論文紹介 | 監修:財団法人癌研究会附属病院 藤田力也(消化器内科・部長/内視鏡部・部長)山口俊晴(消化器外科・部長)

9月

在宅ケア・ホスピスサービスにおける高用量モルヒネ使用のあり方に関する検討

Michaela Bercovitch, M.D. et al., Cancer 101(6) 2004 : 1473-1477

 癌性疼痛治療は緩和ケアの最も重要な課題の一つであるが、さまざまな問題が残されている。本研究では、在宅における高用量のモルヒネ使用に関して、特に癌腫や転移部位との関連、安全性と副作用、そして生存期間に与える影響を中心に検討した。661人の外来患者のカルテをretrospectiveに解析したところ、435人(65.8%)がモルヒネの投与を受けており、内訳は、396人(91%)が5-299 mg/日(低〜中等用量群)、32人(7.4%)が300-599 mg/日(高用量群)、7人(1.6%)が600 mg/日以上(超高用量群)であった。モルヒネ総投与量と年齢の間には逆相関が認められた(r=−0.254 ; p<0.001)。他の癌腫や転移部位と比較して、原発進行消化器癌患者(p=0.015)と肺癌患者(p=0.027)、およびさまざまな癌腫で骨(p=0.001)、卵巣(p=0.037)、脳(p=0.0053)へ転移した患者で高用量、もしくは超高用量のモルヒネ投与例が多かった。副作用は、高用量群、超高用量群とその他の群間では差はなかった。生存期間中央値は、高用量投与群では27日、超高用量投与群では37日、一方、中等用量投与群では18日、低用量群では22日で、前者の2群と後者の2群間には有意差を認めた(p=0.0001)。今回の研究の結果では、在宅においても高用量もしくは超高用量のモルヒネ投与は安全であり、さらに投与量が高い患者の生存期間が有意に長いという結果が得られた。一般的に、医師、患者、家族は未だモルヒネに対する悪いイメージを持ち、特に在宅における投与量の増加を躊躇する傾向があるが、今回の解析はその誤解を払拭する結果となった。この分野のさらなる研究が求められている。

考察

日本でも強く求められるモルヒネに対する誤解の払拭と
在宅ホスピス・緩和ケアの普及

 近年、いくつかの臨床研究でモルヒネなどのオピオイド鎮痛薬を適正かつ積極的に投与することが進行した担癌患者のQOLの向上だけではなく、延命にも寄与することが報告されている。本研究においても在宅における高用量、または超高用量の経口モルヒネ投与は安全であり、低〜中等用量の投与群より生存期間を延長させるとの結果であった。本邦の厚生労働省の調査結果では癌専門病院群においても終末期の除痛率はこの数年、65%前後でプラトーとなっており、オピオイド鎮痛薬の適正使用の推進や患者のモルヒネに対する誤解を払拭することが当面の大きな課題となっている。また、在宅ホスピス・緩和ケアの普及に関しても我が国は欧米に比べて整備が後れており、さらなる展開が求められている。

(内科・向山雄人)

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