論文紹介 | 監修:財団法人癌研究会附属病院 藤田力也(消化器内科・部長/内視鏡部・部長)山口俊晴(消化器外科・部長)

10月

術前放射線照射施行または非施行でTMEを施行された
局所再発直腸癌の臨床像と予後

Mandy van den Brink et al., J Clin Oncol 22(19) , 2004 : 3958-3964

 直腸癌において、術前放射線照射(preoperative radiotherapy : PRT)は切除術後の局所再発を減少させるが、局所再発した症例では、臨床像や予後が影響を受ける可能性もある。van den Brinkらは、直腸間膜全切除(total mesorectal excision : TME)に5Gy×5回のPRTを併用した群と併用しなかった群について、局所再発症例の臨床像や予後を記録し、その予後に関連する患者因子、疾患因子、治療関連因子を検討した。
 対象は、PRTに関する多施設無作為比較試験に参加したオランダ人の直腸癌患者の内、局所再発を来した96名で、外科医および放射線治療医、腫瘍内科医から局所再発の治療と経過に関する情報を収集した。23名(24%)はPRT施行例、73名(76%)はPRT非施行例であった。81名(84%)は死亡まで追跡され、局所再発後の観察期間中央値は21ヵ月(5〜48)であった。
 その結果、PRT施行群では、非施行群に比べて局所再発後の生存期間が有意に短く(中央値6.1ヵ月 vs 15.9ヵ月、ハザード比2.1、P =0.008)、遠隔転移を同時に伴う頻度が高かった(74% vs 40%、P =0.004)。また、局所再発病巣を外科的に切除された頻度が低く(17% vs 35%、P =0.11)、局所再発病巣に対して45Gy以上の放射線照射を受ける頻度も低かった(4% vs 42%、P =0.001)。しかし、多変量解析では、局所再発後の生存期間に関して、PRT施行の有無による局所再発後の生存期間の差は有意ではなかった。直腸癌局所再発症例の臨床像や予後はPRTの導入によって変化しており、PRT後に局所再発を生じた患者の大多数は、同時に遠隔転移を伴い、生存期間の中央値は6ヵ月と短かった。

考察

PRTの施行には、局所再発後の治療まで視野に入れた検討が必要

 直腸癌に対する術前放射線照射(PRT)は局所再発を減少させるが、PRTを施行しても局所再発を来たす症例もある。本論文は、PRT後の局所再発の問題点を明らかにしたものである。局所再発の治療の第一選択は再発病巣の治癒切除であるが、PRT後の局所再発の切除は技術的に難しい。治癒切除が不可能な局所再発に対しては放射線照射の適応があるが、PRTの施行例には適応できない。また、PRT後の局所再発は遠隔転移を伴うために局所再発病巣の外科的切除の適応にならない例も多い。この局所再発後の治療の困難性が、ただちにPRTに対して消極的になる根拠とはならないが、PRTの短期成績ばかりでなく、本研究のように再発後の治療まで視野に入れた検討は今後も必要であろう。

(消化器外科・大矢雅敏)

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