論文紹介 | 監修:京都大学大学院 医学研究科 坂本純一(疫学研究情報管理学・教授)

9月

切除可能な胃・食道癌に対する手術単独療法と術前・術後化学療法の比較試験: MAGIC trial、 ISRCTN93793971

Cunningham D, et al., N Engl J Med. 2006; 355(1) : 11-20

 治癒切除不能な局所進行あるいは転移性胃腺癌患者において、epirubicin+CDDP+5-FU静注(ECF)療法は生存率を上昇させる。本試験では、治癒手術が可能と判断される胃・食道癌患者に対する術前・術後ECF療法が患者の予後を改善するかどうかを評価した。
 1994年7月〜2002年4月に、胃、食道・胃接合部あるいは下部食道に治癒切除可能な腺癌を有する503例(WHOのPS 0〜1、ステージII以上、遠隔転移なし、切除不能な局所病変なし)を手術・術前・術後化学療法併用群(併用群:250例)と手術単独群(単独群:253例)に無作為に割り付けた。化学療法はday 1にepirubicin 50mg/m2をbolus投与、およびCDDP 60mg/m2を静注し、5-FU 200mg/m2/日を毎日21日間持続静注するのを1サイクルとし、術前・術後おのおの3サイクルずつ施行した。手術は、併用群では術前化学療法から3〜6週間後に施行し、術後6〜12週間後に術後化学療法を施行した。単独群では割り付け後6週間以内に手術を施行した。Primary endpointはOS、secondary endpointはPFS、ダウンステージング率であった。
 ECF投与に関連する有害事象の発現は、進行胃癌患者に関して以前に報告されたものと同程度であった。術後の合併症発現率は併用群と単独群で同等であり(46% vs 45%)、術後30日以内の早期死亡率も両群で同程度であった(5.6% vs 5.9%)。摘出された腫瘍は併用群で単独群に比較して有意に小さく(最大径の中央値;3cm vs 5cm、p<0.001)、かつ進行が抑制されていた(T1〜T2の割合;51.7% vs 36.8%、p=0.002)。追跡期間の中央値である4年間に、併用群で149例、単独群で170例が死亡した。OSは併用群が単独群と比較して有意に高かった(HR 0.75、95%CI 0.60〜0.93、p=0.009、5年OS 36% vs 23%)。PFSも併用群で有意に高かった(HR 0.66、95%CI 0.53〜0.81、p<0.001)。
 治癒切除可能な胃、食道・胃接合部あるいは下部食道腺癌患者において、術前・術後ECF療法は腫瘍サイズの縮小およびdown stagingをもたらし、OSとPFSを有意に改善させる結果となった。

考察

術前補助化学療法は胃癌治療の選択肢となりうる

 進行胃癌、食道・胃接合部癌、下部食道癌に対する術前、術後補助化学療法(MAGIC trial)が原発巣の縮小のみならず全生存期間を有意に延長することが、手術単独療法を対照としたRCTで示された。
 MacDonaldらの術後補助化学放射線療法の報告に続き、手術単独に対する補助化学療法の有効性を明らかにした大規模RCTということになる。
 術前化学療法の完遂率は86%と高く、術前補助化学療法によるdown stagingにより全生存期間の有意な改善を得たと考えられるが、術後化学療法の完遂率は42%と低く、術後化学療法の有効性は明らかではない。胃癌治療において、最重要項目である外科手術では、手術関連死亡は両群とも約6%と高い。
 MacDonaldらの臨床試験に比しD2手術の割合が40%と多いが、わが国のレベルではない。わが国に比し局所コントロールが不十分な症例に対する臨床試験の結果であるため、わが国での追試が必要であると考える。

監訳・コメント: 国立がんセンター中央病院 片井 均(胃外科・医長)

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