消化器癌治療の広場

特別座談会:大腸癌におけるRAS変異と検査−個別化医療の時代へ−
2014年11月26日 東京ステーションホテルにて

日本における承認とガイドライン

室先生 室:PRIME試験等のRAS 解析の結果を受けて、欧州では2013年にPanitumumabとCetuximabをKRAS 野生型からRAS 野生型へとラベル変更し、NCCNガイドラインにおける抗EGFR抗体薬の記載には、KRAS だけでなくNRAS も併記されるようになりました。また、2014年にはESMOガイドラインも改定され、抗EGFR抗体薬の投与はRAS 野生型に限られるよう明記されています10)。したがって、欧米の第一線の腫瘍内科医は「全RAS 検査は当たり前」と言われるのですが、先ほどの話を聞くと、臨床現場への普及はまだ追いついていないのかもしれません。
 2014年1月に発行された日本の「大腸癌治療ガイドライン2014年版」では、まだRASに関する記載はなく、抗EGFR抗体薬の投与はKRAS 野生型としか記載されていません。しかし、2014年4月に日本臨床腫瘍学会から「大腸がん患者におけるRAS 遺伝子 (KRAS /NRAS 遺伝子) 変異の測定に関するガイダンス」が発行され、ホームページからダウンロードできるようになっています11)。2015年にはRAS 検査が保険償還される予定になっており、RAS 検査に対してどのように対応していくのか、本格的に考えていく必要があると思います。

吉野:先ほども話題に出しましたが、RAS 検査では測定する遺伝子が増える分、データをいかに解釈するかが重要になってきます。米国でもASCOとCAP (College of American Pathologists) がKRAS / NRAS 検査の新ガイドラインを2015年に発表すると聞いていますが、こうしたガイドラインも日米欧の協調が必要だと思います。ただ、欧米の臨床医は検査の質やコントロールの話題には興味を示さないように感じます。

砂川:そう思います。試験の質というよりも、試験の結果とデータの量により興味があると思います。

室:基礎研究と臨床とが別々に動いているように感じますね。

吉野:やはり日本と欧米では温度差があるようです。それだけ、日本の臨床家が基礎研究の領域に深く関わっていると言えるかもしれません。

山中:臨床試験がグローバル化してきている以上、日本から発信して協調に目を向けさせることも必要でしょう。今後日本で抗EGFR抗体薬の臨床試験が行われる場合はRASKETが使用されると思いますが、国際共同試験でRAS 測定を求められた場合に、RASKETの検査結果は認められるのでしょうか。

吉野:現段階では、各国のauthorityが認めた検査法は第III相臨床試験に組み込める流れになっていますが、将来は分かりません。まだ一定の見解がないのが実際だと思います。 今後の展開ですが、CALGB80405試験では血液が9割の症例から集められており、その血液を使ってBEAMing法によりRAS 検査を行う計画があるそうです。血液・体液を用いるliquid biopsyによるRAS 検査が実現する可能性はあるのでしょうか。

植竹:かつて検体からRNAを採取するのは非常に困難でしたが、RNAlater®の登場により簡便になりました。テクノロジーは10年で一変するので、可能性はあると思います。化学療法を施行している患者は頻繁に血液を採取するため、一般的な血液検査のようにRAS 検査ができるようになればと思います。

吉野:そうですね。病理医の負担も軽減されますので、RAS 検査をliquid biopsyで行うことが、次の目標かもしれません。
 本日は充実した議論ができました。皆さん、ありがとうございました。

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