スタッフのモチベーションを高めるために

瀧内:癌患者さんや家族の要求には厳しいものがあり、それらに真摯に対応していく中で燃え尽きてしまうスタッフが出てくるという問題があります。そこで、スタッフのモチベーションを維持するために、何か工夫されていますか。

三浦:癌診療も含めた急性期病院として、理想もあれば到達目標もあるわけですが、それを担う人間を育てることが一番の問題です。いろいろな病院を見てきた中で、まず医師が威張っている病院は何をしてもだめだと感じていたので、組織をフラットにすることから始めました。何が問題で、どこを改善すればよいかを知っているのは現場の人間です。しかし、階層構造の中では彼らの意見が通らないのです。そこで、勉強会を行ったり、組織横断的なチーム医療に力を入れました。現場のスタッフでプロジェクトチームをつくり、いろいろな調査をし、SWOT分析などを使いながら具体的な改善案を提案してもらいます。そこで出された改善案には、上使は責任をもって実行する、という試み(Work-OutTM)を始めて3年目になりますが、だんだん成果が出てきています。そういう中で、スタッフのモチベーションが上がってきたと思います。もう1つの試みは、バランスト・スコアカード(BSC、(1)職員、(2)業務、(3)患者、(4)財務の4つの視点を意識し関連づけて改善を図る手法)の導入です。以前は、患者さんから医事課にかなりの苦情が入っていました。そこで、有能な医事課の職員が「苦情を減らしていかなければ患者さんが来なくなる、患者さんが来なくなったら困るのはあなたたちです」と言ってBSCを作成したわけです。保険の返戻率も大幅に改善しました。その職員は、もっと勉強したいということで大学院に行くことになっています。ルーチンの仕事をしているだけではどうしてもモチベーションが下がるので、「働きがいのある職場をつくろう」ということをキャッチフレーズにいろいろな試みをしているところです。

瀧内:四国がんセンターはどうですか。スタッフに“燃え尽き症候群”などはみられませんか。

谷水:最近は、我々現場の人間の声が通るようになってきたので、燃え尽きる前にモチベーションが上がったというのが正直な感想です。病院は上意下達で成り立っている組織ですが、現場の中の声にこそ解決策もあるということが、少しずつ認知されるようになりました。認定看護師・専門看護師あるいは専門薬剤師になろうという人間もどんどん出てきました。
 ただ最近、緩和ケア病棟の看護師は勤務状況があまりにも過酷で悲鳴を上げ始めていました。実際、緩和ケア病棟は癌診療の最前線であり、戦場さながらです。当院の場合は一般救急を受けていないこともあり緊急入院は多くが緩和ケア病棟で受ける患者であり、昼夜を問わず死と直面している部署でもあります。
 でも私は、緩和ケアは地域医療の問題であり、緩和ケア病棟は戦場の最前線、最後の砦であるべきであると思います。地域の緩和ケアを担うためには最後の砦として苦労を背負う場所が必要だと思うのです。ナイチンゲールは戦場で活躍した人です。戦場の中にこそ緩和ケアの精神はある。戦場のような現場でも失わない心を持って、戦ってほしいと願っています。

瀧内:そのようにスタッフを説得されたわけですか。

谷水:緩和ケア病棟ですから、重なるときは一日に5名亡くなったことがあります。25床に対して看護師配置が17名ですのでマンパワーの不足は決定的でした。彼女たちの頑張りには頭が下がります。その甲斐あって、今年(2007年)4月には看護師4名の増員を得ました。病棟が燃え尽きる前に何とかできて内心ホッとしていますが、燃え尽きないよう仕事内容を割り切って考えることも大切です。

瀧内:最後に、チーム医療にとって大切なことを簡単にお願いします。

三浦:1つは、専門職としての知識とスキルをもっていること、もう1つはその患者さんのアウトカムを明確に設定し、チームで情報を共有しながら目標に向けて協力し合うことです。ただ漠然と専門職が関わっても、いろいろな問題が起こる可能性がありますから。

瀧内:最初にゴールを設定するという点では、緩和ケアも、在宅医療も同じですね。

谷水:チームで何ができるかということの向こう側には、地域でどういう医療を目指すのかという大きな目標が必要です。その中で自分たちがどの位置にあり、何ができるのかを常に考えながら行動することが大切です。すぐには無理でも、目標さえ失わなければいつかは実現できると思います。

瀧内:本日お二人から伺ったお話は、癌のチーム医療を考える場合にすべて重要なポイントばかりでした。目の前の患者さんから生じるさまざまな問題に対し、患者さんの立場に立って解決していくことが、チーム医療の第一歩だということを実感いたしました。先生方からお聞きした言葉を胸に刻んで、よりよいチーム医療を展開していきたいと思います。どうもありがとうございました。

▲ このページのトップへ
MEDICAL SCIENCE PUBLICATIONS, Inc
Copyright © MEDICAL SCIENCE PUBLICATIONS, Inc. All Rights Reserved