論文紹介 | 監修:財団法人癌研究会附属病院 藤田力也(消化器内科・部長/内視鏡部・部長)山口俊晴(消化器外科・部長)

8月

フッ化ピリミジン系抗癌剤耐性の進行結腸直腸癌に対するirinotecanの継続治療と期間限定治療の多施設共同無作為比較試験

Rohit Lal, et al., J Clin Oncol 22 (15), 2004 : 3023-3031

 フッ化ピリミジン系抗癌剤に耐性となった進行結腸直腸癌ではirinotecanを病変が進行(PD)するまで投与する事が標準的な治療法とされている。irinotecanに限らず、一般に抗癌剤はPDになるまで継続するのが今までの投与法であった。しかし実際は、抗癌剤の投与回数が増えるほど副作用も蓄積する。irinotecanの投与期間を限定した場合に、継続投与と同様に癌の病態をコントロールできるかどうかはわかっていない。本研究はirinotecanの継続投与、限定投与を多施設第III相試験で比較した。
 フッ化ピリミジン系抗癌剤を含む治療に耐性、また24週の投与を完遂した進行結腸直腸癌症例333例をこの前向き研究に登録した。irinotecan 350 mg/m2 3週毎を8コース投与後、奏効あるいはSDの55例を、そのまま治療を打ち切る群(n=30)、PDとなるまで治療を継続する群(n=25)に振り分けた。8コース以内にPDとなった症例(n=236)、 副作用で継続不能な症例(n=38)は本研究に登録しなかった。
 両群で、治療成功期間(failure free survival、 p=0.999)、全生存期間(p=0.11)に差を認めなかった。割り付け後12週での評価では両群の全身健康状態、QOLスコアに差は認めなかった。irinotecan継続群では治療継続後もgrade 3の下痢や発熱を伴う好中球減少は認められなかった。
 通常、24週以上のirinotecanの継続は、病変の進行か有害事象の程度で決定される。治療継続が妥当と考えられた17%の症例でも、継続による利益は少ないと考えられる。しかしirinotecan投与を継続してもQOLの悪化した症例は少なく、充分に治療続行は可能であった。

考察

irinotecanの投与期間は8コース(24週)で良い。

 最近投与期間に対する研究が目立つが、そのうちの1つである。irinotecan 8コース投与後も治療を継続した群の奏効率は、8コースで打ち切った群と違いを認めなかった。また、治療継続によるQOLの低下、重篤な副作用の出現も認めなかった。早い時期に研究は終了したが、統計的に有意差を認めるには666例が必要と考えられる。近年の乳癌、肺癌化学療法の研究では、治療を継続しても生存期間、QOL、臨床症状の改善は認めなかったと報告されている。本研究は、second lineの化学療法の治療期間を、初めて検討した研究である。結腸直腸癌の化学療法では近年、de GramontらがOPTIMOXでoxaliplatinの間欠投与法を検討し、12週で打ち切る方法を考案し、蓄積性の神経毒性を軽減することに成功した。同様に、irinotecan耐性例に対して分子標的薬剤を加える研究が試みられている(BOND trail)が、この研究でもirinotecanの投与回数が決められている。今後もこうした抗癌剤の治療継続期間の検討は積極的に進めるべき課題と思われる。

(化学療法科・水沼信之)

このページのトップへ
  • トップ
  • 論文紹介 | 最新の論文要約とドクターコメントを掲載しています。
    • 2008年
    • 2007年
    • 2006年
    • 2005年
    • 2004年
    • 2003年
  • 消化器癌のトピックス | 専門の先生方が図表・写真を用いて解説します。
  • WEBカンファレンス | 具体的症例を取り上げ、治療方針をテーマに討論展開します。
  • 学会報告 | 国内外の学会から、消化器癌関連の報告をレポートします。
  • Doctor's Personal Episode | 「消化器癌治療」をテーマにエッセイを綴っています。
  • リレーエッセイ | 「消化器癌」をテーマにエッセイを綴っています。