論文紹介 | 監修:京都大学大学院 医学研究科 坂本純一(疫学研究情報管理学・教授)

9月

根治不能の進行結腸・直腸癌患者に対する段階的化学療法あるいは併用化学療法という異なる治療戦略:無作為化比較対照試験MRC FOCUS

Seymour MT, et al., Lancet 2007; 370(9582): 143-152

 根治不能癌において、抗癌剤を単剤あるいは併用で投与するかの順序は、有害事象の発現を最小限にとどめて最も長期間にわたり疾患をコントロールするために、患者にとって重要な問題である。本試験では化学療法歴のない転移性結腸・直腸癌患者における化学療法の治療戦略を比較した。
 2000年5月〜2003年12月に、英国の59施設およびキプロスの1施設より、組織学的に確認された切除不能転移性/局所結腸・直腸癌患者(18歳以上、RECIST基準による測定可能病巣を有する、WHOのPS 0〜2、転移巣に対する化学療法歴なし、造血・肝・腎機能正常)2,135例を以下の3群に1:1:1比で無作為に割り付けた。
 A群(対照群):5-FU単剤投与脱落後、second lineにてCPT-11投与。B群: 5-FU単剤投与脱落後、second lineにて5-FU+CPT-11併用投与(B-ir)あるいは5-FU+L-OHP併用投与(B-ox)、C群:first lineから5-FU+CPT-11併用投与(C-ir)あるいは5-FU+L-OHP併用投与(C-ox)。なお、B-irおよびB-ox、C-irおよびC-oxへの割り付けはそれぞれ1:1比で無作為化した。
 投与スケジュールは以下の通りである。5-FU;l-LV 175mg/m2 を2時間かけて静注後、5-FU 400mg/m2 をbolus静注、その後5-FU 2,800mg/m2 を46時間かけて持続静注(1サイクル14日間)。CPT-11;CPT-11 350mg/m2 を30〜90分かけて静注(70歳超かPSが2である患者には300mg/m2 投与、1サイクル21日間)。CPT-11/5-FU;CPT-11 180mg/m2 を30分かけて静注後、l-LV 175mg/m2 を2時間かけて静注、5-FU 400mg/m2 をbolus静注、その後5-FU 2,400mg/m2 を46時間かけて持続静注(1サイクル14日間)。L-OHP+5-FU;l-LV 175mg/m2 +L-OHP 85mg/m2 を2時間かけて同時静注後、5-FU 400mg/m2 をbolus静注、その後5-FU 2,400mg/m2 を46時間かけて持続静注(1サイクル14日間)。主要評価項目はOSであり、intension-to-treat解析を実施した。
 A群の生存期間中央値は13.9ヵ月であり、他群と比較して短い傾向にあったが(B-ir 15.0ヵ月、B-ox 15.2ヵ月、C-ir 16.7ヵ月、C-ox 15.4ヵ月)。生存期間をlog-rank検定で比較した場合、C-ir群のみがA群に対して有意に長いことが示された(p=0.01)。また、B群とC群の非劣性解析において、C群に対するB群のHRが1.06(90%CI 0.97〜1.17)という、設定非劣性境界値であるHR 1.18以下に値する結果となった。
 結論として、根治不能癌においては、忍容性の最も良好な治療法をfirst lineに選択すべきであると考えられる。最初に単剤投与、次に併用投与と進めるアプローチは、first lineで併用投与を採るアプローチと同等の結果が得られ、患者と治療法について検討する際の選択肢となる。

考察

進行再発大腸癌に対する治療戦略
−monotherapy vs monotherapy/combination vs combination−

 新規抗癌剤、分子標的治療薬の進歩に伴い、進行再発大腸癌に対する化学療法は奏効率の向上のみならず、生存期間も著明に延長し、長足の進歩がみられる。これまでの臨床試験の解析から、現在使用できる3種類の抗癌剤を治療期間中に全て使い切ることが延命期間に寄与することが明らかにされている。
 しかし、最初からcombinationにするのか、monotherapyでsequentialに投与するほうがよいのか、first lineがfailureした時点で上乗せしてcombinationにするのか、いずれの方法が有害事象が少なく、かつ延命に寄与するかは明らかにされていない。
 本臨床試験は、進行再発大腸癌に対し、LV/5-FU、 CPT-11、 L-OHTの3剤について、上記の投与方法を比較した画期的な試験である。その結果、first lineより併用療法を行うことが臨床的効果は最も期待できるが、5-FU単剤投与後に併用療法に移行する治療戦略も有害事象を軽減しつつ同等の治療成績が得られる方法として期待できることが明らかになった。
 臨床の現場では個々の患者の全身状態や臓器機能の程度に応じた木目細やかな治療方針を立てる必要があり、本試験の結果は極めて有用な情報を提供してくれている。

監訳・コメント:熊本大学大学院 馬場 秀夫(消化器外科学・教授)

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