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カテーテル関連血流感染  監修:室圭先生(愛知県がんセンター中央病院)

 カテーテル関連血流感染(catheter-related bloodstream infection: CRBSI)としては、中心静脈および末梢静脈につながる血管カテーテルを発端とした全身感染を示す。CRBSIは、広義のカテーテル感染である臨床症状を伴わないカテーテルの細菌定着、出口部感染(カテーテルの出口部周囲の皮膚紅斑、硬結、化膿)、ポケット感染(ポート埋め込み部皮下の紅斑や化膿)、皮下トンネル感染(カテーテルを覆う皮下の硬結など)の一つの症状であると言える。カテーテルトラブルの中では、CRBSIが発生頻度や合併症の影響も大きい。CRBSIの頻度には、カテーテルの種類(中心、末梢、皮下埋め込み型)、挿入位置、消毒管理などにより大きく異なる。カテーテルの種類を図1に示す。カテーテルは、留置期間、投与薬剤などの使用目的の違いにより使い分けられ、適正な管理方法も異なる。

図1:カテーテルの種類
表2

株式会社メディコン 化学療法サポート(http://chemo-support.jp/)より引用

 癌化学療法において使用される中心静脈カテーテルの中では、皮下埋め込み型中心静脈アクセスポート(CVポート)と末梢挿入中心静脈カテーテル(peripherally inserted central catheter: PICC)の使用頻度が増えている。これらは、直径数センチのタンク(ポート部分)とカテーテル部分から構成される。ポート部分は、胸部や上腕に埋め込まれ、CVポートおよびPICCのカテーテルは、それぞれ鎖骨下静脈や内頸静脈、上腕の静脈に接続される。CVポートを用いた癌化学療法は、携帯バルーン型インフューザーポンプを使用した大腸癌化学療法(FOLFOXやFOLFIRI療法)などの通院治療では必須である。また、治療の長期化や血管脆弱性のある高齢者に対しても抗癌剤による静脈炎や血管外漏出の心配がない、自然抜去の可能性が低い、入浴など非使用時の生活制限が少ないなどの利点を有することが理由にある。しかし、CVポートやPICCは、CRBSIのリスクが低いと考えられているものの、CRBSIは、デバイス抜去の最大の理由となっている点で適切な感染管理が必要である。

臨床症状

 カテーテルの感染症状には、局所感染と全身的な血流感染であるCRBSIがある。前者は、ポケット感染、トンネル感染と呼ばれ、留置部位の発赤や硬結、熱感、圧痛などを特徴とする。全身感染の合併を否定できる場合、皮膚感染症として対処する。一方、CRBSIの症状は、38℃以上の発熱や悪寒、戦慄などの感染症としての症状を呈する。CRBSIの対処が遅れると、全身感染症から多臓器不全となり、かつ慢性化すると心内膜炎となりやすい。

発現機序

 CVポート留置後のCRBSIの発生にかかわる経路は、4つが考えられる1)

  • ① 輸液ルート接合部からの細菌汚染
  • ② IVH製剤など糖やタンパク、脂質を含む薬剤の薬液自体の細菌汚染
  • ③ 皮膚挿入部位の皮膚常在菌や医療従事者の手指などから伝播した細菌が針刺入時に血管内に侵入
  • ④ 他の感染病巣から血流に乗って微生物が運ばれ、留置されているカテーテルの表面に定着し、バイオフィルムを形成


 それぞれの原因として、以下が考えられる。

  • ① 不適切なルート管理(交換頻度、接続手順)
  • ② 不適切な輸液管理(調製環境および手順、交換時期)
  • ③ 不適切な挿入手技と挿入部位管理(挿入部消毒、挿入環境、ガウンテクニック、ドレッシング、固定方法)


  従って、後述する穿刺時の患者皮膚および医療者の手指消毒、無菌調製などが重要である。

発生頻度

 CRBSIの発生頻度は、穿刺回数や留置期間の影響を受ける2)。従って、短期間の使用が原則の末梢静脈カテーテルにおけるCRBSIの頻度は、100カテーテルあたり0.2件とされ、長期間留置する中心静脈カテーテルの5.1件と比べ低い頻度である3)。中心静脈カテーテルの種類別には、中心静脈カテーテルとPICCの比較があり、CRBSIの頻度は、それぞれ1,000カテーテル日毎7.0件および5.6件と報告されている4)。また、PICCに関するメタアナリシスでは、中心静脈カテーテルに比べ、CRBSIの頻度が低い可能性が報告されている[relative risk(RR)=0.62;95%信頼区間(95% CI)=0.40-0.94]5)。CVポートでのCRBSIの頻度は、Hickmanカテーテル(皮下に埋め込んで線維性に癒着させ、カテーテルの自己抜去を予防するためのダクロンカフがある中心静脈カテーテル)と比べ、1,000カテーテル日毎のCRBSIの頻度は、Hickmanカテーテルで有意に多い(5.09件vs. 1.04件、RR=4.9;95% CI=1.9-15.1)6)。なお、皮下トンネルを作製するHickmanカテーテルは、自己抜去防止には利点があるが、カテーテル感染の頻度においては、既存のカテーテルと同等であるとされる[100カテーテル使用日毎の感染エピソード;0.22件(皮下トンネル群)vs. 0.20件(既存のカテーテル群)]7)

