論文紹介 | 監修:財団法人癌研究会附属病院 藤田力也(消化器内科・部長/内視鏡部・部長)山口俊晴(消化器外科・部長)

9月

進行結腸直腸癌に対する経口leucovorin+UFT療法、日米共同研究における
日米患者の有効性、有害事象、薬物動態の比較

K Shirao et al., J Clin Oncol 22(17), 2004 : 3466-3474

 前治療のない転移性結腸直腸癌を対象に日米でLV/5-FU療法の経口型leucovorin(LV) + uracil/tegafur(UFT)療法の有効性、有害事象、薬物動態を比較した。日本で44例、米国で45例が非ランダム化第II相試験に登録された。投与法はLV 75 mg/日とUFT 300 mg/m2/日を1日3回、等分に分割経口投与を28日間投与、その後7日休薬した。薬物動態測定用の血液は第1コースの第1日目に採取された。
 奏効率は日本36.4%(PR 14例、CR 2例、95%CI : 22.4-52.2%)であった。奏効した部位は肺35%、肝30%、リンパ節18%であった。無増悪期間(time to progression:TTP)中央値は127日であった。米国では奏効率は34.1%(PR 15例、CR 0例、95%CI : 20.5-49.9%)であった。奏効した部位は肺71%、肝24%、リンパ節24%であった。TTP中央値は142日であった。両国を通じて重篤な下痢がみられた。下痢は日本では全体で38.6%、このうちGrade 3/4の重症例は9.1%であった。米国では下痢は全症例で68.9%と高頻度で、Grade 3/4の下痢も22.2%と日本の倍以上であった。薬物動態はtegafur、uracil、5-FU、LVとその活性体5-methyltetrahydrofolateが検討された。5-FUのAUC、最大血中濃度は日本人でわずかに高かった。しかし体表面積で調整したところ、ほとんど同じであった。
 結果、LV/UFTの有効性、有害事象、薬物代謝は日米で同様であった。しかし下痢だけは米国人に強く認められた。経口治療法のLV/UFTは転移性結腸直腸癌に対して日米で有用性の高い治療と考えられた。

考察

LV/UFT療法は日米ともに有効性が認められたが、下痢は米国で高頻度

 抗癌剤の有効性、有害事象の人種差は近年論じられている話題である。肺癌に対する分子標的治療剤gefinitibは日米で有効性、有害事象に差を認め、CPT-11は国内に比べ欧州でははるかに高い投与量が許容され施行されている。逆に日本で認可されているフッ化ピリミジン系抗癌剤S-1は米国では下痢が強く出現し、一時開発が中断された。本研究は同一regimenを両国で投与し、米国で下痢を強く認めた。これはフッ化ピリミジン系抗癌剤でしばしば認められる傾向である。Grade 3/4の下痢は第2コース終了前に出現する傾向があった。tegafurの代謝物5-FUのAUC、最高血中濃度では差を認めていない。下痢は白人に多く、黒人にはほとんど認めないとの報告もある。しかし単に人種差だけの議論でなく、食習慣、遺伝子検索等のもう一歩踏み込んだ検討が必要であろう。いずれにしてもLV/UFTは簡便であり、LV/5-FUと同等の効果を示し安全性にも問題はないことが確かめられている。今後LV/5-FUから置き換わっていく可能性も高いと思われる。

(化学療法科・水沼信之)

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