という結果を実地臨床のなかでいかに解釈するかが微妙な問題になってきます。 |
QOLが関わってくるということですね。 |
はい。つまり、患者さんが何を重視するのか、ということです。たとえば、PFSは1ヵ月短い、しかし、OSには差がない、となったら、何を取るか、何を犠牲にするかは患者さんによって異なります。そういうことがいっそう重要になってきます。 |
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Capecitabineは簡便だが、手足症候群に注意 |
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先生が今採用されているmodified FOLFOX 7では、患者さんにportを挿入していらっしゃると思いますが、infusionが終わったあとに抜針するのはどなたですか。 |
訪問看護師や患者さん自身です。患者さんがプライマリケア医のところへ行って抜いてもらうこともあります。 |
それなら主治医にとっても手間はかからないわけですね。 |
しっかりと体制を作って、適切な業務計画に則って行えば、非常に簡単なことですし、欧州ではもう長い間そのようにしてきました。米国はその点、少し遅れています。皆さんが思う以上に患者さんの忍容性は高いのではないでしょうか。確かに簡単に服用できるcapecitabineのような経口薬を好む患者さんはいますが、capecitabineは手足症候群を起こす頻度が高いので注意が必要です。 |
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FOLFOX regimenで問題となるのは神経毒性 |
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では、5-FU infusionの副作用についてはどうでしょうか。手足症候群といえば、5-FU bolus投与よりも5-FU infusionで多いように思いますが。 |
おっしゃる通りですが非常に稀であり、capecitabineほど頻度は高くありません。去年1年間で私がFOLFOX
regimenで治療した患者さんのうち、手足症候群が原因で、治療を変更または延期せざるをえなかったのは2例のみです。5-FU infusionの副作用として多いのは、口内炎、下痢ですが、これもCPT-11ほど重篤ではなく、FOLFOX
regimenで問題となるのは、やはりL-OHPによる神経毒性です。
なお、私たちは現在、modified FOLFOX 7にbevacizumabを併用していますが、L-OHP 85mg/m2、5-FU
2,400mg/m2 46時間持続静注、bevacizumab 5mg/kgというような丸2日間かかる治療のなかで、半減期がわずか数分にすぎない5-FUをさらにbolusで投与する意義ははなはだ疑問であり、副作用を強めるだけで、その必要はないと考えています。 |
FOLFOX regimenで神経毒性が生じたらFOLFIRI regimenに変更するのですか。 |
L-OHPで神経毒性が生じたとしても、それ以前にresponseを得ていれば、L-OHPを中止するだけで、LV/5-FU+bevacizumabは継続します。毒性を理由にFOLFIRI
regimenに変更することはしません。 |
そうすると、それはOPTIMOX試験で検討されたようなregimenになりますね(ASCO 2004 #3525)。 |
はい。私はあの試験のコンセプトである、毒性の強い薬をしばらく休止するという考え方に賛成です。 |
最初にL-OHPで神経毒性が出現しても、またFOLFOXに戻りますか。 |
たとえば、FOLFOX+bevacizumabで4ヵ月間治療し、神経毒性のためにLV/5-FU+bevacizumabに変更してから1年間安定していたとしたら、FOLFOXに戻ります。しかし、多くの場合、LV/5-FU+bevacizumabに変更後、3〜4ヵ月で進行してしまいます。そのときはFOLFIRIに変更します。したがって、それは時間との戦いであり、いつFOLFOXに戻すか、FOLFIRIに変更するか、臨床腫瘍医の経験と判断が問われるといえるでしょう。 |