発生に影響する因子

 中心静脈カテーテルでは、挿入部位が上肢(鎖骨下静脈と内頸静脈)と下肢(大腿静脈)から挿入する場合の2種がある。大腿静脈への挿入は、皮膚刺入部が陰部に近く、部位の皮膚清潔性を保つことが困難となるため、CRBSIの頻度が高い。大腿部挿入と鎖骨下挿入に関する無作為化比較研究では、大腿部への挿入で全身感染の頻度が有意に高かった(19.8% vs. 4.5%;p<0.001)8)
 CRBSIは、使用するカテーテルの形状、ルーメン数やニードルレスシステムの形状の影響も受ける。マルチルーメンカテーテル(内部に2〜3の管腔をもつカテーテルであり、混和不能の2つ以上の薬物を注入したい場合などに用いられる)は、シングルルーメンに比べCRBSIの危険が高まることが報告されている(シングルvs. トリプルルーメン;0.4 vs. 6.9%9)、8% vs. 32%10)、2.6% vs. 13.1%11))。シングルルーメンでもサイドポートから薬剤を投与し、適切にフラッシングすれば使用可能なことが多く、感染リスクを考えると、不必要なマルチルーメンカテーテルの使用は避けるべきである。
 カテーテル側注入口であるニードルレスシステムは、スプリットセプタム(SS)式とメカニカルバルブ(MV)式とがある(図2)。集中治療室(ICU)において、SSからMVに輸液セットを切り替えた場合、1,000日使用毎のCRBSIの頻度が増え(6.15件→9.49件;p<0.001)、逆にMVからSSに切り替えた場合、CRBSIの頻度が減少したことが報告されている(9.49件→5.77件;p<0.001)12)

図2:スプリットセプタム(SS)式(左)とメカニカルバルブ(MV)式(右)
表3

Hadaway L, et al.: J Infus Nurs. 33(1): 22-31, 2010のFigure 4a & 4b、Figure 5b、Figure 6bを引用
Courtesy and © Becton, Dickinson and Company
Reprinted with permission

診断

 CRBSIを疑う症状は、留置期間中に38℃以上の発熱や悪寒戦慄、刺入部局所の皮膚症状、低血圧、白血球増多、CRP高値などがあり、確定には、カテーテル以外には感染源がないことと採血した血液等の培養結果から判断される。細菌培養は2部位からそれぞれ2セットのサンプルを得る。つまり、1セットは、カテーテル以外からの末梢穿刺採血から、もう1セットはカテーテルからの逆流採血あるいは抜去したカテーテル先端をサンプルに細菌培養を行う。採血は抗菌剤の投与前に行うことと、コンタミネーションを防ぐため、皮膚からの採血では、0.5%以上のクロルヘキシジンを含むアルコールかポビドンヨードを用いた消毒を行った上で行うことも重要である。CRBSIは、カテーテルからの採血とカテーテル先端の培養が末梢採血から得た微生物と同じ陽性検出があることが確定的である。この場合、カテーテルを抜去することが必要となる。カテーテル抜去は、結果的にCRBSIが確定された場合は、正しい選択となるが、発熱がCRBSI以外の原因である場合、カテーテルの再挿入に際して合併症のリスクを負うことにもなる。
 カテーテルを抜去せずにCRBSIを判断する方法として、以下の定量的血液培養を行う。

  • カテーテル経由採血(カテーテルから逆流させた採血)で検出された微生物の数が、同時に行った末梢採血からの微生物の3〜5倍以上の差がある(カテーテル採血での菌数が多い)
  • カテーテル経由採血での細菌陽性になるまでの時間が、末梢採血による培養陽性までの時間より2時間以上早い

 定量的血液培養にて、CRBSIが確定され、他に感染源が考えられない場合(胸部X線による肺炎、尿路感染、膿瘍などで同じ細菌が検出されない)の基本的対処は、カテーテル抜去である。しかし、定量的培養にて原因菌が特定され、リスクの少ない低毒性菌(コアグラーゼ陰性ブドウ球菌;CNS)などの場合、抜去せず抗菌療法を継続する場合もあるが、48時間以内に効果を認めない場合、速やかに抜去する。治療フローは日本静脈経腸栄養学会の静脈経腸栄養ガイドラインを参照されたい13)

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